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5章 遺産相続の意外な落とし穴[POSTED]:2017-11-17

遺産相続には落とし穴がいっぱい5章 遺産相続の意外な落とし穴

遺産相続でモメるポイントとしては、
①親が生きているうちの行動 ②分けられない財産 ③トラブルメーカーの存在
が挙げられます。

このほかにも意外にモメるポイントはあります。遺産相続で実際によくありがちな「落とし穴」というべきケースをいくつかご紹介していきましょう。

子どもがいない5章 遺産相続の意外な落とし穴

相続は、「相を続く」と書きます。

「人相」「手相」などの言葉があるとおり、「相」には「すがた」という意味があります。相続は、「相(すがた)を続くこと」ですので、つまりは「子どもがいること」を前提としてつくられているようなところがあります。
しかしながら、近年、子どものいない夫婦が増えています。2015年の国民生活基礎調査では、「夫婦のみの世帯」の割合は23.6%にものぼるとされています。
子どもがいない状態で夫婦の一方がなくなると、配偶者は相続人のままですが、子どもに変わって親が相続人になるのです。法定相続分は、配偶者が3分の2、両親が3分の1になります。
親がすでに亡くなっていれば、兄弟姉妹が代わりに相続人になり、法定相続分は配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1です。
子どもがいない夫婦の場合に相続人となる親や兄弟というのは、配偶者にとっては義理の親や義理の兄弟ということになります。もし遺言がない状態で相続が発生した場合、血がつながっていない親兄弟と残された配偶者が、全員合意が必須の話し合いをすることになるのです。
こういったケースでは一般的に、遺産分割協議は難航します。

夫婦二人の財産が、義弟に脅かされる5章 遺産相続の意外な落とし穴

子どもがいない夫婦の妻Tさんのケース

Tさんは40歳のときに、8歳上の夫を病気で突然亡くしました。夫の両親は既に亡くなっています。夫の相続財産としては、夫婦2人で貯めていた夫名義の共同貯金が3000万円あり、そのほかに2人で住む家が残されました。家のローンは完済しており、名義は夫のものでした。
48歳で突然亡くなるとは思っていないため、夫は遺言を残していません。
夫の兄にあたる義兄が、葬儀が終わったあとに、声をかけてきました。
「遺産について話をしなければいけない」
このときまでTさんは、夫婦2人で築いてきた家も預金も当然に自分のものになると信じて疑いもしていませんでした。
もっとも、義兄からは、「遺言もないことだし、法定相続分どおりに分けるとすると、兄弟も4分の1はもらえることになっている。しかし、名義は弟の物にはなっているが夫婦で築いてきた財産だし、私たち兄弟の相続分はゼロで考えている」との言葉をもらい、ほっとしていました。
ところが、です。もう一人の兄弟、夫の弟がこれに異議を唱えました。
というのも、Tさん夫婦が住んでいた家は、夫が夫の親から相続した土地の上に建てた家でした。
義弟は、「うちと血縁のない人のものになるのは納得がいかない。土地の権利を法定相続分どおりの8分の1を譲れとはいわないが、8分の1にあたる金額を支払ってほしい」と要求してきたのです。
義弟とはあまり付き合いがなかったのですが、突然、こういったことを言い出したということでした。
このケースの場合、義弟から請求されれば、支払わなくてはいけません。義弟も法定相続人には違いありませんから、相続分を請求する権利があります。
なお、注意しなければいけないのが、義兄が相続放棄をした場合です。「名義は弟の物にはなっているが夫婦で築いてきた財産だし、私たち兄弟の相続分はゼロで考えている」と話しているくらいなので、義妹のために相続放棄をする可能性もあります。
相続放棄をすると初めから相続人ではないことになります。
兄弟姉妹の相続分は4分の1ですので、義兄と義弟が相続人となった場合は各々の相続分が8分の1になりますが、義兄が相続放棄をすると、義兄はもともといないものとして考えられますので、義弟からは4分の1にあたる金額を請求されることになります。
義兄がTさんに気兼ねして相続放棄をすることで、義弟から請求される金額が2倍になってしまうのです。
義兄がTさんのことを思って「夫婦で築いた財産は妻であるTさんが相続すべきだ」と考えるのであれば、義兄が相続放棄をせずに遺産分割協議に加わり、自らの「相続分をゼロ」とすれば、義妹にとってほかの人間に渡さなければいけない財産が少なくて済みます。

