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第2章 家族の中でお金と土地が不正操作されている遺産分割の弁護士

1 お金の不正操作第2章 家族の中でお金と土地が不正操作されている

財産の不正操作の中でも典型的なパターンであるお金の不正操作について、遺産分割に詳しい遺産相続弁護士が説明します。
お金の不正操作には、預金の不正操作と現金の不正操作があります。

(1)預金の不正操作

ア 不正操作のパターン

被相続人に無断で引き出し自分のために使った場合や、引き出したお金が使途不明の場合など、財産の不正操作を検討するケースでは、誰がどのようにして引き出し、何に使ったかによって扱いが異なります。想定される場面を遺産分割に詳しい遺産相続弁護士が検討します。

(ア)被相続人が生前に引き出した場合

①被相続人が自分で使用
被相続人が自分の預金を自分のために引き出し、使用したのですから、遺産相続トラブルはもちろん、何ら問題は発生しません。
②被相続人が長男に贈与
遺産相続が発生した場合に、遺産分割において長男の特別受益が問題となります。
③使途不明
使途についての証明ができなければ、遺産相続トラブルに関する訴訟において問題にすることはできません。多くの場合は自分で使ったのであろうという推定がなされ、①と同様の結論になります。

(イ)長男が引き出した場合

①長男が被相続人の指示で引き出し、被相続人のために使用
上記(ア)①と同様に、被相続人が自分のために使用したのですから、遺産相続トラブルはもちろん、何ら問題は発生しません。
②長男が被相続人の指示で引き出し、長男に贈与
上記(ア)②との違いは被相続人自らが引き出したか、長男が代理人となって引き出したかという点のみですから、同様に遺産相続が発生した場合に、遺産分割において長男の特別受益が問題となります。
③長男が被相続人の指示で引き出し、使途不明
預金を引き出すこと自体には何ら問題はありません。上記(ア)③と同様に、使途についての証明ができなければ、遺産相続トラブルに関する訴訟において問題にすることはできません。多くの場合は引き出しの指示をした以上は自分で使ったのであろうという推定がなされ、①と同様の結論になります。
④長男が被相続人に無断で引き出し、被相続人のために使用
引き出し自体は被相続人に無断で行っていますから無権代理行為(代理人としての権限がない無効な行為)ですが、結局は被相続人のために使用したのですから、特に遺産相続トラブルはもちろん、何ら問題にはなりません。
⑤長男が被相続人に無断で引き出し、自分のために使用した場合
このパターンがまさに財産の不正操作に該当します。
⑥長男が被相続人に無断で引き出し、使途不明の場合
これも上記⑤と同様、財産の不正操作のパターンとなります。

(ウ)引き出した者および使途が不明の場合

この場合は、引き出した者および使途について証明できなければ、遺産相続トラブルに関する訴訟において問題とすることはできません。

イ 不正操作の方法

預金を引き出す方法は、
①印鑑と通帳を使って本人と名乗って銀行窓口で引き出す。
②印鑑と通帳と使って本人の代理人と偽って銀行窓口で引き出す。
③ATMで引き出す。
④インターネットバンキングでほかの口座に預金を移し替える。
が遺産分割専門の遺産相続弁護士が指摘する主な方法です。

引き出し方法と本人確認
引き出し方法と本人確認

①と②の違いは、銀行窓口に印鑑と通帳を持っていく点では同じですが、本人に成りすますのと、代理人として引き出すことの違いがあります。
②は代理権がないにもかかわらずあるかのように偽って無権代理人として引き出す行為で、本来は無効な引き出しです。
①②には詐欺罪が、③には窃盗罪が、④には電子的計算機使用詐欺罪がそれぞれ成立しますが、いずれも財産の不正操作に該当します。
従来は①②が多かったのですが、最近の銀行実務における本人確認の強化の流れを受けて、③④が増えてきました。
③④の場合、マニュアルでの本人確認がないため、パスワードを把握されてしまうと防御のしようがありません。不正操作をする者が好き勝手に操作できるのです。目撃者や証人もいないので、不正操作されたことの立証は困難です。ATMに設置された防犯カメラの映像データも、金融機関が私人に対して提供することはありせんし、一定の保存期間を過ぎると消去されてしまいます。

ウ 金融機関における本人確認の実情

金融機関における本人確認が強化されたと指摘しましたが、実際にはどのような手続きを踏んで本人確認がなされているのでしょうか。遺産分割専門の遺産相続弁護士が本人確認の実情をお伝えします。
金融機関では預金払い戻しに当たり、運転免許証やパスポートなど顔写真入りの身分証明書の提示が求められ、本人確認をします。
銀行窓口では、以下の書類の提示が求められます(個人の場合)。具体的な本人確認書類は金融機関ごとに異なる場合がありますので、取引をする金融機関に必ず確認をする必要があります。

  • ①運転免許証
  • ②運転経歴証明書(平成24年4月1日以降交付のもの)
  • ③旅券・乗員手帳
  • ④住民基本台帳カード(写真付のもの)
  • ⑤各種年金手帳
  • ⑥各種福祉手帳
  • ⑦各種健康保険証⑧後期高齢者医療被保険者証
  • ⑨母子手帳
  • ⑩身体障害者手帳
  • ⑪在留カード・特別永住者証明書
  • ⑫取引に実印を使用する場合の当該実印の印鑑登録証明書
    (銀行が提示または送付を受ける日前6カ月以内に作成されたものに限る)
  • ⑬官公庁から発行・発給された書類で、顔写真が貼付されたもの(有効期限のないもので、銀行が提示または送付を受ける日の前6カ月以内に作成されたものに限る。ただし、本人から提示された場合などに限る)。
  • ⑭住民票の写し
  • ⑮住民票の記載事項証明書
  • ⑯印鑑登録証明書(上記⑫を除く)
  • ⑰戸籍謄本・抄本(戸籍の附票の写しが添付されているもの)
  • ⑱官公庁から発行・発給された書類(上記⑬を除く)

特に次の取引などを行う場合には、本人確認書類の提示だけでなく、取引の目的や職業などを確認します。
①口座開設、貸金庫、保護預りなどの取引を開始するとき
②200万円を超える現金・持参人払式小切手などの受払いを伴う取引をするとき
③10万円を超える現金による振込み(電気、ガスなどの公共料金の収納を含む)をするとき、10万円を超える現金を持参人払式小切手により受け取るとき
④融資取引をするとき

