相続税の税務調査相続税の税理士
1.相続税・税務調査の現状相続税の税務調査
平成26年12月に国税庁が発表した、平成25年中に亡くなった人から、相続または遺贈により、財産を取得した者についてのデータによると、被相続人数(死亡者数)約127万人のうち、相続税の課税対象となった被相続人の数は約5万4,000人で、課税割合は4.3%になります。
課税価格は約11兆6,253億円、被相続人1人当たりの課税価格は約2億1,362万円で、被相続人1人当たりの申告税額は約2,824万円です。
相続財産の金額の構成比は、土地が41.5%、現金・預貯金等が26.0%、有価証券が16.5%、家屋が5.2%です。
相続財産の金額の構成比の推移
同じく、国税庁が平成26年11月に発表した相続税の調査の状況の概要によると、平成23年中及び平成24年中に発生した相続を中心に、国税局及び税務署で収集した資料情報を基に、申告額が過少であると想定されるものや、申告義務があるにもかかわらず無申告となっていることが想定されるものなどに対して実施して行った調査で、税務調査(実地調査)を実施した件数は、11,909件。このうち申告漏れ等の非違があった件数は9,809件で、非違割合は82.4%となっています。
申告漏れ課税価格は3,087億円で、実地調査1件当たりでは2,592万円、申告漏れ相続財産の金額の内訳は、現金・預貯金等1,189億円が最も多く、続いて土地412億円、有価証券355億円の順となっています。
追徴税額(加算税を含む。)は539億円で、実地調査1件当たりでは452万円になっています。
申告漏れ相続財産の金額の推移
PAGE TOP2.税務署はどのようにして「相続」を知るのか相続税の税務調査
被相続人が亡くなってから、突然税務署から「相続税の申告のご案内」と題する案内と共に「相続税申告書」または「相続についてのお尋ね」が届くことがあります。実は、この封書は、相続が開始したときに全員に当然に届くものではありません。税務署の判断によって、このような通知が届く場合と届かない場合があります。
税務署はどのようにして、相続開始(被相続人の死亡)を把握し、ご案内の送付対象者を選別しているのでしょうか。
(1)被相続人の財産についての調査
被相続人が死亡した場合、被相続人の親族や同居者が死亡の事実を知った日から7日以内(国外で死亡したときは、その事実を知った日から3か月以内)に、その死亡地もしくは本籍地等の市町村長に対し、死亡届を提出する義務があります。
死亡届の提出を受けた市町村長は、提出を受けた日の翌月末日までに死亡届に記載された内容を所轄内の税務署長に通知(相続税法58条「市町村長その他戸籍に関する事務をつかさどる者は、死亡又は失踪に関する届書を受理したときは、当該届書に記載された事項を、当該届書を受理した日の属する月の翌月末日までにその事務所の所在地の所轄税務署長に通知しなければならない。」)する義務があるため、税務署はこの通知により、被相続人の死亡、つまり相続が開始した事実を知ります。
(2)相続税申告書等の送付
税務署は、被相続人の住所地の市町村から固定資産税課税台帳を入手し、被相続人の所有不動産とその固定資産税評価額を把握したり、死亡した者の確定申告情報や、関係法人情報等の収集した資料を基に、被相続人にかかる相続財産について相続税が課税されるかどうかを判断します。所得税の申告と異なり、相続税は被相続人の数がある程度予測でき、課税対象者を様々なデータから絞り込むことができます。
課税の判断がなされた場合にはその相続人代表に対し、相続税の申告書を送付します。
相続税が課税されるかどうか微妙な場合には、先に相続人代表に対して「相続についてのお尋ね」を郵送し、その回答内容に応じて相続税申告書を送付することになります。
相続税を納付する必要がない場合は、税務署に対して、相続税の申告書の提出は必要ありませんが、相続人が相続税を納付する必要がないと判断しても「相続についてのお尋ね」についての回答は無視することはできません。
税務署から、「相続税申告書」や「相続についてのお尋ね」が送付されたというのは、土地の所有等の情報はもちろん、その他の一定の財産を調査したうえで送付されたということになります。つまり、税務署がある程度の情報を持って、相続税の課税対象の可能性があると確信した上で行っているということをご理解ください。
ただし、財産や遺産分割の内容によっては必ずしも相続税の申告が必要になるとは限りません。
相続開始から申告書・お尋ね送付までの流れ
【コラム】大口資産家ファイルとは?
