3.不動産の評価が複雑な理由不動産相続の弁護士
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3.不動産の評価が複雑な理由相続における不動産の重要性
不動産の評価に絶対はない
「指値」という言葉がありますが、賃貸でも売買でも値切り交渉が前提になっています。日本のような先進国において、値切り交渉が可能な商品は不動産以外にはなかなか思いつきません。
このため、ある不動産がいくらなのかを正確に算出することは不可能です。同じ不動産であっても売り急いでいる売主であれば安く買いたたかれてしまいますし、理由があって特定の不動産にこだわりがあれば、買主は高値掴みをしてしまうこともあるからです。
よく、「不動産を狙うなら離婚の財産分与のために売却される不動産を」といいます。売却期限を設けるケースが多いため、交渉が先延ばしになりにくいのです。どうしても何月何日までに売らなければいけない、という期限があるので指値が通りやすい、つまり値段交渉がしやすくなります。離婚の際の財産分与では、これまでの生活の清算という意味合いが強いので、値段をあまり気にしなかったり、面倒な争いで疲れ切っていたりするで、早々と縁を切りたい、嫌な思い出が詰まった物件を売り払いたい、との想いから、離婚物件は安く買いたたけるということです。
遺産分割において不動産の評価額は、相続人全員が納得すればどのように評価してもいいことになっています。たいていは市場で取引されている価格、時価を基準とします。しかし、時価の指す数字自体がそもそもあいまいで不定型なものなので、いくらなのかははっきりとしていません。
そのため遺産分割においては、不動産の評価方法を巡って争いが起きることになります。
不動産をもらう側としては、できるだけ安く評価をして自分の取り分が少ないことを主張し、さらに他の財産の分け前をも請求します。逆に不動産をもらわない相続人は、できるだけ高く評価をして、不動産をもらう相続人が法定相続分以上にもらっていることを主張し、より多くの代償金を請求しようとしてモメるのです。
実際にあった話ですが、不動産屋の評価額査定証明を兄が提出した後、弟もたまたま同じ不動産屋に査定を依頼。依頼を受けた不動産屋が口を滑らせて、「できるだけ安く査定して欲しいとお兄さんから言われています」とうっかり漏らしてしまったことで、不動産査定を巡る紛糾が激化したことがあります。
遺産分割ではよく、財産の査定を自分に有利に算出することがあります。自分の息のかかかった業者が作成した査定を証拠として提出するということは珍しくありません。ですから、このような場面に遭遇した際には、相手方の提出した査定結果をくれぐれも鵜呑みにせず、自身でも調べるようにしてください。
4つの評価額
不動産の正確な評価額を算出することが難しいことは既に述べたとおりです。
そもそも不動産の価格の指標には複数のものが存在します。
不動産のうち土地は、一物多価と呼ばれるように、実勢価格(時価)の他に、公示価格、相続税評価額(路線価)、固定資産税評価額などの様々な評価額があります。
実勢価格(時価)
実勢価格とはいわゆる時価をいいます。市場で実際に取引されている平均的な価格です。公示価格の100~110%程度が通常とされていますが、相場変動の厳しい時期や不動産の状況によって変動します。
公示価格
地価公示法に基づいて、適正な地価の形成に寄与するために、国土交通省の土地鑑定委員会が不動産鑑定士による鑑定結果を基に発表する、毎年1月1日時点における標準地の正常な価格です。
一般の人が土地の取引や資産評価をするにあたり、土地の適正価格を判断する客観的な目安として国が発表する評価額で、3月下旬ごろに公表されます。公用地買収や補償の基準となるほか、取引の目安価格になります。買主や売主の諸事情や思惑に左右されない正常な土地の価格といえます。ただし、すべての土地に公示価格が付設しているわけではありませんので、必ずしも参照できるとは限りません。
相続税評価額(路線価)
相続税や贈与税の計算をする際に使われる宅地の評価額の基準となる土地の価格です。国税庁が毎年1月1日時点における路線価を財産評価基準として7月頃に公表します。公示価格は土地そのものについての価格なのに対して、路線価は土地に面した道路の値段を基準に評価額が計算されています。
鑑定評価等を活用し、相続税法に基づいて調査が行なわれ、国税局がそれぞれの価格を決定します。路線価は市街地を中心に付設され、公示価格の80%程度の価格となっています。
ただし、この80%という相関関係も、例外なくあてはまるわけではなく、特に地方都市ですと、路線価よりも時価の方が低くなっている場面もあります。
固定資産税評価額
固定資産税評価額とは、市区町村長(東京23区の場合は都知事)が決定し、市町村(東京23区の場合は都税事務所)が示す土地の価格です。固定資産税評価額は、固定資産税、不動産取得税、登録免許税など、土地と家屋にかかる税金の基準となります。固定資産税評価額は、3年ごとに見直され、一般的に公示価格の70%程度といわれています。
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評価方法が複数ある理由
上記で説明したとおり、不動産の評価額はそれぞれの場面によって変わってきます。同じ不動産に対していくつもの価格があることに戸惑いを覚える方も多いはずです。特に固定資産税評価額などは不動産をお持ちの方ではないとピンとこないかもしれません。
相続においては、実勢価格(時価)と路線価の2つは最低でも押さえておく必要があります。
遺産分割においては、遺産分割時の不動産の実勢価格(時価)で評価されます。
遺産分割に時間がかかって、不動産の価格が相続開始時(被相続人が死亡した日)よりも乱高下したとしても、最終的に分割する時点での時価で遺産分割がされるのが一般的です。
第二次安倍政権が誕生する直前の平成24年12月に成立した遺産分割調停のことです。株式の配分が問題になっていたのですが、上場株式が値上がりすることを見越していた依頼者は、株式をもらうことを選択。結果、株式は値上がりして依頼者はうまく売り抜けたようです。他方で、不動産をもらうことを選択した相手方は、株式市場に比べて周辺の不動産市場の動きが鈍く、株で大儲けした依頼者ほどにはうまみが無かったようです。遺産分割で勝つには、不動産や上場株式のような値動きのある財産について的確な市場把握をすることも必要です。
一方、相続税においては、不動産は実勢価格(時価)ではなく路線価により評価されます。相続開始時(被相続人の死亡日)の評価が基準になります。
たとえば、平成25年の12月に相続が開始した場合は、相続税の申告時(平成26年10月)ではなく、平成25年分の路線価を確認し、不動産を評価します。相続開始時の価格が基準になり、遺産分割のように分割時の価格ではないので注意が必要です。
遺産分割の際に、相手方が税理士の作成した相続税申告用の財産目録を持参して、当然にこの価格で分割を進めようとする場合があります。相続税で使用する相続税評価額(路線価)と遺産分割で使用する実勢価格(時価)に違いがあるのは既に説明したとおり。それを知らない相続人に対して、税理士が作成し相続税申告用の評価額が遺産分割においてもあたかも絶対かのように主張してくる場合がありますので注意が必要です。
なお、相続税評価額(路線価)や固定資産税評価額が実勢価格や公示価格より低く設定されている理由は、相続税評価額等が高いとそれにともない相続税が高くなりますので、相続税を納めるために売却を急がせ、結果として相続財産の土地が安く買いたたかれるようなことを避けるためといわれています。
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分けられない財産の典型である不動産。不動産の評価について相続人間でモメます。そもそも不動産が相続財産かどうかも問題になります。不動産を独り占めする財産の不正操作と最後まで戦います。
- 2019-08-19
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