不動産の不正操作遺産分割の弁護士
不動産の不正操作不動産の不正操作
1 類型
(1)所有権の不正操作
①売買契約書や贈与契約書を偽造した場合
あたかも土地が売買あるいは贈与されたかのように、売買契約書や贈与契約書を偽造する場合です。
土地の所有者の印鑑を勝手に使用し、署名もしてしまうのです。
贈与契約書の字体と、土地の所有者の本来の字体とが明らかに違うというケースもよくあります。
相手方から契約書が提出された場合には、署名押印欄はもちろんのこと、契約書の文言1つ1つを詳細に検討し、不自然な点や到底あり得ないような内容の記載がないかに注意すべきです。
②遺言を作成させた場合
遺言者を唆し、お目当ての土地を自分に相続させる内容の遺言を作成させる場合です。
争われる余地が少なくなるよう、公正証書遺言を作成させるパターンも多いのです。
有効な遺言があれば、遺産分割協議を経ることなく財産を承継することができます。
用意周到に不正操作をする者は、財産の大半を自分が相続するような内容の遺言を作成させつつも、最低限遺留分だけは他の相続人が取得できるように計算し、相続発生後、一切の争いを生じさせないようにし、不正操作をする者なりに工夫するのです。
(2)抵当権の不正操作
盗まれる対象は所有権だけではありません。不動産の場合は、いつの間にか莫大な額の借金のかたに入れられ、不動産に抵当権が設定されていることもあるのです。
①勝手に抵当権設定された場合
父親の土地に長男が借金の担保として抵当権を勝手に設定してしまうというパターンです。
長男が父親の印鑑を勝手に持ち出し、契約書に押印し、署名を偽造してしまうのです。
勝手に設定された抵当権設定契約であっても、ただちに抵当権そのものを取り消せるわけではありません。不正に気付いたのが父親の死亡後であった場合、父親の損害賠償請求権を相続人が代わって長男に対して行使することになります。ちなみに、相続財産に関する時効は、相続人が確定した時から6カ月間完成しません(民法160条)。
②抵当権設定契約書とは知らずに署名させられた場合
契約書の内容を確認させず、署名だけをさせられたというパターンです。
本人の署名があるので、有効な契約と主張してくるでしょう。
被害を受けた他の家族は、契約が真意に基づかないものであることを主張しなければいけません。
(3)占有権の不正操作(不法占拠)
①被相続人の承諾を得て相続開始前から不動産を占有し続けている場合
父親と同居していた長男が、父親の死亡後も実家に住み続ける場合です。
この場合、同居していた長男の居住の場を保護する必要があります。
特別の事情がない限り、父親と同居していた長男との間で、相続開始後も、遺産分割により建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き同居していた長男に実家を無償で使用させる旨の合意があったと推認されます。
父親の死亡時から少なくとも遺産分割終了までの間は、父親の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、同居していた長男を借主とする使用貸借契約関係が存続することになります。
使用貸借である以上、無償で借りることに何ら問題はないはずですから、住み続けている長男には賃料相当額の支払義務はないのです。
②相続開始後に共同相続人の同意を得て占有を開始した場合
父親が死亡して相続が開始した後、他の相続人の同意を得て、長男が実家に住み始める場合です。
共同相続人が、相続開始後に遺産に属する不動産を共同相続人のうちの1人に占有させることを許すということは、共有物の管理行為(民法252条本文)ですから、持分の過半数の同意を得ることが必要となります。
持分の過半数を占める相続人が同意しているのであれば、長男と他の共同相続人との関係は、賃料を払う旨の合意があれば賃貸借契約関係、無償である旨の合意があれば使用貸借契約関係となります。
③相続開始後に無断で占有を開始した場合
たとえ共同相続人の1人であっても、その持分の価格が当該不動産の価格の過半数に満たない場合は、他の共同相続人の同意を得ないでその不動産を単独で占有することはできません。財産の不正操作に発展するパターンです。
長男の持分を超える部分の占有は違法といえますから、他の共同相続人は長男に対し、不法行為又は不当利得に基づき、長男の持分を超える部分の賃料相当額を請求することができます。
2 取り戻す方法
(1)取り戻す方法(相続人間の場合)
ア 不動産について全部相続させる遺言があった場合
遺産は本来、全て遺言で相続する相続人のものになります。
したがって、不動産の一部でも、無断で自分の物として振る舞っている相続人に対しては、全て自分のものである不動産を侵害したとして請求することができます。
請求方法は不当利得返還請求又は不法行為による損害賠償請求に加えて、不動産登記そのものを自分の物として移転するように請求することができます。
イ 不動産について全部相続させる遺言が無かった場合
不動産の遺産分割については未定であるということになりますので、遺産の範囲確認訴訟によって不動産が遺産の一部であることを確認したうえで、遺産分割調停によって分割を求めることになります。
(2)取り戻す方法(義理の兄弟などの非相続人との間や相続開始前の場合)
相続人間のもめごとと異なり、相続人による相続分を考慮する必要がありません。
したがって、不動産の一部でも、無断で自分の物として振る舞っている人間に対しては、不当利得返還請求又は不法行為による損害賠償請求をすることができます。加えて、不動産登記について自分へ移転するように請求することができます。
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