税務署(大口の資産家については国税局)には、資産家に対する様々な財産にかかる資料が集められています。相続が発生した後には、金融機関対して預貯金の照会をして被相続人や相続人の預貯金を調査します。これらの資料と相続税申告書に記載された財産とすり合わせて申告漏れ財産がないかの確認をします。
税務署に集められている資料
①所得税申告書関係 |
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②源泉徴収票 ・支払調書関係 |
など |
③その他の資料 |
など |
3.相続税の税務調査とはどのようなものか相続税の税務調査
相続税など国税の調査について定める国税通則法第7章の2において、調査とは、国税に関する法律の規定に基づき、特定の納税義務者の課税標準等または税額等を認定する目的その他国税に関する法律に基づく処分を行う目的で税務職員が行う一連の手続、具体的には証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用などをいうとされています。
国税通則法第7章の2
「調査」の意義 1-1
(1) 法第7章の2において、「調査」とは、国税(法第74条の2から法第74条の6までに掲げる税目に限る。)に関する法律の規定に基づき、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的その他国税に関する法律に基づく処分を行う目的で当該職員が行う一連の行為(証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用など)をいう。
(注) 法第74条の3に規定する相続税・贈与税の徴収のために行う一連の行為は含まれない。
(2) 上記(1)に掲げる調査には、更正決定等を目的とする一連の行為のほか、異議決定や申請等の審査のために行う一連の行為も含まれることに留意する。
(3) 上記(1)に掲げる調査のうち、次のイ又はロに掲げるもののように、一連の行為のうちに納税義務者に対して質問検査等を行うことがないものについては、法第74条の9から法第74条の11までの各条の規定は適用されないことに留意する。
イ 更正の請求に対して部内の処理のみで請求どおりに更正を行う場合の一連の行為。
ロ 期限後申告書の提出又は源泉徴収に係る所得税の納付があった場合において、部内の処理のみで決定又は納税の告知があるべきことを予知してなされたものには当たらないものとして無申告加算税又は不納付加算税の賦課決定を行うときの一連の行為。
税務に関する執行機関は、国税庁、国税局、税務署であり、実際に税務調査を実施する機関は、国税局と税務署です。国税庁は、下部組織である国税局の指導監督をする機関のため、調査を行いません。
税務職員は、相続税の調査について必要があると判断したときは、納税者(相続人や受遺者など)などに質問し、または被相続人の財産もしくはその財産に関する帳簿書類その他の物件を検査し、またはこれら物件の提示や提出を求めることができます。
これを「質問検査権」といいます。
また、税務職員は、相続税の調査について必要がある場合は、官公署または政府関係機関に調査に関して参考となるべき帳簿書類その他の物件の閲覧・提供等の協力を求めることができます。
(1)強制調査と任意調査
税務調査には、任意調査と強制調査があります。
国税局査察部の査察官(マルサ)が、脱税の疑われる納税者に対して、裁判所の令状を得て強制的に行う調査を強制調査、税務署が納税者の申告内容を確認するために行われるのが任意調査です。
強制調査は国税犯則取締法に基づき、裁判所の令状をもとに、相当多額で悪質な脱税が探知された場合などに行われることとなっています。脱税行為が証拠上特定されれば検察庁に告発され、その場合には刑事事件として処理されることになります。
任意調査とは、原則として申告の内容について確認をするために行われる税務調査で、いわゆる税務調査のほとんどが任意調査に該当します。
ただし、税務職員には質問検査権があり、納税者は、正当な理由なく断ることはできませんし、正当な理由なく断った場合には、所定の罰則が科せられることになります。
税務調査の種類
(2)税務調査(任意調査)
任意調査は、一般調査、特別調査、簡易調査の三つに分けられます。
一般調査とは、不審な点の解明や有効な資料の収集に重点をおいた調査を行う場合に行う調査です。
特別調査とは、多額の申告漏れがありそうな場合、調査の対象範囲が広範囲にわたる場合、調査案件が複雑な場合等に国税局の資料調査課等を中心に行われるもので、任意調査ではありますが、実質は強制調査に近いといわれています。多額の申告漏れがありそうな場合や事業規模が大きく実態把握が困難な場合には、税務署においても、特別調査を行います。一般調査だけでは不十分と判断された場合に、特別調査班という調査チームによって、より細かく調査を行います。
その他の調査として、源泉所得税担当部門による調査や、調査項目を絞り込んで短期間に終了する簡易調査などがあります。問題が把握された場合などは一般の調査に移行されます。一般調査は、机上調査と実地調査に分けられます。
机上調査とは、税務署等の内部で提出された申告書や提出資料などの内容を検討し書類審査によって行われます。税務調査は、相続税申告後1~3年後に実地調査が行われるのが一般的で、十分な机上調査の後に実地調査が行われます。
実地調査は、実際に調査対象となる納税者や、調査対象となる企業を訪問し、現金・預貯金等の財産の所在や、企業の帳簿や資料のチェックを行います。原則として事前通知がなされた後に所轄の税務署の調査官が実地調査を行います。この実地調査は、その形態により、準備調査、外観調査、内偵調査、現況調査、反面調査に分けられます。
準備調査とは、申告書や添付資料から、申告内容の問題点をピックアップするために事前に行う調査です。相続税の実地の調査実地調査をする前に、準備調査を行います。
大口資産家の場合、過去の確定申告書、確定申告書に添付した譲渡所得の内訳書や財産及び債務の明細書、不動産売買の資料、源泉徴収票や支払調書、新聞・雑誌の切抜き等「資料せん」といわれるものがあります。さらに、固定資産税の課税台帳、金融機関への照会に対する回答、相続についてのお尋ね等、相続を契機として資料収集するものもあります。これらの資料と申告書の記載内容とを比較したうえで、実地調査に臨みます。実際に現地に赴き、現地の状況等を把握・確認することがあります。これを外観調査といいます。外観調査に加えて、調査官がお忍びで行う調査を内偵調査といい、自ら店舗などに実際にいって買い物をしたり、飲食店であれば食事をしたりします。現況調査とは、調査日当日の状況をありのままに把握するために行うもので、レジの現金残高の確認や、当日の記帳、伝票類、帳簿等の重要書類の内容ややその保管場所等の確認を行います。飲食店等の現金商売をしているようなところを中心に行われることが多いようです。
