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遺産分割の無効を訴えるには【ニトリ】[POSTED]:2019-08-10
遺産分割で問題となる印鑑の無断使用
家族間において、印鑑の無断使用はしばしば問題となる。ニトリの事例でも、遺産分割協議書に勝手に実印を押印されたかどうかが争点となった。
例えば、金融機関から融資を受けるにあたり、親を保証人にしたり、親の不動産に抵当権を設定したりするために、無断で押印する「印鑑の無断盗用」のケース。
この場合、印鑑を無断使用した者が返済不能となり、印鑑を無断使用された親が金融機関から返済を請求された時に不正が発覚する。
「二段の推定」により判断される
実際に印鑑が無断使用されて争うケースでは、「二段の推定」が問題となる。
過去の判例によると、裁判所は、まず、印影が本人の印章(印鑑)によって押されたものである(印影と本人の印章が一致)場合、本人の意思で「押印」されたと推定する(第一段の推定)。更に、自らの意思で押印したのだから、文書全体が本人の意思に基づいて「作成」されたと推定する(第二段の推定)。
この裁判所の判断は、印鑑は慎重に取り扱われており、他人が勝手に使用できない、また本人は理由もなく印鑑を他人に使用させることはないという経験則に基づく。そのため、文書に本人の印鑑の印影があれば、本人が自ら押したか、本人がお願いして第三者に押してもらったかのいずれかと判断される。
この推定は絶対ではなく、「無断使用だ」と主張する当事者からの反証があれば、覆すことも可能だ。
遺産分割事件では印鑑の保管場所が問題となる
ニトリのケースでは、自分以外の相続人である4人の印鑑を預かっていた昭雄氏が、遺産分割協議書に無断で押印したという事実があったのかどうかが争われた。
ニトリのように家族内での印鑑の無断使用が問題となるケースでは、印鑑の保管場所を他の家族や関係者も知っていた場合や、家族全員分の印鑑を共通の場所で保管していた場合は、印影と印章が一致するからといって必ずしも本人の意思で押印されたとはいえず、第一段の推定を働かせる根拠を欠く。
訴えた4人は、印鑑の保管場所や管理体制などを主張して、昭雄氏が4人の印鑑に対してアクセスが容易にできたという証明を試みたはずである。
既に印鑑が押された書面があっても「本人の意思に基づく押印ではない」と窺わせる事情を検討することは重要だが、実際に反証に成功するハードルは高い。
裁判所は結局、4人の実印は各人が持っていたか、みつ子氏に預けていた可能性が高く、少なくとも昭雄氏に預けたものが無断使用されたという4人の主張を裏づける証拠はないと判断した。第一段の推定は覆らなかったのだ。
身内の醜い争いを防ぐためにも、家族であっても印鑑を預けてはならず、自分自身で大切に保管しなければならない。
遺産分割に関する争いを蒸し返さないために
問題の訴訟は控訴審で和解が成立した。
昭雄氏が遺産分割問題を解決するために、これ以上やらねばならないことはない。
ただ、裁判所でも認定されているとおり、遺産分割内容に極端な偏りがあったことは確かであり、今後もそのことで原告らが更なる騒ぎを起こすことも否定できない。
実際に後日、昭雄氏が自身の半生を語る内容で寄稿した全国紙のコラムについて、他の相続人から内容が虚偽であるとの告発があり、せっかくの誉れに味噌が付いてしまった。
こうなると世間や銀行から「お家騒動がまだ続いているのか」という印象を持たれ、「ニトリ」ブランドの更なるレピュテーション毀損のリスクや、銀行からの評価に悪影響を与える可能性もある。
家族内での争いを蒸し返さないためには、遺産分割とは別に金銭の贈与などを行う代わりに、原告に今後一切騒ぎを起こさない旨の誓約書を差し出させて、釘を刺しておくべきともいえよう。
この事例は遺産相続が絡むという意味で、一澤帆布の事例と類似する。相続そのものが問題となった場合は、一澤帆布の事例も参照されたい。
- 2019-08-10
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