遺言があれば、配偶者に全部の財産を残せる5章 遺産相続の意外な落とし穴

遺産分割というのは形式的には、個人の財産を分割するものですが、実質的にみれば、分割されるのは必ずしも個人の財産だけではありません。

夫婦ならば実質的には、2人で築いてきた財産です。夫婦で築いた財産が、義理の両親ならまだしも義理の兄弟姉妹にも配分しなければいけない場合があり得るのです。
しかも兄弟姉妹のうちにすでに亡くなっている者がいた場合は、甥や姪が代襲相続人となります。こうなると関係が一層薄い相続人と話し合いを行わなければならず、まとめることが難しくなるのです。
そのため、子どものいない夫婦は、必ず遺言を残しておくことをおすすめします。そうすれば、兄弟姉妹または甥姪は法定相続人になり得ても、遺留分までは認められません。兄弟姉妹または甥姪などに財産を渡すことなく、配偶者に全財産を相続させることができるのです。

離婚・再婚5章 遺産相続の意外な落とし穴

離婚をすることは、今や珍しくなくなったようです。

厚生労働省のデータ(2014年)によりますと、2015年における離婚件数は(離婚した夫婦の数)226,215組です。1970年の95,937組と比べますと、約2.4倍になっています。
また、離婚をしたのち、再婚をする方も増えています。
国立社会保障・人口問題研究所のデータによると、2014年の男性の再婚は124,368人で、全体の約19%を占めています。女性の再婚は106,585人で全体の約17%となります。
このように、離婚や再婚を繰り返せば、当然のことながら、相続は複雑化します。
その上、それぞれの婚姻生活において子どもが生まれた場合は、さらに遺産分割協議に影響が出ます。

先妻との間に一人、後妻との間に一人の子どもがいるケース

28歳の男性Fさんは、両親が中学生のときに離婚したため、そのあとは母親に育てられました。
離婚後、酒やたばこで気を紛らわす母親とは対照的に、一流企業に勤めて高給取りの父親は、若い女性と再婚し女の子が生まれました。20歳も歳の離れた義妹は今年、御三家と呼ばれる有名小学校に入学し、父親は幸せな家庭を築いているとのことです。
Fさんの母親は、離婚後、攻撃的な性格になったといいます。息子であるFさんに対しても、たびたび、「離婚した後の女性は、正妻の地位から滑り落ちた瞬間、あたかも2号のような扱いを受けている気がする」と話して、あたり散らしていたそうです。もともとの攻撃的な本性が離婚を招いたのか、離婚後の荒れた生活のせいで性格が攻撃的になったのかはわかりません。
Fさんは、母親から父親の悪口をいつも聞かされて育ちました。自分を捨てた後でも幸せに暮らす父親に対する不満を散々口にしたうえ、相続が発生した場合には1円も残さず搾り取ると意気込む母親の姿を見てきたのです。
父が死亡し相続が発生した事実を知ったFさんは、「母親と自分を捨てた父親からできるだけ多くの財産をとりたい」「母を捨てた父に対して、母との婚姻期間12年分の慰謝料を含めた相続分を請求したい」と考えています。

まず、離婚した先妻であるFさんの母親は、相続人にはなりません。

婚姻生活が何年続いたとしても、相続開始時に婚姻関係がなければ、相続権は発生しません。極端なことをいいますと、40年連れ添った夫と離婚が成立した翌日に、元夫が死亡してしまっても、1円も相続権がないのです。本来配偶者であれば相続財産全体の2分の1をもらえるはずでしたが、離婚した途端1円たりとも相続することができなくなるのです。もちろん慰謝料としての相続分を請求したいなどという請求は通りません。
これに対して、元妻との間の子どもであるFさんは、父母が離婚をしても依然として子としての立場は変わりませんので、相続人のままです。義妹と同じ割合で相続することができます。ただし、相談者が、母の慰謝料分を母に代わって請求できるかというと、そのような法的権利もありませんので、法定相続分以上を請求することは難しいでしょう。
離婚後において子どもに会う権利である面接交渉権を確保できていて、週に一度、子どもと会っている父親もいれば、離婚してから子どもと一度も会っていない父親もいます。
とはいえ離婚後は、親権を確保した母親に連れて行かれた子どもと父親とが、接触せずに生活しているケースが多いのが現実です。
それどころか、Fさんのケースのように、離婚相手を忌まわしく思い続ける母親から、父親の悪口を聞かされて育っている可能性もあります。
また、離婚後に子どもが父親と会うことがあるかどうかはともかく、異母兄弟である義理の兄弟と会うことはほとんどないでしょうし、子どもが父親の再婚相手の女性と会うこともないはずです。
ところが、相続では、これらのメンバーは皆、相続人になるのです。そのうえ、遺産分割協議は全員合意がルールです。
このような場合においては、遺産相続トラブルに発展することが多く、遺産分割協議もスムーズには進まないでしょう。
だからこそ、遺言が必要です。遺言を残すことで、遺産分割協議を経ることなく遺産分割ができますし、現在の妻に自宅不動産を相続させて住環境を確保したり、特定の子どもにより多くの遺産を相続させたりすることもできます。
再婚された方で、前妻との間に子どもを残してきた方は、遺言を作成しておくことをおすすめします。