相続人等の内部資料だけでは、紛失・隠ぺい・偽造・変造・記憶違い・虚偽の答弁などの可能性がなくはありません。そのため、税務調査も相続人等の内部資料だけでなく、取引金融機関等の証憑書類や帳簿類を検査し、また金融機関等の従業員等に質問するなどして、相続人等の関係書類等と突き合わせる方法が行われます。これを「反面調査」といいます。
反面調査の対象者は、金融機関等に限らず、債権者や債務者などにも及びます。反面調査によって不正行為が発覚し、取引先金融機関等との関係が悪化するケースも少なくありません。反面調査も、税法秩序の維持のために規定されたものですから、検査拒否や虚偽の答弁については、罰則が規定されています。机上調査に対して、実地調査とは、国税の調査のうち税務職員が納税者の支配・管理する場所(事業所等)等に訪問して質問検査等を行うものをいいます。実地調査は税務調査の核となるものです。
具体的には、被相続人の自宅や経営していた会社の事務所等を調査官が訪問して行います。
一般的に、税務署による実地調査は、その多くが9月から12月に行われ、調査期間は約2ヶ月程度といわれます。国税局の職員による税務調査の場合には、調査開始時期に決まりはなく、年間を通じて行われ、調査期間も必要に応じて延長されることもあるようです。相続税の実地調査は、税務署の場合、税務職員である調査官2人が調査日の朝10時に被相続人の自宅や会社等に訪れます。調査官が2人体制であるのは、調査が非常にプライベートな部分にまで及ぶことがあり、トラブル回避のためと言われます。
調査期間は1、2日が一般的ですが、事案によっては、3~5日に及ぶ場合もあります。実地調査については、 「調査の事前通知」および 「調査の終了手続」の対象となります。
調査予定日の1週間から10日前くらいに、相続人代表及び税務代理人である税理士に対して調査の日程調整を行います。
当日は相続人のうち配偶者または相続人代表と税務代理人である税理士が立ち会います。一般的に午前中は被相続人に関する質問、遺産分割や相続税の納税に関する質問、相続人の財産に関する質問等を行い、午後は財産の管理状況の調査をします。重要書類が保管されている金庫、箪笥、押入れ、引出し、鞄等が実地調査の対象となります。調査は通常終了予定時間の4、5時まで続きます。
(3)行政指導として行われる行為
調査には該当しませんが、税務職員が行政指導の一環として、納税者に対し申告書の自主的な見直し等を要請する場合があります。税務職員が、納税者に対し調査または行政指導を行う際には、具体的な手続に入る前に、いずれに当たるのかを納税者に明示することが義務付けられています。
税務調査は、調査官が特定の納税者の課税標準等または税額等を認定する目的で行う行為に限られます。例えば、提出された申告書に計算誤り、転記誤り、記載漏れおよび法令の適用誤り等の誤りがあるのではないかと思われる場合に、納税者の方に対して自発的な見直しを求めた上で、必要に応じて修正申告書の自発的な提出を要請する行為は、税務調査ではなく、行政指導の一環として行われます。
行政指導に基づき、納税者が自主的に修正申告書を提出した場合には、その修正申告書等の提出等は更正または決定があるべきことを予知してなされたものには当たらないことから、過少申告加算税は課されません。
4.相続税の税務調査の対象となるケース相続税の税務調査
(1)相続税の対象となるケース
次のような事案は、相続税の調査対象となりえます。
- 申告書記載の相続財産の額と税務署が把握している相続財産額とに差が生じている事案
- 高額納税者
- 会社役員(上場会社役員・非上場会社役員)
- 年間1,000万円超の所得税を納税している人の相続税申告事案
- 生前の土地・株式等の譲渡代金や多額の退職金が申告書に含まれていない事案
- 生前不動産所得の申告があったにもかかわらず不動産等の申告が少ない事案
- 生前に多額の配当所得や株式等譲渡所得の申告があったにもかかわらず株式等の申告が少ない事案
- 生前に多額の預貯金が引き出されている事案
- 相続人の財産が異常に多い事案
- 多額の借入金があるにもかかわらずそれに見合った財産がない事案
まず、資産規模10億円を超えるような相続の場合には、税務調査があると考えておいた方が良いでしょう。
(2)近年の傾向
税務調査の対象は主に無申告事案及び海外関連事案に重点を置いていると言われます。
①無申告事案
相続財産の総額に対する土地・家屋などの不動産の割合は全体の半分を締めています。土地や家屋については法務局で登記がなされ、さらに市町村(東京の場合は都税事務所)にて固定資台帳にて管理されているので、財産の所有の事実が明確であり、隠しようのない財産です。
近年は不動産ではなく、現金や預貯金のような金融資産を財産として残す方が多く、金融資産は税務調査によって簡単に把握されないと考えるためか、申告をしない事例が増加しています。平成25年度の相続税の申告漏れ相続財産額は、約3,033億円です。そのうち現金・預貯金等が1,189億円、土地が412億円、有価証券355億円の順になっており、現金預貯金は全体の3分の1も占めています。
課税の公平の観点から問題であるとして無申告事案の税務調査を積極的に行っています。
②海外に資産がある事案
近年は、海外に滞在、居住することも珍しいことではなくなりました。
海外の金融機関に口座を開設することや、海外送金等がごく普通に行われ、自然と海外に資産が蓄積されている場合もあり、これらの運用益が所得税の課税から漏れる事例が多くなっています。
さらに、資産家による積極的な海外投資も盛んになっています。海外に財産を移動させれば相続税の課税を逃れることができるという誤った考えや海外財産にまで税務調査は及ばないであろうという安易な考えから、申告しない事例が増加しています。
海外関連事案の調査の増加により、海外財産の申告漏件数も増加していると言われています。また、平成26年から始まった「国外財産調書制度」によって、海外資産調査の強化の傾向はさらに続くとみられます。