健康保険証などでも以前は身分証明書として通用しましたが、現在は顔写真入りのものを求められます。運転免許証がない場合は健康保険証でも通用するようですが、その他の本人確認書類も求められるようです。日本では国民全員が必携する顔写真入りの身分証明書がありませんが、外国では国民全員に身分証を与える国もあります。マイナンバー制度により国民全員に番号が割り振られますが、マイナンバーカードの普及率は現段階でわずか5%程度であることから、マイナンバーカードによる本人確認が定着するか不明といえます。 ただし、本人確認をどんなに徹底しても、同性で年齢の近い家族が本人をかたった場合には顔が似ていることも多く、すり抜けられることも多いでしょう。
銀行関係者によると、昔は印鑑と通帳を持ってくれば、本人とみなして預金の払い戻しに応じていたようです。現在は、払い戻し額によっては身分証の提示を求めることもあるものの、写真と目の前の人物が同一かどうかをまじまじと確認することはないとのことです。クレジットカードについても日本では、カード裏面に書かれた署名と、利用票に書かれた署名との同一性をしっかりと確認することはありません。外国では、利用票に署名した際に字体を崩しすぎて再度の署名を求められることもありますが、日本では、本人確認が形式的なものにとどまっているようです。
財産の不正操作が頻発している事実からしても、本人確認はある程度、杜撰なやり方で行われているのが現状なのでしょう。財産の不正操作を撲滅し遺産相続トラブルを防止するためには、指紋認証などによって本人確認を徹底することも考えられますが、現実には難しいと思われます。

遺産相続弁護士のコラム なぜ本人確認が厳格になっているのか

マネーローンダリング対策、テロ資金対策のための国際的な要請を受けて、平成19年1月4日以降、10万円を超える現金送金などを行う際に、金融機関に対し送金人の本人確認などが義務付けられるようになりました。同20年3月1日以降は、犯罪収益移転防止法に基づき、本人確認法と同様の本人確認が義務付けられています。
遺産分相続トラブルとは話が違いますが、マネーローンダリングは、麻薬取引や暴力団による銃器売買など、何らかの犯罪行為によって不正に取得されたお金を、口座を転々と移動させることによってあたかもきれいなお金であるかのようにすることです。金融市場のグローバル化や組織的犯罪の国際化が進むにつれて、国際的規模で行われるようになりました。
日本では平成2年に発表されたFATF(資金洗浄に関する金融活動作業部会)の「40の勧告」を受けて、同年6月には旧大蔵省が金融機関に対して通達を出し、平成4年以降、顧客の本人確認を実施することを実質的に義務付けました。当時の金融機関においては、借名口座や仮名口座が多数存在していたことから、各金融機関に衝撃が走ったそうです。
遺産相続トラブルにも関係してくる本人確認の話に戻ります。現金での振り込みを行う場合には10万円を超えるとATMではできなくなり、金融機関の窓口で本人確認書類を提示したうえで振込みを行う必要があります。代理人を使って10万円を超える現金の振込みを行う場合には、本人と代理人双方の本人確認が必要です。
平成25年4月1日施行の改正犯罪収益移転防止法では、確認が必要となる取引や確認事項が追加され、より厳格な本人確認が求められるようになりました。
取引を通常の取引とハイリスク取引(なりすましが疑われる取引など、マネーローンダリングのリスクが高い一定の取引として、以下に該当する取引。①過去の契約の際に確認した顧客など、または代表者などに成りすましている疑いのある取引、②過去の契約時の確認の際に確認事項を偽っていた疑いがある顧客などとの取引、③イラン・北朝鮮に居住、所在する者との取引)に区別し、ハイリスク取引を行う際にはさらに厳格な確認を要求しています。200万円を超える財産の移転を伴う場合には、資産および収入の状況の確認も必要となります。
確認事項としても、取引の目的、職業(個人)、事業内容(法人)、実質的支配者(法人)が追加されました。

本人確認が杜撰になされてきた一方で、本人確認が厳密になり過ぎて支障が生じている場面もあります。
遺産相続手続きの際に、遺産分割専門の遺産相続弁護士が依頼者(相続人)の代理人として金融機関に対して、依頼者の口座情報の確認などの手続きを行うことがあります。もちろん、依頼者本人でもできるのですが、時間がかかる複雑な手続きですから、遺産分割専門の遺産相続弁護士が代行して行うケースが多くあります。しかし、特に最近は遺産分割専門の遺産相続弁護士による代行が難しくなってきました。金融機関が依頼者本人の同意を厳密に確認しているのです。委任状一本で情報開示に応じていた金融機関も、最近では本人に所定の用紙への記入を要求し始めました。相続人本人が手続きを行う場合と同じ手間がかかってしまいます。
生存している相続人に関する情報は、代理人による請求を認めない金融機関もあります。
しかし、相続人が多忙なため平日の日中に手続きができない場合もあります、ご高齢で身体が動かなかったり、手が震えて署名ができなかったりする場合もあります。
これからは本人確認がますます徹底されるのでしょうが、現実のニーズを考えると、遺産分割専門の遺産相続弁護士の立場からは不便になっていくこともあるのではないかと危惧しています。
本人をかたった場合には杜撰な本人確認がなされ、委任状を作成して堂々と代理人として申請すると、個人情報を盾に不便を強いられる。遺産分割専門の遺産相続弁護士としては大いに矛盾を感じています。