連れ子がいる場合5章 遺産相続の意外な落とし穴

連れ子を伴っての結婚も増えているようです。

再婚率が年々増えていることは先に述べました。2015年の厚生労働省のデータによりますと、同年の離婚総数は226,215件。そのうち親権を行わなければいけない子がいる夫婦の離婚数は132,166件で、離婚の約6割は未成年の子がいるケースとなります。

子どもが小さいうちに離婚して、その子どもを連れて再婚したHさんのケース

Hさんは、夫との性格の不一致や嫁姑問題のことなどでモメて、息子が1歳のときに離婚。その3年後に縁あって、今の夫と再婚することになりました。息子は、まだ小さかったため、前の夫の記憶がなく、今の夫のことを本当の父親と思っています。
やがて、今の夫との間にも男の子が生まれ、家族は皆、幸せな毎日を過ごしています。

このような家庭で夫が亡くなった場合、相続人は誰になるのでしょうか。
当然のことながら、妻であるHさんは、配偶者ですから必ず相続人になります。
では、妻以外の2人の子どもはどうでしょうか。夫婦間で生まれた次男は相続人になる一方で、連れ子である長男は亡くなった被相続人の子どもではないので相続人にはなりません。
本当の子と同様に可愛がっていたとしても、亡夫の世話を本当の子ども以上に献身的にしてくれたとしても、連れ子は相続人でない以上、亡夫の財産を当然に受け取ることはできないのです。
実態としては親子関係があるにもかかわらず、法的に親子ではないために相続が発生しないということになります。
極端な話、実の親子だと思っていたのに、相続をきっかけに父親(もしくは母親)と血がつながっていないことが判明し、しかも遺産相続では何ももらえなかったということもあり得るのです。

特に連れ子が小さいうちの再婚は、夫婦の本当の子どものようにして育てられることもあり、連れ子自身が育ての父親を本当の父親であると思っている場合もあります。
その後、夫婦の間に子どもが生まれても、分け隔てなく子どもたちを可愛がっている幸せな家庭もたくさんあります。しかしながら、連れ子は育ての父親の法定相続人ではありませんから、その育ての父親が遺言を書いていなければ、連れ子には財産が残せないのです。

連れ子と養子縁組をする5章 遺産相続の意外な落とし穴

では、このような場合、連れ子に財産を残すにはどうすればよいのでしょうか。

答えは「養子縁組」です。養子縁組をしていれば、連れ子との間に親子関係が発生しますので連れ子も自分の子どもとして法的に認められます。
もう1つ、連れ子に財産を残す方法があります。
遺言で遺贈を行うことです。遺贈とは、遺言によって相続人以外の人間や法人に対して財産を渡すことをいいます。遺言で決められることは、相続人の取り分だけに限りません。遺言では相続人以外の人間に財産を渡すこともできます。
連れ子は相続人ではありませんが、遺言で遺贈することによって財産を残すことができます。

内縁の妻は、相続できない5章 遺産相続の意外な落とし穴

内縁の配偶者とは、婚姻届が出されていないものの、実質的な夫婦関係にある配偶者のことです。

内縁の配偶者には相続権はありませんので、たとえ長い間、普通の夫婦と変わらない生活を送ってきたとしても、相手の財産を相続することはできません。
相続人でない内縁の配偶者に財産を残したいときは、生前贈与をするほかに、遺言で遺贈をする方法があります。