5.相続税の税務調査(実地調査)の流れ相続税の税務調査
(1)調査の事前通知
実地調査が行われる際には、原則として、調査官から相続人代表者と税務代理した税理士等に対し、調査開始日前に相当の時間的余裕をおいて、電話等により調査の実施が通知されます。調査予定日の1週間から10日前くらいに連絡があると一般的にいわれます。
調査官から通知を受けた調査日時等について、相続人や税務代理した税理士において病気等による一時的な入院、親族の葬儀などやむを得ない事情など合理的な理由がある場合のみ、日時等を変更してもらうよう協議を申し出ることができます。
あわせて次に掲げる事項通知されます。事前通知については、平成24年10月1日以後に開始する実地調査については、原則として電話で納税者(相続人)及び税務代理した税理士に事前通知することが義務化されました。
調査の事前通知の内容
- 実地の調査を行う旨
- 調査開始日時
- 調査開始場所
- 調査の目的
- 調査の対象となる税目
- 調査の対象となる期間
- 調査の対象となる帳簿書類その他の物件
- 調査の相手方である納税義務者の氏名及び住所又は居所
- 調査を行うその職員の氏名及び所属官署
(その職員が複数であるときには、代表する者の氏名及び所属官署) - 調査開催日時又は調査開始場所の変更に関する事項
- 事前通知事項以外の事項について非違が疑われることとなった場合には、その事項に関し調査を行うことができる旨
ただし、納税義務者から事前通知事項の詳細は税理士を通じて通知しても差し支えない旨の申し立てがあったときは、納税者には、1の実地の調査を行う旨のみを通知し、その他の事項は税理士経由での通知することが可能です。
(2)税務調査当日の流れ
相続税の実地調査は、税務署の場合、税務職員である調査官2人が調査日の朝10時に被相続人の自宅や会社等に訪れます。調査担当者は、税務職員であることを証明するため、身分証明書を携帯することになっています。調査権限がある証明として「質問検査章」の提示が義務付けられています。調査が2人体制であるのは、調査が非常にプライベートな部分にまで及ぶことがあり、トラブル回避のためと言われます。
当日は相続人のうち配偶者または相続人代表と税務代理人である税理士が立ち会います。一般的に午前中は被相続人に関する質問、遺産分割や相続税の納税に関する質問、相続人の財産に関する質問(聞き取り調査)等を行い、午後は財産の管理状況の調査をします。重要書類が保管されている金庫、箪笥、押入れ、引出し、鞄等、貸金庫がある場合には、貸金庫の中も実地調査の対象となります。調査は通常終了予定時間の4、5時まで続きます。
(3)税務調査の流れ
税務調査の流れを示すと次のようになります。
申告書提出から税務調査終了までの流れ
PAGE TOP6.相続税の税務調査(実地調査)の方法相続税の税務調査
(1)聞き取り調査の趣旨
税務調査(実地調査)の目的は、申告されていない金融資産(預貯金、有価証券、名義預貯金、名義株等)を発見することです。相続人等からの聞き取りは、被相続人の親族名義の預貯金・株式の中に相続財産となるべきものはないかを確認するために行われます。聞き取り調査は次の内容を確認するために行われます。
・被相続人の相続財産と相続人等の固有財産の区分管理はできているか。
・相続財産となるべきものが、相続人等の名義になっていないか。
(2)聞き取り調査の内容
質問内容は、被相続人に関する質問と相続および相続人等に関する質問に分かれます。
被相続人に関する質問 | ①概要 |
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---|---|---|
②財産管理 |
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③所得等 |
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相続人に関する質問 |
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(3)調査を行う場所
実地調査では、被相続人の財産の保管場所、保管資料の確認・調査が必ず行われます。財産の管理状況の調査の目的は隠し財産の現物を見つけることです。
実地調査では、所有者が亡くなっていることから、現物確認が最終的な決め手になるためです。被相続人や相続人の書斎、金庫、認印・実印の保管場所、預貯金の通帳・生命保険契約の保険証券・不動産の権利書等の保管場所、金融機関の貸金庫等を確認・調査します。
預金通帳、印鑑(特に実印)、不動産の権利証、生命保険契約の保険証券等の重要な書類が発見できない場合、調査官は調査に立ち会う納税者等に保管場所はどこかを尋ね、その保管場所に同行して確認をします。この際に、保管場所の金庫、箪笥、押入れ、引出し、鞄、貸金庫等に一緒に保管してある資料も一緒に確認します。
貸金庫
金融機関の貸金庫もその日のうちに同行して確認します。貸金庫はめったに開閉しないため、中身を確認していないことがあります。申告書に記載していない株券、預金証書、別荘の権利証や金地金等が発見されることがあります。
自宅金庫の中の確認
同居していない相続人や孫等他人名義の預貯金通帳があると、名義預貯金の可能性があります。記念硬貨は現金として申告する必要があります。
高価な家庭用動産
高価なものでない限り申告不要であるが、高価な書画や骨董品は申告する必要があります。
ゴルフ大会のトロフィー
申告書にゴルフ会員権の記載はあるか。
金融機関の名前入りカレンダー、手帳、筆記用具、タオル等
申告書に記載されていない銀行、証券会社、保険会社等金融機関のものはないか。
預貯金通帳
相続開始前に預貯金からの多額の引出しがないかの確認と多額の引出しがあった場合の引出人名、資金使途の質問。通帳等へのメモ書きから資金使途が判明することがあります。
印影の採取
被相続人が保管していた印鑑を、調査官は持参した書類に印影を2回採取します。最初は朱肉を付けずにそのまま押印します。使い込まれた印鑑ならば、薄くとも印影が残ります。次に朱肉を付けて押印します。
認印の使用目的
他人名義の預貯金通帳や銀行調査時における家族名義の預貯金の届出印として被相続人保管の印鑑が使用されている場合、名義預貯金の可能性が大きくなります。
手帳、日記帳、電話帳、名刺・年賀状ファイル、香典帳等
申告財産に記載されていない金融機関のものはないか。
申告書になり金融機関・保険会社との付き合いがないか。