遺産相続弁護士のコラム 銀行は保護される?-民法478条と預金者保護法

本来の預金者以外の人間が、本来の預金者又は本来の預金者の代理人をかたって預金を引き出した場合に、銀行の責任はどうなるのでしょうか。遺産分割専門の遺産相続弁護士が判例も踏まえて解説します。
本来の預金者以外の者に対して銀行が払い戻しに応じた場合、本来の預金者に支払われていない以上、銀行の払い戻しに応じる義務は消滅しないのが原則です。本来の預金者は依然として、銀行に対して払い戻しを請求できるようにも思えます。
しかし結果として、銀行は払い戻しに応じる義務はなく、保護されることになるのです。
本来、債務者は債権者本人またはその代理人に弁済すべきであり、債権者以外の者になした弁済は無効となるはずです。しかし、債権者と比べて弱い立場に置かれた債務者が、誤って債権者以外の者に弁済したうえで、真の債権者への弁済も義務付けられると、二重払いを強いられることとなり、債務者にとって酷です。
一方、債務者が二重払いの危険を回避しようとして弁済に慎重になりすぎると、円滑な経済活動に支障を来してしまいます。
そこで民法は、債務者が債権者以外の者に弁済した場合であっても、取引観念上、真実の債権者と信じさせるような外観を有する者に弁済した場合であって、一定の条件を満たせば弁済は有効としています(民法478条)。
一定の条件とは、債務者が弁済受領者に受領権限があると信じ、かつそう信じることについて過失がないこととされています。弱者である債務者を保護し、債権者に負担を負わせることによって、弁済の円滑を図ることです。
民法478条に従うと、預金者以外の者が盗んだキャッシュカードや偽造したキャッシュカードを使って預金の払い戻しを受けた場合、その払い戻しは有効ということになりそうです。つまり、本来の預金者はお金を失うという結論です。判例について見てみると、昭和41年10月4日の最高裁判例で、金融機関は債権者を名乗る人間に対して定期預金を期限前に払い戻した場合でも、定期預金契約に際し、当該預金の期限前での払い戻しにおける弁済の具体的内容が契約当事者の合意により確定されていれば、金融機関は責任を負わない旨の判決が下されました。また、平成15年4月8日の最高裁判例で、無権限者が盗まれた通帳を使ってATMから払い戻しを受けた場合でも、銀行が機械払いシステムの設置管理において可能な限り無権限者による払い戻しを排除し得るような注意義務を尽くしてさえすれば、銀行は責任を負わない旨の判決が下されました。
しかし、この結論は預金者にとってあまりにも厳しいものです。そもそも民法478条は債権者に比べて弱い立場にある債務者を保護する規定ですから、盗んだキャッシュカードや偽造したキャッシュカードを不正に利用して銀行から払い戻しを受ける場面を想定していなかったともいえます。弱い立場とはいいきれない銀行を保護し、預金者が泣き寝入りするのは、結論の妥当性を欠くように思えます。
この問題点を解消するために、預金者保護法が制定され、平成18年2月10日に施行されました。預金者保護法は、キャッシュカードや暗証番号の管理をしっかり行っていれば、万が一キャッシュカードを偽造されたり盗難されたりして預金の引き下されてしまっても、その損害は金融機関が負担し、預金者は負担を負わないことを定めています。
預金者は、普段から、キャッシュカードを他人に安易に渡したり、盗まれたりしないよう管理したり、暗証番号などを他人に悟られないよう注意して管理することが求められます。通帳を他人に渡していた場合、印鑑と通帳を一緒に保管していた場合、暗証番号をカードに書いていた場合や、暗証番号を生年月日にしたうえで生年月日がわかる書類と一緒に保管していた場合など、預金者に過失がある場合には、補償額が減額されたり、補償が受けられなかったりする場合があります。
預金者保護法の施行を踏まえて、全国銀行協会は、平成20年2月19日、通帳を盗難されたりインターネットバンキングを不正に利用されたりして預金が引き出されることによって生じる損害についても金融機関が負担し、預金者は負担を負わない取り決めを行いました。預金者に過失があったかどうかの立証責任は金融機関が負うので、預金者保護が図られています。

一見、預金者本人の保護が徹底されているようにも思えますが、重要な例外事項が設けられています。夫や妻などの配偶者、子や孫などの2親等以内の親族、同居の親族その他の同居人又は家事使用人による引き出しの場合、預金者保護法は補償しません。
すなわち、預金者保護法によって財産の不正操作の被害を防止することは難しいのです。
原則、預金通帳と銀行印を持っている人間であれば、財産の不正操作に対して預金の引きおろしに応じても金融機関は責任を負いません。預金者保護法によって財産の不正操作をめぐる遺産相続トラブルを防止することはできないのです。

エ 不正操作をした者の言い訳

財産の不正操作の事実を確認された時に、不正操作をした者はどのように言い訳をするのでしょうか。遺産分割専門の遺産相続弁護士が想定しうる言い訳を説明します。

(ア)「被相続人に頼まれて引き下し、被相続人のために使った」

引き出しは無断でやったのではなく委任を受けて行ったので、無断で引き出したのではないという言い訳です。つまり、引き出したこと自体は認めるものの、本人の了承を得たと言うのです。
この場合は、遺産相続トラブルにおいて委任契約や委任状の有無といった委任の事実が問題となります。また、引き出したお金は本人に渡ってなくなったと主張するでしょうから、お金の使い道が問題になります。お金の使い道は領収書や購入した現物、振込履歴などで確認することになります。もっとも、これらの証拠はないことが多いと思われます。
遺産分割専門の遺産相続弁護士が考える重要ポイントは、委任の経緯や金銭の使途の合理性です。
委任を受けたとされる当時、委任者である被相続人が寝たきりでお金を使える状況ではなかった場合や、委任をするかどうかの判断能力もなかった場合、「被相続人から委任を受けた」「被相続人のために使った」との主張に合理性はありません。
また、連日50万円ずつ引き下すなど不自然な行動がある場合も、相手方のいい分に合理性がないといえるでしょう。不正操作をした者がこうした不合理な言い訳をする場合には、不正操作行為を裁判で積極的に争ったり、遺産分割協議の場で不正な不正操作行為を問題にしたりするなど、遺産分割専門の遺産相続弁護士とともに不正操作をした者と戦うべきです。

(イ)「被相続人からもらった」

引き出したのは事実だが、被相続人からもらったという言い訳です。お金は勝手に使ったが事後的に承諾されたという場合もそうですが、生前贈与となります。
ただし相続人同士であれば、もらったという言い訳をされた場合でも救済措置があります。遺産相続における特別受益として持ち戻しの対象になる可能性があるからです。
遺産分割専門の遺産相続弁護士が問題となると考えるパターンは、相続人以外の者が被相続人からもらった旨の言い訳をしてきたときです。
この場合は遺産相続における特別受益には該当しません。
それを見越してか、遺産分割協議の場において、相続人ではない者がもらったという主張をしてくる事例を遺産分割専門の遺産相続弁護士としてよく見ます。たとえば、長男ではなく長男の嫁がもらったのだという言い訳をしてくるのです。
もらったと不正操作をした者が言い訳する場合、かたくなな態度に出ているケースと言え、遺産相続トラブルに関する裁判でも早期の和解は難しいのが通常です。
争いがあるので、遺産相続トラブルに関する裁判において証人尋問が行われる可能性も高くなります。証人尋問が行われた後でも、裁判官が和解を進めてきます。遺産分割に詳しい遺産相続弁護士として遺産相続に関する裁判に関わっていると、家族間の裁判なので判決を書きたくない第三者の裁判官と、散々争ってもう後戻りできない当事者との温度差を感じます。
遺産相続に関する裁判では、贈与契約があったかどうかの認定に当たって証拠を吟味するのが通常です。しかし、家族間で贈与契約書を作成することなどまずありません。遺産相続トラブルにおいては、書面での裏付けがないので、被相続人と引き出した人との人間関係や、通帳や印鑑などの管理状況を確認することになります。
贈与契約があったか否かを判断する際の重要なポイントとして遺産分割専門の遺産相続弁護士が挙げたい点は、当事者間、つまり相続人と引き出した人との人間関係です。贈与は、相手方を援助する、あるいは相手方に何らかの利益を与える裏事情があるのが通常です。こうした目的がないと贈与を認定することはできないと考えられます。たとえば、当時、親子関係・嫁姑関係が良好ではなかった、頻繁に連絡を取り合う関係ではなく疎遠になっていたなどの事情があれば、贈与契約の存在を認定することは難しくなるでしょう。