内縁の配偶者との間の子はどうなるか

そもそも認知していなければ内縁の配偶者との間の子と親子関係は成立しませんので、相続権は一切ありません。認知とは、父親が生まれてきた子を「自分の子である」と認めることです。認知している場合、内縁の配偶者との間の子にも嫡出子と同様の相続分が認められることになります。
養子縁組をすると、養子は嫡出子になります。血のつながりはありませんが、養子縁組によって法的な親子関係が成立しますので、血を分けた子ども(実子)と同じく嫡出子の立場になります。一方、血を分けた子ども実子であっても、認知をされていても、内縁の妻の子(婚姻関係にない男女から生まれた子)は非嫡出子とされますが、養子の嫡出子の同様の相続権が認められます。
認知されていない子どもの場合は、法定相続分はゼロです。
認知していない場合は、遺言によってその子を認知することもできますし、認知は他の家族の関係で難しい場合には、遺贈により財産を残してあげることもできます。
もっともそれぞれ遺留分を侵害した場合には相続人から減殺請求を受けますが、遺言を残すことで、本来財産を相続することができなかった内縁の配偶者やその者との間の子に財産を残すことができます。

未成年の子でも相続できる5章 遺産相続の意外な落とし穴

未成年の子どもも相続人には違いありません。ただし、相続人の中に未成年がいる場合、遺産分割協議は難航します。

未成年者の場合、親権者が法定代理人になります。親権者とは子を教育・保護し、子の財産を管理する者で、通常は両親が親権者となっています。
未成年は法定代理人(親権者)がいない状態で遺産分割協議に参加することはできませんが、未成年者と親権者が共同相続人となる場合などは利益相反関係になるので、親権者が代理人となることができないのです。
これは親権者自身も相続人になっているので、自分自身の利益を考えて子どもの不利益に行動してしまう恐れがあるという考えによります。
このような場合は、家庭裁判所で特別代理人を選任する必要があります。そして、この特別代理人が未成年に代わって遺産分割協議を行います。

また自分が死んだ後に子どもの親権者がいなくなる場合には、子どものために未成年後見人を選任する必要があります。最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができます。
未成年後見人には親権者とほぼ同様の権利義務が与えられます。大切な子の行く末が心配でない人はいないと思います。子どもが未成年のうちに片親が亡くなり、ひとり親となった場合には、一番信頼できる人に子どもの面倒をみてもらえるように遺言で指定しておきましょう。
遺言によって指定していない場合は、親族などの請求により家庭裁判所が選任することになります。

遠い親戚より近くの他人5章 遺産相続の意外な落とし穴

「おひとり様」という言葉が市民権を得てから久しくなります。

一人暮らしの老人も多く、子どももすでにいない場合も多いようです。

生涯を独身で過ごした大学教授Tさんのケース

Tさんは東京郊外のマンションに一人暮らしを続けていました。70歳で定年を迎えてからは趣味の読書で毎日を過ごしています。
親戚もおらず、財産を残す相手も特にはいません。
いろいろと考えた挙句、Tさんは母校の大学に遺産を寄付することに決めました。遺言を作成し、自分が亡くなった後に母校に財産が渡るように準備をしました。
遺言で、学校や公共団体へ寄付することもできます。その場合は遺言を執行する遺言執行者も合わせて指定することで、自分の財産を、確実に、有意義に使ってもらうことができます。
Tさんのように相続人がいない方が遺言を残さず、「特別縁故者」もいない場合、遺産は国庫に帰属する、つまり国のものになります。特別縁故者とは、被相続人と緊密な関係があった人のことをいい、例えば、被相続人と生計を同じくしていた者や被相続人の療養監護に努めた者などです。具体的には内縁の妻や従兄弟のように相続権が発生しない関係ではあるが、それに近い関係にあった者が特別縁故者になりえます。
国のものになる前に、特別縁故者などに財産を残すことができます。

被相続人がお世話になった人が当然に特別縁故者として認められるわけでも、当然に財産を受け取れるわけでもなく、家庭裁判所の手続きを経る必要があります。一定の期間を経て所定の手続きをとり、裁判所の判断次第でもらえるかもらえないかが決まるのです。
つまり、特別縁故者にあたると判断していたとしても、何も講じずにいれば財産を受け取れないこともあり得るということです。
被相続人が遺言を残していれば、特別縁故者などお世話になった人に、確実に、財産を残すことができます。
なお相続人は存在しないと被相続人が思っていても、調べてみると相続人が存在していたということはよくあることです。戸籍などを調べて、本当に相続人が存在しないかどうかを再度確認してみることが重要です。