被相続人の筆跡も押さえます。
遺言書
申告書に記載されていない財産が記載されていないか。
税理士の必要性相続税の税務調査
調査官にとって財産の管理状況の調査は実地調査の税務調査のメインであり、核心に迫ってくると質問の口調や態度が強くなることがあり、これが納税者(相続人・依頼者)とのトラブルにつながる場合があります。このような場合には、税務代理人である税理士が調査官と納税者との間に立ち、相続人らに過度な負担をかけないように対応します。
また、実地調査後に行われる事後の調査についても、調査官とのやり取りが行われます。
税務職員が税理士事務所へ質問しに来ることも、税理士が税務署に出向いて説明することもあります。税理士を経由せずに納税者(相続人)に直接連絡を取ろうとすることがありますが、どのように答えたらよいのか迷うことも多いので、税務代理人である税理士を経由して回答することをお勧めます。
なお国税局や主要税務署には納税者支援調整官が設置されており、納税者の権利や利益に影響を及ぼす処分に係る苦情について、権利救済手続を説明するなどの対応を行っています。調査官の調査手法が質問検査権の行使として認められる範囲を超えるような不合理・不適切なものである場合には、納税者支援調整官に対して苦情を申し入れ、善処を求めることを検討します。
7.税務署による相続財産の調査の方法相続税の税務調査
(1)預貯金の調査
銀行への調査は、事前の調査として文書による照会をし、実地調査後に事後の調査が必要なときは、直接銀行に出向いて、預金の入出金の記録や、預入伝票・払戻伝票の現物を確認します。被相続人名義だけでなく、相続人や同居していた家族名義のものも照会の対象です。
相続税の申告漏れ財産の1番は現金・預貯金で、全体の約3分の1以上を占めます。税務調査では、預貯金等が最重点項目として調査されることになります。
①名義預金
多額の現金・預貯金が申告漏れとなっているのは「名義預金」といわれる家族名義の貯金が大半を占めるためです。相続人や親族・孫名義の預貯金については、それが名義預金ではないかどうか、実質的な管理者はだれか、拠出者はだれか調査を行います。
家族名義の口座であっても、印鑑や通帳を被相続人が管理していたり、名義人(相続人)が把握していなかったり、自由に出し入れが出来ない口座は、名義人の口座ではなく、相続人の口座とみなします。
届出印鑑が被相続人のものと同一でないか、利息・配当金の入金を被相続人が引き出して被相続人の預貯金に振り替えていないか、被相続人の固定資産税等の支払いのために引き出されていないか等々、預金伝票・払戻伝票等の現物を確認して筆跡鑑定を行うこともあります。
なお贈与の場合でも、相続開始前3年以内贈与については、相続財産として加算する必要があります。
相続開始時の残高と相続開始前の3年間(場合によっては5~10年程度)出入金の推移も照会します。実地調査後の事後の調査では、金融機関に直接出向いて、預金の入出金の動きを確認したり、預金伝票・払戻伝票等の現物を確認して筆跡鑑定まですることもあります。
相続開始直前の大口の出金や、定期預金や定額貯金等の解約などは必ずチェックされます。また通帳に記載される利子・配当金や利付債券利子の入金、貸金庫使用料の引落し、固定資産税の引落し等、預金の入出金の動きは被相続人の財産の移動状況を正確に反映しています。これら入出金の経緯や理由を確認して、申告漏れ財産を発見しようとします。
②貸金庫
また被相続人が貸金庫を借りていた場合、その中に保管されている現物の確認をします。実地調査の際に、相続人の立会いのもとで、貸金庫を開けて保管物を確認します。なお、被相続人の貸金庫だけでなく相続人の貸金庫も確認することもあります。
(2)不動産の調査
未登記建物や先代名義の不動産、遠隔地の不動産等が申告されているか、不動産の評価が適正であるかどうかが調査項目です。
①先代名義の不動産・未登記建物
申告漏れ不動産がないかどうかを確認するため、被相続人の先代名義や相続人名義の不動産の有無を確認します。名寄帳、所得税申告書の不動産所得の明細、財産及び債務の明細書、被相続人が過去に相続人(納税者)として関与した相続税申告書およびその調査資料等を基に調査します。
さらに、家屋を増築したにもかかわらず増築部分の登記をしていない場合で、その増築部分を加味して固定資産税評価が改訂されていない場合もあり得ますので、家屋について現況の確認を行います。
②遠隔地の不動産
居宅用の不動産の他に、遠隔地に投資目的の賃貸用不動産、別荘がないかの調査を行います。所得税申告書の不動産所得の明細、財産及び債務の明細書、取引金融機関からの固定資産税の支払い等を基に調査します。
③不動産の評価が適正か
申告書の「土地及び上地の上に存する権利の評価明細書」に記載されている利用状況どおりに利用されているかどうか現況の確認が行われます。土地や建物の賃貸借契約書の有無、土地の利用に関する各種届出書の提出の有無について、これらの書類との照合調査が行われます。
なお宅地は、一区画の宅地を評価単位として評価します。必ずしも一筆の宅地からなるとは限らず、二筆以上の宅地からなる場合もありますので、それぞれの面積に入り繰りがないか、実際の利用状況の確認が行われます。
(3)株式の調査
①上場株式
上場株式については、その株式を取扱う証券会社や信託銀行に対して照会をかけます。
非上場株式は、発行会社の旧代表者が被相続人であり、相続人が代表者として事業を承継していることが多いことから、その株式の発行会社に直接確認します。
所得税の確定申告書における配当所得の内訳、財産及び債務の内訳書、配当・剰余金の分配及び基金利息の支払調書、新株予約権の行使に関する調書等の資料隻や預金調査の際に把握した資料を基に、証券代行会社に照会し調査します。
被相続人の相続開始時点の所有株式数、相続開始前数年間の株式の移動状況、配当金支払い口座等を確認し、分割株式、単元未満株式、名義株式等の申告漏れ株式を発見することができます。
被相続人が取引していた証券会社に対しては、証券会社に訪問して売買、名義書換、配当金支払い口座等などを確認します。
②非上場株式
非上場株式については、経営者の意思によって株主の名義変更が容易にできるので、設立時の定款記載の株主、名義変更についての取締役会議事録や株主総会議事録、株主名簿、法人税申告書別表二「同族会社の判定に関する明細書」、買入価額などについてのお尋ね、株式取得代金支払いの有無、株券発行の有無、株券裏面の株主名、株券保管場所、配当金支払先等を調査して、実際の株主を割り出します。