(ウ)「被相続人自身が引き下した」

被相続人が自分で引き出したという旨の言い訳が飛び出すこともあります。
病気で入院していたはずなのに、糖尿病で手指が壊死していて字が書けないはずなのに、引き出し申込書の筆跡は明らかに本人のものと異なるのに……。それでも平気でうそをつく不正操作をした者がいます。
遺産分割専門の遺産相続弁護士が提案する戦い方は、引き出し当時の被相続人の状況を徹底的に調査して、不正操作をした者の矛盾点をつくことです。
被相続人の病院の入院履歴や看護記録、引き出し当時に国内に滞在していたかどうかを確認するためにパスポートなどが遺産相続に関する裁判の証拠として提出されることもあります。

(2)現金の不正操作

ア 不正操作のパターン

被相続人に無断で持ち出し自分のために使った。あるいは持ち出したお金が使途不明の場合など、財産の不正操作を検討するケースでは、誰がどのようにして持ち出したかによって扱いが異なります。想定される場面を遺産分割専門の遺産相続弁護士が検討してみましょう。

(ア)被相続人が生前に持ち出した場合

①被相続人が自分で使用
被相続人が自分の現金を自分のために持ち出し、使用したのですから、遺産相続トラブルはもちろん、何ら問題は発生しません。
②被相続人が長男に贈与した場合
遺産相続において、長男の特別受益が問題となります。
③使途不明の場合
使途についての証明ができなければ、遺産相続に関する訴訟において問題にすることはできません。多くの場合は自分で使ったのであろうという推定がなされ、①と同様の結論になります。

(イ)長男が持ち出した場合

①長男が被相続人の指示で持ち出し、被相続人のために使用
上記(ア)①と同様に、被相続人が自分のために使用したのですから、遺産相続トラブルはもちろん、何ら問題は発生しません。
②長男が被相続人の指示で持ち出し、長男に贈与
上記(ア)②との違いは被相続人自らが持ち出したか、長男が代理人となって持ち出したか点のみですから、同様に遺産相続において、長男の特別受益が問題となります。
③長男が被相続人の指示で持ち出し、使途不明
現金を持ち出すこと自体には何ら問題はありません。上記(ア)③と同様に、使途についての証明ができなければ、遺産相続に関する訴訟において問題にすることはできません。多くの場合は自分で使ったのであろうという推定がなされ、①と同様の結論になります。
④長男が被相続人に無断で持ち出し、被相続人のために使用
持ち出し自体は被相続人に無断で行っていますから無権代理行為ですが、結局は被相続人のために使用したのですから、特に問題とはなりません。
⑤長男が被相続人に無断で持ち出し、自分のために使用
このパターンが正に財産の不正操作に該当します。
⑥長男が被相続人に無断で持ち出し、使途不明
これも上記⑤と同様、財産の不正操作のパターンです。

(ウ)持ち出した者および使途が不明の場合

この場合は、持ち出した者および使途について証明できなければ、遺産相続に関する訴訟において問題とすることはできません。

遺産相続弁護士のコラム タンス預金の問題点

金融機関に預金せず自宅の金庫などに現金をしまっておく、いわゆる「タンス預金」をする方もいるようです。
箪笥に限らず、冷蔵庫や冷凍庫、金庫、仏壇の引き出しなどに保管しておく方もいますが、昔は箪笥の奥にしまっておくことが多かったため、「タンス預金」と呼ばれます。このタンス預金の存在が、遺産分割の場において問題となったり、遺産相続トラブルに関する裁判に発展したりする原因となることがあります。
バブル崩壊後、日本におけるタンス預金の額は増加傾向にあります。
日本銀行の調査によると、平成27年末に人々の財布や企業の金庫の中などで保管されたまま年を越す日本銀行券(お札)の総額は、98兆4000億円で、枚数にすると155億6000万枚とのことです。
なぜ銀行ではなく、タンス預金を選択するのでしょうか。遺産分割専門の遺産相続弁護士が考える主な理由として以下の点を挙げることができます。
①銀行の預金金利が低い
②金融機関が破綻する可能性がある
③金融機関が破綻してもペイオフにより1000万円までしか保護されない
④手元に置いておいた方が急な出費に備えられる
⑤お金の出し入れにATM手数料がかかる
バブル期には2%程度であった銀行の普通預金金利ですが、現在は0.02%。1000万円を預けても、利息は1年で2000円にしかなりません。銀行に預ける意味はないと考える方も多いでしょう。
また、金融機関が破綻した際に預金者を保護するペイオフの下では、1金融機関につき1預金者1000万円までの預金およびその利息しか保護されません。
過去にペイオフが発動されたのは、平成22年9月10日に日本振興銀行が経営破綻した時のみ。しかし金融機関が破綻する可能性もゼロではないご時世ですから、現金資産が多い家庭はタンス預金を選択することもあるようです。
一方、タンス預金のリスクは次の4点です。
①火事などの災害や虫による食害で財産を失うリスク
②インフレリスク
③盗難にあうリスク
④財産の不正操作が行われるリスク
耐火金庫を用意すれば、火事から財産を守ることはできますが、地震や津波で家が崩壊したり流されたりしてしまう場合もあります。
実際に東日本大震災では、崩壊した家とともに多くのタンス預金が流されてしまいました。
金融機関に預ければ金利の上昇により貨幣価値の下落分を補うことができますが、タンス預金には利子が全くつきません。インフレになると手持ち資産の価値が下がってしまいます。
警視庁の調査では、平成27年の東京都内における侵入窃盗の認知件数は6324件です。そのうち住宅で発生したものは3465件で、全体の54.8%にものぼります。
家財保険に加入していたとしても、現金盗難について補償されるのは20万円程度。一番問題なのは、財産の不正操作の被害にあい遺産相続トラブルに発展するリスクです。
預金の不正操作の場合、通帳を持ち出して銀行窓口やATMに出向く手間が必要です。
一方、タンス預金を不正操作する場合は、どこかに出向く必要もありません。目の前に現金があって誰も見ていなければ、容易に不正操作することができてしまいます。
通常、家の中には防犯カメラなどはありませんから、財産の不正操作の現場をおさえられる可能性も低いでしょう。誰にも知られることなく、易々と不正操作を成し遂げることができるのです。

イ 発見されにくい理由

預金口座や不動産と異なり、現金には名前が書いてありません。現金は誰の所有物なのかが不明確なので、遺産相続に際にトラブルの原因になるのです。
また、金庫で現金を保管していた場合、出入金記録をつけていなければ不正操作されたとしても気づきにくいといえます。
家族間では財布が共通という家庭も多いでしょうから、不審な動きがあっても発見されにくいのです。遺産相続が発生した場合でも、現金の所有者である被相続人が亡くなってしまっている以上、どこにどれだけ現金があったのか誰もわかりませんから、結局はバレないことになってしまいます。

