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    [CATEGORY]:会社支配権争い

引退した両親の再登板「世代戻り」を防ぐには【赤福】[POSTED]:2019-08-14

事業承継後の「世代戻り」に注意

先代が一度譲った経営者の地位を後継者から取り戻す「世代戻り」のケースは少なくない。赤福や大塚家具の事例がそうだ。
共通するのは、後継者が経営路線を変更したことだ。
先代の経営路線をそのまま承継していれば、先代も不満はないかもしれない。しかし、後継者によってビジネスモデルが転換されると、先代からすれば、自ら作り上げた過去のビジネスモデルを否定されたような思いとなり、後継者に対する不満が募る。それが限界まで来たのだろう。

仮に後継者の経営手腕によって会社経営が順調であるとすれば、「世代戻り」は単なる悪あがきとしか映らない。社員を混乱させるだけでなく、取引先からの信用失墜、レピュテーション毀損など、色々なリスクが付いてくる。
赤福の場合で言えば、典保氏の立場からすれば、いかに社長として経営の実権を握り、業績が好調だったとしても、経営路線を大きく変更したのだから、「世代戻り」に細心の注意を払わねばならなかった。

偽装事件で不本意な引退を強いられた益嗣氏は、自分の意思で引退したわけではない。事業意欲は衰えてなかったようだし、大株主である濱田総業の社長として、赤福に対して未だ絶大なる影響力を持っていたのだからなおさらである。
また同族会社にとって、会社は家庭の延長上にあるもの。親子では遠慮もなく、何でも言いたい放題で、感情を全面に押し出して言い争うことにもなりかねない。そうなると対立は決定的になる。一度こじれると、かえって家族同士の方が解消しにくく、深い禍根を残すものだ。

資産管理会社の乗っ取りにより事業承継後の「世代戻り」を防ぐ

典保氏が益嗣氏に完全引退するよう説得しても、逆に益嗣氏の反発を買い、親子の溝が深まってしまうだけ。典保氏の立場からすれば、「両親が再登板できない状況」を意図的に作り出しておくべきだったといえる。
益嗣氏の支配下にある濱田総業は、持株比率 84%を超える赤福の大株主であり、濱田家の資産管理会社でもある。益嗣氏自身も個人で8%の赤福株を保有しているため、益嗣氏側は実に赤福の発行済株式の 92 %を支配していることになる。

益嗣氏がその気になれば、たとえ典保氏が拒否しても、全部取得条項付種類株式や「※特別支配株主の株式等売渡請求制度」を利用することで、残り8%の株式も強制的に買い上げることが可能。 MBOを仕掛けるなど、正面から益嗣氏と対決しても到底勝ち目がない。
ならば、濱田総業を乗っ取ることを画策するのも手だろう。奏功すれば、益嗣氏の復帰はまずなかったと考えられる。 濱田総業は濱田一族が大株主であるもようだ。内情がわかれば乗っ取る手段も検討でき

保有する株式の議決権を増強して事業承継後の「世代戻り」を防ぐ

1株に複数の議決権を与えられる複数議決権株式を利用することで、赤福の各株主の持株比率をそれほど変えずに、典保氏が赤福に対してより多くの議決権を獲得することも可能である。 例えば、 比重株や「※VIP株」を典保氏に与えることが考えられる。

議決権は通常1株あたり1個だが、例えば、「※定款」に「当社の代表取締役が所有する株式は、1株につき 1000個の議決権を有する」と記載することで、代表取締役である典保氏の議決権はその地位が継続する限り、通常の株式の1000倍となる。その結果、持株比率が8%しかない典保氏でも過半数の議決権を保有することができる。
しかも、会社からの配当金は原則株式数により決定されるので、典保氏の株をVIP株にしたとしても、益嗣氏やその他濱田総業の株主や従業員である創業家一族への分配金が減るわけではない。つまり、濱田一族の者に経済的な損害を与えるわけではないのだ。

定款変更するには、株主総会で「※特殊決議」が必要となるので、条件は非常に厳しいが、説得する相手は身内。実現可能性は残っている。
なお複数議決権株式は「※非公開会社」にしか設定できないので、注意が必要だ。

  • ※特別支配株主の株式等売渡請求制度…親会社が持分100%でない子会社を完全子会社にする場合、少数株主に対して現金を対価に子会社株の譲渡を求める制度。 90 %以上の議決権を持つ特別支配株主だけが使える。
  • ※VIP株…特定の株主(代表取締役など)が所有している限りは、複数議決権を有すると定められた株式のこと。 定められた人以外に譲渡されると、通常の株式と同じ扱いになる。
  • ※定款…会社の基本ルールを定めたもので、変更には株主総会に出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要。
  • ※特殊決議…総株主の半数以上の参加が必要で、総議決権の3分の2以上の賛成によって決まる。
  • ※非公開会社…定款で株式に譲渡制限をかけている会社

取締役の定年制を利用した世代交代

たたき上げの創業者や、これまで多大な功績を挙げた経営者に対し、完全引退を勧告することは難しい。
特に創業者はカリスマ性を持っているがゆえに、求心力があり、従業員からの信頼も厚い。引退を進言しようものならば、他の経営陣から逆賊扱いされてしまう危険もある。

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  • 2019-08-14
  • [CATEGORY]: 会社支配権争い
  • [AUTHOR]:遺産相続の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所

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