(4)債権債務の調査
債権の調査は、名義変更がなされた財産、被相続人生前に引き出された財産が、贈与なのか貸与なのかを確認するために行われます。
債務の調査は、相続税申告書に記載された債務が、実在する債務なのか、保証債務ではないか等について確認するために行われます。
①債権の調査
被相続人が生前に資産を譲渡した場合、譲渡代金である現預金が相続財産となります。譲渡代金が未収であれば未収債権が相続財産となり、また被相続人が生前に引き出した資金が貸与したものであれば、貸付金債権が相続財産となります。
問題となるのは、相続人等が被相続人より贈与を受けたと主張するものの、贈与税の申告や納税がされていない場合です。年間110万円の贈与税の基礎控除内の贈与であれば問題ないのですが、控除額を超える多額の財産が贈与税の申告なしに移転しているような場合は、税務調査で争点となります。
贈与税の申告や納税がなかったから贈与ではなく貸与だという調査官の主張に対して、贈与を受けたと言い張っても、移転後の財産を被相続人が管理状況や、そこから得られる利息、配当、地代家賃等を被相続人が受領していたとすれば贈与があったとはいえなくなります。
②債務の調査
相続税の計算上控除できる債務は確実に確定しているものに限られ、保証債務は原則として控除できず、連帯債務は連帯債務者間で按分して控除します。
架空債務ではないのか、保証債務ではないのか等を中心に債務の調査を行います。債権者が金融機関であれば照会および借入金残高証明書で確認し、その他、金銭消費貸借契約証書等の証拠書類等をはじめ借入の事実の確認を行います。
債務の調査上で、借入金で取得した不動産、株式等の申告漏れ財産が発見されることもあります。
③葬儀費用の調査
葬儀費用の調査は、領収書等の内容により、相続税の計算上控除できるものかどうかを確認します。相続税の課税上、控除できるとされる葬儀費用は、出棺・埋葬・火葬・納骨費用、遺骸・遺骨の回送費、通夜費用、葬儀・告別式の費用、祭儀会場借上費用、読経料、お布施、戒名料などです。香典返し、初七日・四十九日等の法会の費用、墓碑・仏壇の購入費などは控除できません。
領収書が発行されなかったり、もらえなかったりするものもありますが、常識の範囲内であれば認められますので、メモ等を残しておく必要があります。
また葬儀費用の支払いが相続財産からなされている場合には、その支出金額が相続財産として申告されているかどうかの調査も行われます。
なお、相続または遺贈により国内にある財産を取得した個人で、その財産を取得した時において日本に住所を有しない者のうち非居住無制限納税義務者を除く者は、葬式費用を控除することができません。
8.相続税の税務調査の終了手続相続税の税務調査
税務調査が終了した場合、調査結果に基づき、納税者等に対して調査結果の内容等が説明されます。説明責任を強化する観点から、平成23年度税制改正により調査終了時の手続が整備され、平成25年1月1日以後に開始する税務調査より適用されています。
(1)申告内容に誤りが認められない場合
税務調査の結果、申告内容に誤りが認められない場合や、申告義務がないと認められる場合などには、税務署長等は納税者に対し、その旨を書面(「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書」)により通知します。
(2)申告内容に誤りが認められる場合
税務調査において、申告内容に誤りが認められた場合や、申告する義務がありながら申告していなかったことが判明した場合には、税務署長は納税者に対し、誤りの内容、金額、理由など調査結果の内容を説明し、さらに納付すべき税額および加算税のほか納付すべき税額によっては延滞税が生じることを説明します。
原則として納税者義務者に対し修正申告や期限後申告を勧奨します。この勧奨の際、「修正申告等をした場合にはその修正申告等に係る異議申立てや審査請求はできないが、更正の請求はできる」ことを説明し、その旨を記載した書面を交付することとされています。
この調査結果の内容の説明と修正申告等の勧奨等をもって原則として一連の調査手続が終了する旨を説明することとされています。
(3)修正申告等の勧奨に応じない場合
納税義務者が修正申告等の勧奨に応じない場合は、調査結果の内容に基づき、税務署長が更正または決定の処分を行います。この場合、更正または決定にかかる通知書には、処分の理由が記載されます。
(4)再調査について
申告内容に誤りが認められず更正決定等をすべきと認められない旨の通知書を送付した後、または修正申告書の提出の後においても、新たに得られた情報に照らして誤りがあると認める場合には、納税者に対して、質問検査等を再度行うことができます。
税務調査終了手続きの流れ
PAGE TOP税理士の必要性相続税の税務調査
更正決定等をすべきと認められない旨の書面の通知、調査結果の内容の説明、修正申告等の勧奨、修正申告等の法的効果の説明(教示)および教示文の交付は、調査官から納税者に対して行うのが原則です。
ただし、納税者の同意がある場合には、税務代理をしている税理士に対して通知等を行うことができるとされています。
同意の有無の確認の方法は、次のいずれかになります。
- 電話または臨場により納税者に直接同意の意思を確認する方法
- 税務代理をしている税理士から納税者の同意を得ている旨の申出があった場合には、同意の事実が確認できる書面の提出を求める方法
納税者の同意があるかどうかは、個々の納税者ごとに判断されます。したがって税務調査において複数の納税者がある場合、調査官は個々の納税者ごとに本人に通知等を行うか税理士に行うかを判断します。後者の方法による場合は、税理士は、納税者全員分の同意を確認できる書面を提出する必要があります。なお、税務代理権限証書に同意がある旨を明記した場合であっても、改めて調査結果の内容説明等を行う時点で同意の有無を確認するとされているので、注意が必要です。
調査官は、実地調査以外の調査においても、納税者に代えて、税務を代理する税理士に対して調査結果の内容を説明し、修正申告等の勧奨、修正申告等の法的効果の教示および教示文の交付を行うことができるとされています。ただし、納税者の同意の意思を確認することが難しい場合には、税理士人から調査結果の内容の説明を受けることについて委嘱されている旨の申立てがあることをもって、税務代理をしている税理士に調査結果の内容の説明等を行うことができるとされています。