(3)取戻し方法

預金や現金を不正操作された場合、不当利得返還請求又は不法行為損害賠償請求により不正操作分を取り戻すことになります。
預金の不正操作を例にして、遺産分割専門の遺産相続弁護士が具体的に検討します。

ア 遺産相続開始前の引き出し

相続人の1人が無断で被相続人の預貯金を引き出した場合、引き出した相続人はお金を受領した時点で民法704条前段の悪意の受益者となります。ちなみに民法では、当該利益を保有することができる法律上の原因が自分にはないことを知っている者、すなわち利益をそのまま保持しておく資格が自分にないことをわかっている者(悪意の受益者)については、保護の必要性が乏しいことから、受けた利益に利息を付けて返還しなければならないことになっています(民法704条)。
相続人が無断で預貯金を引き出した場合であっても、直ちに他の共同相続人に対する不正操作になるわけではありません。引き出した相続人が被相続人の口座を管理していることを利用してお金を引き出した上、自己の利益のために隠匿ないし領得した場合に限り、他の共同相続人に対する不法行為が成立することになります。
長男が父親に無断で預金を下ろした場合、父親の長男に対する不法行為損害賠償請求権または不当利得返還請求権が発生し、父親が死亡による遺産相続開始時にこれらの請求権が長男以外の相続人に遺産相続における法定相続分に応じて当然に帰属することになります。父親が死亡し遺産相続が発生した時点で、預金は各相続人の法定相続分に従って当然に分割されます。相続人が兄妹2人であるなら、その預金の半分は自分のものですから、兄である長男が勝手に引き出した預金額の半額しか返還を請求できません。

イ 相続開始後の引き出し

相続預金を勝手に引き出した人があるとき、相続預金は可分債権なので、相続開始と同時に法定相続人が法定相続分で相続したことになりますから、自分の財産を勝手に使われたとして勝手に引き出して不正操作をした者に対して、他の相続人は不当利得として返還請求していくことができます。

※可分債権

可分債権とは、可分給付を目的とする債権を指します。遺産の範囲と遺産分割の範囲は完全には一致せず、可分債権は原則として遺産分割の対象となる財産には含まれません。可分債権の典型は預貯金であり、預貯金などは共同相続人の遺産分割協議を待つまでもなく、相続開始と同時に当然に相続分に従って分割されます。しかし実際は、預貯金を含めて遺産分割の話し合いをする例がほとんどです。

遺産相続弁護士のコラム 遺産分割調停における預金無断引き出しの主張

調停において無断引き出しの事実や使途不明金の主張がなされた場合、当事者の言い分を聞いて、預貯金を管理する相続人に対して預貯金払い戻しの経緯や使途を開示し、資料を提出するように促します。任意に開示しない場合には、弁護士会照会を利用するなどして金融機関に取引履歴の開示を求めます。また、民事訴訟による解決を図ることとし、調停では現存する他の遺産についてのみを対象として手続きを進めます。
相続人全員が、預金の無断引き出しに対する不法行為損害賠償請求権または不当利得返還請求権を遺産分割協議の対象にすることに合意すれば、遺産分割協議の中で解決することになります。合意が得られない場合は、各相続人が引き出した相続人に対して、不法行為損害賠償請求権または不当利得返還請求権を行使して、別途民事訴訟を提起することになります。
遺産分割調停手続きの中で、共同相続人からこのような預金の無断引き出しの主張があった場合、調停委員はこの主張も含めて遺産全体を適正に分割できるよう、各共同相続人の主張を調整するでしょう。
もっとも、財産の不正操作をした本人が「私が無断で引き出しました」と認める事例はほとんどありません。「父に頼まれて引き出し、父が使った」「父から贈与された」「自分ではなく父が引き出した」などと言い訳をし、引き出されたお金が遺産であることを認めない場合がほとんどです。
財産の不正操作をした本人からこのような言い訳が主張された場合、遺産分割調停が不調になることもあります。
調停が不調に終わった場合、預金の無断引き出しについては、地方裁判所に訴訟提起することになります。無断に引き出された預金以外の相続財産については、家庭裁判所が遺産分割の審判をする可能性もあります。
調停が不調の場合であっても、「不当利得問題については別途解決する」という条項を入れて、その他の相続財産についてだけでも遺産分割調停で解決しておいた方が、紛争の早期解決にはつながります。
一点、遺産分割調停を成立させる際の注意点があります。無断引き出し問題を主張せず、遺産分割調停が成立した場合、調停条項のなかに「相続人間においては債権債務がない」という清算条項が含まれていると、後に無断引き出しの主張ができなくなる可能性があります。無断引き出しの疑惑が存在している場合は、その点を別途問題にできる余地を残す協議書を作成するべきです。

2 不動産の不正操作第2章 家族の中でお金と土地が不正操作されている

(1)所有権の不正操作

不動産を盗まれる場合にはまず、所有権を乗っ取られるパターンがあります。
他の家族に気付かれないまま、所有者の地位を自分のものにしてしまい、不動産を売却しようと場合や遺産相続が発生した場合などに登記簿を確認して初めて不正操作されたことに気付くということが実際にあるのです。
所有権の不正操作についてパターンごとに遺産分割に詳しい遺産相続弁護士が解説します。

ア 売買契約書や贈与契約書の偽造

あたかも土地が売買または贈与されたかのように、売買契約書や贈与契約書を偽造する場合です。
土地の所有者の印鑑を勝手に使用し、署名もしてしまいます。
売買契約書や贈与契約書の字体と、土地の所有者が書いた書面の字体とが、明らかに違うケースもよくあります。
遺産相続に関する裁判や遺産分割協議において、不正操作をした者は問題となっている不動産が自分のものであることの証拠として、偽造冴えたと思われる売買契約書や贈与契約書を提出してくるでしょう。売買契約書や贈与契約書のような書面の証拠の原本が偽造されたかどうかについては、まず外形的・物理的な不自然さの有無を検討します。改ざん疑惑のある部分の文言や、他の部分との整合性なども吟味することになります。
遺産分割に詳しい遺産相続弁護士としては、売買契約書や贈与契約書の内容面を検討する際に、以下の観点に着目します。
①書類の内容が、客観的事実や当事者間に争いのない事実と符合しているか
②内容自体に不自然な点はないか
③虚偽文書が作成される誘因はないか
③虚偽文書作成の誘因を検討するに当たっては、文書作成者が生理的・心理的状況に十分な注意力を有している状況であったか、記憶に誤りや脱漏はないか、作成者が記憶内容を適切に表現する能力に欠けていないかなどといった文書作成時における作成者の状況や、相続人との人間関係を重要視することになります。
相手方から契約書が提出された場合には、遺産分割に詳しい遺産相続弁護士は、署名押印欄はもちろんのこと、契約書の文言1つ1つを詳細に検討し、不自然な点や到底あり得ないような内容の記載がないかに注意して確認します。