面倒を見てくれていた嫁に財産を残したい5章 遺産相続の意外な落とし穴

嫁は、家族関係では身内だけれども、遺産相続の場面では第三者という立場です。
しかし、家族関係では身内の嫁です。世話になったと感謝する舅や姑もいます。

長男の嫁であり、夫が亡くなったあとも、夫の実家に残り、夫の母親の介護をしてきたFさんのケース

夫の父親は既に亡くなっています。Fさんとしては、義母とずっと同居してきたこともあり、使命感もあって、義母の面倒を看続けていました。
しかし、介護生活11年の果てに、義母はとうとう亡くなりました。
この場合の相続はどうなるでしょうか。

どんなに介護したとしても長男の嫁であるFさんは相続人ではありません。
寄与分は、共同相続人の中に被相続人の財産の維持・形成に特別の寄与をした者がいる場合、この者に対して特別に与えられる相続財産への持分のことをいいます。つまり、寄与分が認められるにはあくまでも相続人であることが前提条件になっていて、相続人ではない長男の嫁は寄与分を主張する前提を欠きます。

Fさんは「夫の母親は自分の母親」と思って一生懸命に使命感を持って介護をしてきました。夫が亡くなった後も同居していた嫁が義理の親の面倒をみるということもあります。殊勝な嫁は平成の世にもまだ存在しているのです。しかしながら遺産相続においては、嫁は相続人ではないため何も受け取ることができず報われないのです。そして、介護をしていない夫の兄弟に遺産がいってしまいます。

このような場合は、嫁に対して生前贈与または遺言による遺贈をすることで、お世話になった嫁に感謝の気持ちとして財産を残してあげることができます。それ以外の方法で嫁に財産を残してあげることは難しいですから、お世話になった嫁に感謝の気持ちとして財産を残してあげたいと考えている場合は、事前にこれらの対策を講じておきましょう。

借金について5章 遺産相続の意外な落とし穴

財産には、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産もあります。

こういった場合、まさに遺産相続における落とし穴というべき事態になりがちです。
多額の借金などマイナスの財産が多い場合は、相続開始を知ったときから3カ月以内に「相続放棄」をすれば、マイナスの財産を相続をしなくてすみます。
相続が開始したことを知ったときからの3カ月間というのは、「①単純承認(プラス財産もマイナス財産もそのまま受け継ぐこと)」、「②限定承認(プラス財産の範囲内で借金を返し、結果的に財産が残れば相続すること)、「③相続放棄(無条件に財産の一切を放棄すること)」の3つの方法のなかから、一つを選ぶ期間です。
もし、借金が多くて返せない場合は、②③を3カ月以内に家庭裁判所に申述しなければいけません。①を選ぶ場合は、とくに法的な手続きは必要ありません。何もせずに3カ月が経てば、無条件で単純承認したことになります。
しかし、悪質なローン業者は、借金があることを知りながら、相続人らに3カ月間連絡をせず、単純承認をさせてから、連絡してくることがあります。こうした場合は、借金を引き継がなければいけない可能性が高いので気をつけてください。
盲点となるので注意しなければならない点は、マイナスの財産である借金などの債務について、相続人同士で決めた分割割合を当然に債権者に認めさせることはできないことです。プラスの財産は相続人同士が話し合いによって自由な割合で分割できますが、マイナスの財産である債務についてはそうはいかないのです。
例えば、特定の相続人がプラスの財産もマイナスの財産もすべて相続するという分割内容で遺産分割協議が成立した場合、相続人同士ではこの相続人が債務もすべて相続するということで構いません。しかし、ほかの相続人が債権者から弁済を請求された場合は、支払う必要があるのです。相続放棄をしていない限りは、特定の相続人以外の相続分をゼロにしても、債務については法定相続分に応じて債権者に対して負担することになります。これは、資力がない相続人に債務をすべて負わせる遺産分割協議内容によって、債権者が借金を回収できなくなることを防ぐ目的です。