申告の内容に誤りがあるとして調査結果の説明をし、納税義務者に修正申告の勧奨をしたにもかかわらず、その勧奨に応じない場合、更正等の手続を粛々と進めていきます。
調査結果の説明前には、税務署内で更正等を念頭に置いた検討が完了しているはずなので、この説明等があった後は、新たな事実が発見されたことによる再調査が行われない限り、納税者および税務代理をする税理士は調査官との協議ができなくなります。
調査がある程度進展した時点で、「調査結果の説明」に該当するか否か、あるいはどのタイミングで「調査結果の説明」が行われるかを、調査官に確認することが重要になります。
7.税務署による相続財産の調査の方法相続税の税務調査
(1)預貯金の調査
銀行への調査は、事前の調査として文書による照会をし、実地調査後に事後の調査が必要なときは、直接銀行に出向いて、預金の入出金の記録や、預入伝票・払戻伝票の現物を確認します。被相続人名義だけでなく、相続人や同居していた家族名義のものも照会の対象です。
相続税の申告漏れ財産の1番は現金・預貯金で、全体の約3分の1以上を占めます。税務調査では、預貯金等が最重点項目として調査されることになります。
①名義預金
多額の現金・預貯金が申告漏れとなっているのは「名義預金」といわれる家族名義の貯金が大半を占めるためです。相続人や親族・孫名義の預貯金については、それが名義預金ではないかどうか、実質的な管理者はだれか、拠出者はだれか調査を行います。
家族名義の口座であっても、印鑑や通帳を被相続人が管理していたり、名義人(相続人)が把握していなかったり、自由に出し入れが出来ない口座は、名義人の口座ではなく、相続人の口座とみなします。
届出印鑑が被相続人のものと同一でないか、利息・配当金の入金を被相続人が引き出して被相続人の預貯金に振り替えていないか、被相続人の固定資産税等の支払いのために引き出されていないか等々、預金伝票・払戻伝票等の現物を確認して筆跡鑑定を行うこともあります。
なお贈与の場合でも、相続開始前3年以内贈与については、相続財産として加算する必要があります。
相続開始時の残高と相続開始前の3年間(場合によっては5~10年程度)出入金の推移も照会します。実地調査後の事後の調査では、金融機関に直接出向いて、預金の入出金の動きを確認したり、預金伝票・払戻伝票等の現物を確認して筆跡鑑定まですることもあります。
相続開始直前の大口の出金や、定期預金や定額貯金等の解約などは必ずチェックされます。また通帳に記載される利子・配当金や利付債券利子の入金、貸金庫使用料の引落し、固定資産税の引落し等、預金の入出金の動きは被相続人の財産の移動状況を正確に反映しています。これら入出金の経緯や理由を確認して、申告漏れ財産を発見しようとします。
②貸金庫
また被相続人が貸金庫を借りていた場合、その中に保管されている現物の確認をします。実地調査の際に、相続人の立会いのもとで、貸金庫を開けて保管物を確認します。なお、被相続人の貸金庫だけでなく相続人の貸金庫も確認することもあります。
(2)不動産の調査
未登記建物や先代名義の不動産、遠隔地の不動産等が申告されているか、不動産の評価が適正であるかどうかが調査項目です。
①先代名義の不動産・未登記建物
申告漏れ不動産がないかどうかを確認するため、被相続人の先代名義や相続人名義の不動産の有無を確認します。名寄帳、所得税申告書の不動産所得の明細、財産及び債務の明細書、被相続人が過去に相続人(納税者)として関与した相続税申告書およびその調査資料等を基に調査します。
さらに、家屋を増築したにもかかわらず増築部分の登記をしていない場合で、その増築部分を加味して固定資産税評価が改訂されていない場合もあり得ますので、家屋について現況の確認を行います。
②遠隔地の不動産
居宅用の不動産の他に、遠隔地に投資目的の賃貸用不動産、別荘がないかの調査を行います。所得税申告書の不動産所得の明細、財産及び債務の明細書、取引金融機関からの固定資産税の支払い等を基に調査します。
③不動産の評価が適正か
申告書の「土地及び上地の上に存する権利の評価明細書」に記載されている利用状況どおりに利用されているかどうか現況の確認が行われます。土地や建物の賃貸借契約書の有無、土地の利用に関する各種届出書の提出の有無について、これらの書類との照合調査が行われます。
なお宅地は、一区画の宅地を評価単位として評価します。必ずしも一筆の宅地からなるとは限らず、二筆以上の宅地からなる場合もありますので、それぞれの面積に入り繰りがないか、実際の利用状況の確認が行われます。
(3)株式の調査
①上場株式
上場株式については、その株式を取扱う証券会社や信託銀行に対して照会をかけます。
非上場株式は、発行会社の旧代表者が被相続人であり、相続人が代表者として事業を承継していることが多いことから、その株式の発行会社に直接確認します。
所得税の確定申告書における配当所得の内訳、財産及び債務の内訳書、配当・剰余金の分配及び基金利息の支払調書、新株予約権の行使に関する調書等の資料隻や預金調査の際に把握した資料を基に、証券代行会社に照会し調査します。
被相続人の相続開始時点の所有株式数、相続開始前数年間の株式の移動状況、配当金支払い口座等を確認し、分割株式、単元未満株式、名義株式等の申告漏れ株式を発見することができます。
被相続人が取引していた証券会社に対しては、証券会社に訪問して売買、名義書換、配当金支払い口座等などを確認します。
②非上場株式
非上場株式については、経営者の意思によって株主の名義変更が容易にできるので、設立時の定款記載の株主、名義変更についての取締役会議事録や株主総会議事録、株主名簿、法人税申告書別表二「同族会社の判定に関する明細書」、買入価額などについてのお尋ね、株式取得代金支払いの有無、株券発行の有無、株券裏面の株主名、株券保管場所、配当金支払先等を調査して、実際の株主を割り出します。
(4)債権債務の調査
債権の調査は、名義変更がなされた財産、被相続人生前に引き出された財産が、贈与なのか貸与なのかを確認するために行われます。
債務の調査は、相続税申告書に記載された債務が、実在する債務なのか、保証債務ではないか等について確認するために行われます。
①債権の調査
被相続人が生前に資産を譲渡した場合、譲渡代金である現預金が相続財産となります。譲渡代金が未収であれば未収債権が相続財産となり、また被相続人が生前に引き出した資金が貸与したものであれば、貸付金債権が相続財産となります。