遺産相続弁護士のコラム 契約書がない場合

「家族間の売買なので契約書なんてない」
財産の不正操作がこのように主張してきた場合、裁判においてはどのように判断されるのでしょうか。裁判実務を熟知した遺産分割専門の遺産相続弁護士が解説します。
不動産のように高額で重要な財産の売買では、契約書が作成されるのが一般的な取引慣行です。契約書が作成されていない場合、一般的には、売買契約の成立の認定は極めて慎重に判断されます。
ただし、親族間でお金の貸し借りをした場合にいちいち借用書を作成しないことが多いのと同様に、親族間における土地の売買では契約書を作成しなくてもおかしくはないという結論になりそうです。
契約書が存在しない場合の不動産の売買契約の認定について判例は、代金の支払いなどに関する客観的証拠(書証)の有無や、各証書の意味・作成経緯などについての当事者の説明における合理性、当該取引の必要性・合理性、買主が所有者としての言動を取っており売主がこれを許容しているかなど、各当事者の事後の言動について検討して判断しています(最高裁平成10年12月8日第三小法廷判決)。
たとえば、1筆の土地の一部が売買の目的となったケースでは、売主が売買の目的となった土地について分筆登記手続きを行ったこと、買主が相当の費用をかけて売買の目的となった物件に改良工事を行ったこと、買主の占有使用について売主が異議を述べず、使用期間などについての特段の協議がなされた形跡もなく、永続的な使用が前提とされていたと考えられること、買主が継続的に売買の目的となった不動産の固定資産税を負担していることなどの事実が、契約成立を認めるうえで重要な要素となりました。
財産の不正操作の事実を証明したい、つまり売買契約がなかったことを証明したいのであれば、これらの要素とは逆方向の事実を、遺産トラブルに関する裁判において証拠として裁判所に提出すべきということが遺産分割専門の遺産相続弁護士からのアドバイスです。
すなわち、売主が売買を前提とした行動をとっていないこと、買主が買主らしい行動をとっていないこと、不動産の固定資産税は依然として売主が負担していることなどを明らかにすることになります。
例えば遺産分割専門の遺産相続弁護士が相続人と相談して、役所の納税課などから固定資産税の納税証明書を取り寄せたり、口座振替で支払っている場合には通帳の写しを提出したりします。また、買主と主張する不正操作をした者が当該不動産に改装工事を施したり、実際に住んだりした事実がないことを主張するため、不動産の現状写真を提出してもよいでしょう。
反対に、契約書が存在しているが契約そのものは仮装のもので、売買契約は存在しないと主張する場合はどうでしょうか。判例では、関係書証がある場合には、記載内容と体裁からして特段の事情がない限り、その記載とおりの事実があったものと認めるべきであって、もし書証に反する認定をするのであれば、十分な理由を示さなければならないとされています(最判昭和32年10月31日、最判昭和45年11月26日)。つまり、特段の事情があるため、書証の記載通りの事実が存在しないことを、遺産分割専門の遺産相続弁護士に相談のうえ、十分に主張しなければならないのです。
また、書証の提出された時期やそれまでの主張との関係などを考慮して、書証の信用性が判断されます(最判昭和45年10月30日)。例えば、第1審においては当事者双方ともに書面の存在には言及せず、原告本人も口頭の契約と述べていたにもかかわらず、控訴審になってはじめて金銭消費貸借に関する金銭借用証書が提出されたといった場合です。その場合は、書証の信用性を慎重に判断することになるでしょう。
遺産分割に詳しい遺産相続弁護士が考える書証に関するポイントは、書証の真否や内容の合理性だけではなく、提出された時期や経過などについても考慮される点です。
事実認定をするうえで書証の存在は重要であり、その文面や内容だけではなく、それまでの交渉経緯、行為の目的、事後の行動などをも考慮して、その書面の持つ意味合いを判断する必要があります。一方で、領収書などがないことを理由に弁済の事実を認めなかったのは違法であるとした判例もあります(最判平成7年5月30日)。文書の不存在から直ちに事実が存在しないとすることはできないということです。遺産相続トラブルに関する裁判で領収書などがないことが問題となった場合、遺産分割専門の遺産相続弁護士が考える主張のポイントは、領収書などが存在しないことの合理的理由を説明することといえるでしょう。

遺産相続弁護士のコラム 代金額にも注意

売買契約の成否が問題となるケースとして、代金額が決まっていない場合があります。
売買代金については、確定した額を合意することは必要なく、具体的な金額を算出する方式が合意されていれば問題はありません。坪単価いくらと決めておいて、後日に測量し具体的な金額を決めても構わないのです。
では、時価という合意がある場合はどうでしょうか。
裁判例では、「時価による」という合意について、売買契約の成立を認めています。一方、「時価を基準にして協議する」という合意については、「協議」とある以上、売買代金は一定額に決まっておらず協議の余地があることになり、売買契約の成立は認められないとされています。
売買代金額が未定の場合は、そもそも売買契約は成立していたのかということが争われるのです。万が一、契約書が見つかった場合でも、契約書がある以上は遺産相続トラブルに関する裁判で不正操作をした者と戦うことができないとすぐに諦めるのではなく、売買代金欄の記載には注意する必要があるということが遺産分割専門の遺産相続弁護士からのアドバイスです。

イ なぜ可能なのか―登記簿を見たことありますか?

不動産を売却する場合や遺産相続が発生した場合でなければ、自分が所有する不動産の登記簿を確認することは、通常ありません。
まさか自分の不動産が不正に名義変更されているとは思いませんし、わざわざ法務局まで出向くのも面倒なので確認しないのでしょう。
不動産の登記簿を見るのは、不動産を売却するときか遺産相続のときくらいですから、贈与契約書を偽造して勝手に登記を移転しても、所有者本人には全く気付かれません。
遺産分割専門の遺産相続弁護士の立場からは、やはり登記簿は定期的に確認するべきだと警告したいです。登記情報提供サービスを利用すれば、法務局に出向かずに登記簿を確認することができます。登記情報提供サービスとは、登記情報についてインターネットで確認できる有料サービスです。
インターネットができる環境にあり、不動産の地番や家屋番号がわかる資料(固定資産税納税通知書)とクレジットカードが手元にあれば、利用することができますので、億劫がらずに定期的に登記簿を確認するようにしましょう。

(2)抵当権の不正操作

盗まれる対象は所有権だけではありません。いつの間にか莫大な額の借金のかたとして、不動産に抵当権が設定されていることもあるのです。
抵当権の不正操作とはどのようなパターンなのか、なぜ抵当権の不正操作が可能なのかについて、遺産分割に詳しい遺産相続弁護士が解決します。