連帯保証人になっていませんか?5章 遺産相続の意外な落とし穴

マイナスの財産のなかでも、「連帯保証人」となると、さらに事情が難しくなります。

連帯保証人は、債務者と同等の支払い義務を負います。
「保証人」と「連帯保証人」の違いも理解しないまま、連帯保証人になってしまう人がほとんどですが、保証人はあくまで債務者を補完する存在であるのに対して、連帯保証人は債務者と同様の責任を負います。
もちろん、自分が代表を務める会社についての債務について連帯保証人になっていれば忘れることはないでしょうが、例えば、友人が借金をする際に連帯保証人になった記憶はないでしょうか。その友人とも疎遠になっていて、自分が連帯保証人になったことさえも忘れているということはないでしょうか。
被相続人に借金がないと思っていたからこそ相続(単純承認)したのに、自分の知らないところで親が連帯保証人になっていたがために、連帯保証人としての地位も相続してしまった、ということも珍しくありません。結果として、まったく知らない親の友人の連帯保証人になってしまったということがあります。あるいは、死ぬ数年前から認知症になっており、連帯保証人になっていることを告げることなく被相続人が亡くなり、相続人らが相続(単純承認)した3年後に債権者から知らせが届き、多額の借金を背負うはめになった例もあります。
連帯保証人になる恐さは、相続の場面でも出てきます。まさに落とし穴ともいうべきことです。
やむを得ず連帯保証人になってしまった場合には、必ず相続人である家族に知らせておくこと、書面に残しておくことが重要です。

このように、遺産相続でありがちな落とし穴はいくつかあります。家族関係が複雑になると、落とし穴にはまるパターンは多くなります。
社会の形が変わるにつれ、相続でモメるパターンは変化していきます。こうした変化に対応するためにも、「遺言」の存在は重要だといえるでしょう。

弁護士の珍プレー5章 遺産相続の意外な落とし穴

弁護士は対立する双方の当事者を代理してはいけない、というルールがあります。例えば、離婚事件で夫と妻が対立しているのに、1人の弁護士が両方の代理人を務めて裁判をすることはできません。一方の代理人の立場で仕事を進めることにより、他方の当事者にとって不利な活動をしてしまうからです。
もっとも、遺産分割協議では、調停に移行する前の段階で、1人の弁護士が複数の相続人の代理を務めていることがあります。相続人同士が対立していない状態で、遺産分割協議の進行役を務めるだけということであれば問題ありません。しかし今は対立していなくても、将来的にお金を巡って対立が表面化することもあります。遺産分割協議の議題が、財産をどう分けるかのため、潜在的な対立は常に存在していると考えてもおかしくありません。
長男と次男との間の遺産分割において、長男が連れてきた弁護士が協議を主宰します。弁護士は事実上、依頼者である長男の利益を考えて行動する可能性がありますから、長男が取得する不動産であれば、評価額をできるだけ低く見積もるなど依頼者に有利な提示をすることでしょう。弁護士の提案を吟味できるだけの知識が、次男にあるとは限りません。結果、「弁護士が言うのだから間違いないだろう」ということで、長男の思惑通りの遺産分割が実現してしまいがちです。
情報の開示が不適正な弁護士もいます。やはり長男と次男との間の遺産分割協議で長男が弁護士を連れてきたとします。弁護士が開示した財産目録に書かれた預金残額は、実際よりも少ないのではないかと次男が疑っています。問いただしても、長男も、弁護士も、これしかないと言い張ります。長男は被相続人と同居していたので、次男よりも情報をたくさん持っています。怪しいと感じた次男は別の弁護士に相談し、遺産分割協議における次男の代理人に就いてもらいました。次男の弁護士が調査したところ、長男の弁護士が作成した財産目録には書かれていなかった被相続人名義の銀行口座が複数見つかり、合計で数千万円にも上りました。しかも、財産目録に書かれていた預金口座の一部からは、相続開始後も1000万円ほどが長男によって引き下ろされていました。
「これはもう詐欺だ」と次男は憤り、遺産分割協議は調停に移行しました。
「最初から本当のことを言ってくれていれば、細かい数字にこだわるつもりはなかった。兄や兄の弁護士が私を騙そうとしたことが許せない」
結局、遺産分割調停はモメにモメました。
銀行口座の存在や預金の引き下ろしなど調査が可能な財産は、隠していたことがばれれば、モメる原因になります。
弁護士は結局、特定の依頼者の利益を図るものです。もともと複数の相続人全員の代理ということは、対立があれば原則としてできませんし、対立がなさそうに見えても実は存在していることもあります。
誰の代理人なのかという立場を不明確にしたまま遺産分割協議に割って入っても、公平な進行役を務めることはできないでしょう。特定の相続人の代理人であることを明言してもよいのではないでしょうか。他の相続人には、自分の提案を批判的に検討して欲しいと告げるくらいがちょうどよいと思います。

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