問題となるのは、相続人等が被相続人より贈与を受けたと主張するものの、贈与税の申告や納税がされていない場合です。年間110万円の贈与税の基礎控除内の贈与であれば問題ないのですが、控除額を超える多額の財産が贈与税の申告なしに移転しているような場合は、税務調査で争点となります。
贈与税の申告や納税がなかったから贈与ではなく貸与だという調査官の主張に対して、贈与を受けたと言い張っても、移転後の財産を被相続人が管理状況や、そこから得られる利息、配当、地代家賃等を被相続人が受領していたとすれば贈与があったとはいえなくなります。
②債務の調査
相続税の計算上控除できる債務は確実に確定しているものに限られ、保証債務は原則として控除できず、連帯債務は連帯債務者間で按分して控除します。
架空債務ではないのか、保証債務ではないのか等を中心に債務の調査を行います。債権者が金融機関であれば照会および借入金残高証明書で確認し、その他、金銭消費貸借契約証書等の証拠書類等をはじめ借入の事実の確認を行います。
債務の調査上で、借入金で取得した不動産、株式等の申告漏れ財産が発見されることもあります。
③葬儀費用の調査
葬儀費用の調査は、領収書等の内容により、相続税の計算上控除できるものかどうかを確認します。相続税の課税上、控除できるとされる葬儀費用は、出棺・埋葬・火葬・納骨費用、遺骸・遺骨の回送費、通夜費用、葬儀・告別式の費用、祭儀会場借上費用、読経料、お布施、戒名料などです。香典返し、初七日・四十九日等の法会の費用、墓碑・仏壇の購入費などは控除できません。
領収書が発行されなかったり、もらえなかったりするものもありますが、常識の範囲内であれば認められますので、メモ等を残しておく必要があります。
また葬儀費用の支払いが相続財産からなされている場合には、その支出金額が相続財産として申告されているかどうかの調査も行われます。
なお、相続または遺贈により国内にある財産を取得した個人で、その財産を取得した時において日本に住所を有しない者のうち非居住無制限納税義務者を除く者は、葬式費用を控除することができません。
8.相続税の税務調査の終了手続相続税の税務調査
税務調査が終了した場合、調査結果に基づき、納税者等に対して調査結果の内容等が説明されます。説明責任を強化する観点から、平成23年度税制改正により調査終了時の手続が整備され、平成25年1月1日以後に開始する税務調査より適用されています。
(1)申告内容に誤りが認められない場合
税務調査の結果、申告内容に誤りが認められない場合や、申告義務がないと認められる場合などには、税務署長等は納税者に対し、その旨を書面(「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書」)により通知します。
(2)申告内容に誤りが認められる場合
税務調査において、申告内容に誤りが認められた場合や、申告する義務がありながら申告していなかったことが判明した場合には、税務署長は納税者に対し、誤りの内容、金額、理由など調査結果の内容を説明し、さらに納付すべき税額および加算税のほか納付すべき税額によっては延滞税が生じることを説明します。
原則として納税者義務者に対し修正申告や期限後申告を勧奨します。この勧奨の際、「修正申告等をした場合にはその修正申告等に係る異議申立てや審査請求はできないが、更正の請求はできる」ことを説明し、その旨を記載した書面を交付することとされています。
この調査結果の内容の説明と修正申告等の勧奨等をもって原則として一連の調査手続が終了する旨を説明することとされています。
(3)修正申告等の勧奨に応じない場合
納税義務者が修正申告等の勧奨に応じない場合は、調査結果の内容に基づき、税務署長が更正または決定の処分を行います。この場合、更正または決定にかかる通知書には、処分の理由が記載されます。
(4)再調査について
申告内容に誤りが認められず更正決定等をすべきと認められない旨の通知書を送付した後、または修正申告書の提出の後においても、新たに得られた情報に照らして誤りがあると認める場合には、納税者に対して、質問検査等を再度行うことができます。
税務調査終了手続きの流れ
PAGE TOP税理士の必要性相続税の税務調査
更正決定等をすべきと認められない旨の書面の通知、調査結果の内容の説明、修正申告等の勧奨、修正申告等の法的効果の説明(教示)および教示文の交付は、調査官から納税者に対して行うのが原則です。
ただし、納税者の同意がある場合には、税務代理をしている税理士に対して通知等を行うことができるとされています。
同意の有無の確認の方法は、次のいずれかになります。
- 電話または臨場により納税者に直接同意の意思を確認する方法
- 税務代理をしている税理士から納税者の同意を得ている旨の申出があった場合には、同意の事実が確認できる書面の提出を求める方法
納税者の同意があるかどうかは、個々の納税者ごとに判断されます。したがって税務調査において複数の納税者がある場合、調査官は個々の納税者ごとに本人に通知等を行うか税理士に行うかを判断します。後者の方法による場合は、税理士は、納税者全員分の同意を確認できる書面を提出する必要があります。なお、税務代理権限証書に同意がある旨を明記した場合であっても、改めて調査結果の内容説明等を行う時点で同意の有無を確認するとされているので、注意が必要です。
調査官は、実地調査以外の調査においても、納税者に代えて、税務を代理する税理士に対して調査結果の内容を説明し、修正申告等の勧奨、修正申告等の法的効果の教示および教示文の交付を行うことができるとされています。ただし、納税者の同意の意思を確認することが難しい場合には、税理士人から調査結果の内容の説明を受けることについて委嘱されている旨の申立てがあることをもって、税務代理をしている税理士に調査結果の内容の説明等を行うことができるとされています。
申告の内容に誤りがあるとして調査結果の説明をし、納税義務者に修正申告の勧奨をしたにもかかわらず、その勧奨に応じない場合、更正等の手続を粛々と進めていきます。
調査結果の説明前には、税務署内で更正等を念頭に置いた検討が完了しているはずなので、この説明等があった後は、新たな事実が発見されたことによる再調査が行われない限り、納税者および税務代理をする税理士は調査官との協議ができなくなります。
調査がある程度進展した時点で、「調査結果の説明」に該当するか否か、あるいはどのタイミングで「調査結果の説明」が行われるかを、調査官に確認することが重要になります。
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