ア 抵当権設定契約書の偽造

父親の土地に、長男が借金の担保として抵当権を勝手に設定するパターンです。長男が父親の印鑑を勝手に持ち出し、契約書に押印し、署名を偽造してしまうのです。
勝手に設定された抵当権設定契約であっても、抵当権そのものを取り消せるわけではありません。父親が死亡し遺産相続が発生した後にようやく不正に気が付いた場合、父親の損害賠償請求権を相続人が代わって長男に対して行使することになります。なお、相続財産に関する時効は、相続人が確定した時から6カ月間は完成しません(民法160条)。
契約書の内容を確認させず、署名だけをさせられることもあります。遺産相続トラブルに関する裁判で財産の不正操作行為が問題となった場合、本人の署名があるので、有効な契約であると不正操作をした者は主張するでしょう。被害を受けた家族は、遺産分割専門の遺産相続弁護士に相談して契約が真意に基づかないことを主張する必要があります。

イ なぜ可能なのか

抵当権が設定されているかどうかは、登記簿を確認しないとわかりません。不動産を売却する場合や遺産相続が発生した場合でない限り、日常的に登記簿を確認している方は少ないでしょうから、不正に全く気付かない方も多いのです。
抵当権の不正操作に関する遺産分割専門の遺産相続弁護士からの注意点は、抵当権が設定されても所有関係に変動がないので、所有権の不正操作以上に気づきにくいという点です。
通常、登記がなされてから、抵当権の権利を主張するまでの間に長い時間が経過すると、どうしてもっと早く権利の主張をしなかったのだろうという疑問が生じます。真の権利者であればもっと迅速に権利主張をすることが通常だからです。しかし、抵当権の場合は、借金が返せなくなって初めて抵当権を実行することになるので、長時間が経っていることが抵当権者に不利にはなりません。遺産相続トラブルに関する裁判になった場合には、不正操作をした者の行動の矛盾点を突くことが難しく厄介です。
これまで、権利証(登記識別情報)、印鑑証明書、実印を用意したうえで、司法書士に対する委任状があれば、極めて甘い本人確認を経たうえで抵当権設定が行われてきたというのが実情です。数年前から本人確認が厳格化され、不動産の所有者に対する本人確認が写真入りの身分証明書によることになりました。これによって赤の他人による勝手な抵当権の設定は難しくなっています。
しかし、財産の不正操作については、あまり効果がありません。身分証明書の入手は容易にできるうえ、個人情報も入手しやすい。顔もよく似ているので、本人に成りすますことも簡単だからです。抵当権設定の際の本人確認が厳格化されたからといって、抵当権の不正操作をめぐる遺産相続トラブルが亡くなるわけではなさそうです。

(3)占有権の不正操作(不法占拠)

所有権を盗まれたり抵当権を勝手に設定されたりするだけではなく、不動産を不法占拠されることもあります。これに対しては、占拠している不動産から出て行かせたり、賃料相当額を請求したりすることができます。
具体的な場面ごとに、不正操作をした者に対して何ができるのかについて、遺産分割専門の遺産相続弁護士が検討します。

ア 不正操作のパターン
(ア)被相続人の承諾を得て遺産相続開始前から不動産を占有し続けている場合

父親と同居していた長男が、父親が死亡して遺産相続が発生した後も実家に住み続ける場合です。
この場合、長男が不正操作したとは言いにくい状況であり、もとから同居していた長男を保護する必要があります。
特別の事情がない限り、父親と同居していた長男との間で、遺産相続開始後も引き続き長男に実家を無償で使用させる旨の合意があったと推認される扱いになります。遺産相続における遺産分割により建物の所有関係が最終的に確定するまでの期間限定ではありますが、長男は実家に住み続けることができます。
父親が死亡して遺産相続が発生した時から少なくとも遺産分割終了までの間は、父親の地位を承継した他の相続人などが貸主となり、同居していた長男を借主とする使用貸借契約関係が存続することになります。
使用貸借である以上、無償で借りることに何ら問題はないはずですから、住み続けている長男には賃料相当額の支払義務はありません。つまり、他の相続人は長男について不正操作をした者として扱うことはできず、遺産相続トラブルは発生しません。

(イ)遺産相続開始後に共同相続人の同意を得て占有を開始した場合

父親が死亡して遺産相続が開始した後、他の相続人の同意を得て、長男が実家に住み始める場合です。
共同相続人が、遺産相続開始後に遺産に属する不動産を共同相続人のうちの1人に占有させるのを許すことは、共有物の管理行為(民法252条本文)ですから、持分の過半数の同意を得ることが必要となります。
持分の過半数を占める相続人が同意しているのであれば、長男と他の共同相続人との関係は、賃料を払う旨の合意があれば賃貸借契約関係、無償である旨の合意があれば使用貸借契約関係となります。この場合も、他の相続人は長男が実家に住み続けることに対して同意しているのですから、遺産相続トラブルは発生しないということになります。

(ウ)相続開始後に無断で占有を開始した場合

たとえ共同相続人の1人であっても、その持分の価格が当該不動産の価格の過半数に満たない場合は、他の共同相続人の同意を得ないでその不動産を単独で占有することはできません。財産の不正操作に発展し遺産相続トラブルとなるパターンです。
もっとも、他の共同相続人の持分の価格の合計額が不動産の価格の過半数を超えている場合であっても、長男に対して明渡しを求めることはできないという点について、遺産分割専門の遺産相続弁護士の立場から注意しておきます。長男は相続で取得した自分の持分に基づき、不動産を占有しているからです。
ただし長男の持分を超える部分の占有は違法といえますから、他の共同相続人は長男に対し、不法行為または不当利得に基づき、長男の持分を超える部分の賃料相当額を請求することができます。

占有のタイミングと賃料
占有のタイミングと賃料
イ 相続開始後の管理方法は民事訴訟で決着をつける

遺産相続開始後の不動産の管理方法はどのように決めるのでしょうか。この点も遺産相続トラブルになりやすいですから、遺産分割専門の遺産相続弁護士が説明します。
たとえ遺産相続問題について既に調停が申し立てられているとしても、遺産である不動産の遺産相続開始後における管理方法は、遺産分割事件の審理対象ではありません。
遺産分割協議の対象として不動産の管理方法を問題とすると、早期解決を達成できないだけではなく、遺産分割事件の審理が複雑かつ困難になります。不動産の管理方法については、民事訴訟手続きによる解決を図ることになります。

(4)取戻し方法

誰と、いつ、どのような状況で争うのかにより、取戻し方法が異なります。場合分けをして遺産分割専門の遺産相続弁護士が解説します。

ア 相続人間で争う場合
(ア)不動産について全部相続させる遺言があった場合

不動産について全部相続させる遺言があった場合には、遺産は本来、全て遺言で相続する相続人のものになります。
したがって、遺産相続開始後において、不動産の一部でも、無断で自分のものとして振る舞っている人間に対しては、相続人だろうが相続人以外であろうが、全て自分のものである不動産を侵害したとして請求することができます。
請求方法は、不当利得返還請求または不法行為による損害賠償請求に加えて、不動産登記そのものを自分のものとして移転するように請求することができます。どの請求を行うのかについては、遺産分割専門の遺産相続弁護士に相談して、もっとも効果的な方法を選択します。

(イ)不動産について全部相続させる遺言がなかった場合

(ア)と異なり、不動産について全部相続させる遺言がなかった場合は、不動産の遺産分割については未定であることになります。そこで、遺産分割専門の遺産相続弁護士に相談して、遺産の範囲確認訴訟によって不動産が遺産の一部であることを確認したうえで、遺産分割調停によって分割を求めることになります。

イ 相続人以外に対して請求する場合・遺産相続開始前に請求する場合

遺産相続開始後に相続人間で争う場合と異なり、相続人による相続分を考慮する必要がありません。
したがって、不動産の一部でも、無断で自分の物として振る舞っている人間に対しては、不当利得返還請求又は不法行為による損害賠償請求をすることができます。加えて、不動産登記について自分へ移転するように請求することができます。どの請求を行うのかについては、遺産分割専門の遺産相続弁護士に相談して、もっとも効果的な方法を選択します。

(5)時効の問題

何とか証拠はそろえた。裁判にかけることも決めた――。
ただし、そこに立ちはだかるのが時効の問題です。
遺産相続トラブルにおける不正操作をした者への具体的な請求に関する時効の問題を検討する前に、遺産分割専門の遺産相続弁護士が時効制度そのものについて説明しておきます。時効制度とは、ある事実状態が一定の期間継続したことを法律要件として、その事実状態によって権利・法律関係を発生させたり消滅させたりするものです。なぜ時効制度が認められているのかというと、①一定期間継続した事実状態が存在する場合、それを前提にさまざまな法律関係が形成されるため、そのような法律関係に一定の保護を与え、取引の安全を図ること(永続した事実状態の尊重)、②仮に正当な権利者であっても、一定期間その権利を行使・維持するために必要な措置を講じなかった者を保護する必要はないこと(権利の上に眠る者を保護しない)、③本来は正当な権利者であったとしても、長期間が経過した後にはそれを立証するのが困難になることがあるから、過去に遡って権利を主張することに一定の限界を設けること(立証困難の救済)の3点が挙げられています。
遺産相続トラブルにおける不正操作をした者への具体的な請求に関する時効の問題に戻ります。
預金の勝手な引き出しについては、遺産分割専門の遺産相続弁護士に相談のうえ、不法行為や不当利得返還請求によって裁判をすることになります。時効期間は権利の種類に応じて様々ですが、前者の時効は3年で後者の時効は10年です。
財産の不正操作を発見してから時間が経つと、時効にかかってしまいます。遺産相続開始前に実行された財産の不正操作について遺産相続開始後に請求する場合は、不正操作から3年以上が経っていることがほとんどです。この場合は、時効が10年間の不当利得返還請求を提起するか、最近知ったばかりであるとして被害および犯人を知ったときから3年は経っておらず時効にかかっていないことを理由として、不法行為による損害賠償請求をすることになります。遺産分割専門の遺産相続弁護士からの注意点は、あまりにも前の不正操作行為については時効により請求できなくなるという点です。
もっとも時効の問題は、そこまで心配する必要がないこともあります。
不正操作をした者は証拠を突きつけられてもあっさりと認めることは少なく、贈与されたものであると強弁することがほとんどです。
生計の資本であれば、何年前のものであろうと、遺産相続における特別受益の主張は可能です。
少なくとも相続人である不正操作をした者に対しては、財産の流れを立証できれば、遺産相続における特別受益として清算を求めることが可能なわけです。
遺産分割専門の遺産相続弁護士が問題であると考えるのは、相続人ではない人間が財産の不正操作に関わっているケースです。
例えば、亡き父の口座から預金が引き出されて、長男の嫁名義の口座に入っているときです。生前に贈与を受けたと主張されると、相続人に対する贈与ではないので遺産相続における特別受益の問題にはなりません。生前贈与ではなく、不正操作されたものであることを証明しなければならないのです。この場合は時効の問題が出てきますが、不正操作被害と犯人を知ったときから3年以内に訴えを提起すれば、不法行為の時効にはかかりません。

遺産相続弁護士のコラム 相続分の不正操作(無断で養子縁組)
(1)遺産相続における法定相続分を獲得する

こそこそせずに正々堂々と財産を受け取りたい。
そう考える嫁や孫は、被相続人と養子縁組をして、遺産相続における法定相続分を獲得します。
本来、養子縁組が成立するためには、当事者間に縁組をする意思の合致が必要ですが、意思の合致なく、一方的に養子縁組届を作成して市町村役場に提出するケースもあります。
登記簿と同様、自分の戸籍を日常的に確認する人は少数派でしょうから、亡くなるまで、自分が養子縁組したことに気づかない方もいるでしょう。たとえ養子縁組をしたとしても、生活実態が変わるわけではありませんから、遺産相続が開始するまでは他の家族にもバレずに、これまでと同様に生活することができるのです。遺産分割専門の遺産相続弁護士として遺産相続にまつわる養子縁組トラブルを取り扱うことも多いのですが、被相続人が死亡して遺産相続が開始してから問題となるものですから、勝手に養子縁組届を提出されたと主張していくのは難しいケースもあります。
養子縁組は原則として、養子縁組当事者の本籍地の市区町村、または当事者の居住地の市区町村に対し、養子縁組届などを提出する方法で行います。
届出に必要な書類は、養子縁組届出書、戸籍謄本(養親および養子の本籍地以外に届ける場合のみ)です。養子縁組届出書には当事者双方の署名・押印が必要となります。また、2人の証人による署名・押印も必要となります。届出書などの窓口提出自体は誰でもでき、郵送での提出も可能です。郵送での提出が可能である以上、窓口における本人確認も徹底されていません。平成20年から届出の際の本人確認が法律上のルールとされ、婚姻、協議離婚、養子縁組、養子離縁、認知の5つの届出をする際に、戸籍の窓口に来た人の本人確認は必ず行うことになりました。届出をした本人であることの確認ができなかった場合には、確認できなかった本人(届出人)に対して、届出が受理されたことを、届出人の住所地に郵送などにより通知します。この通知が本人の手に渡れば、虚偽の届出が発覚することになりますが、届出書を偽造した同居の者が本人になりすますなどの方法で通知を受け取ってしまえば、本人に不正がわかることもありません。結局、養子縁組届出書を偽造してしまえば、本人の意思とは関係なく、養子縁組を成立させることができます。ちなみに転籍をすると、養子縁組の事実は親の戸籍には記載されません(認知と同様)。
あるいは遺産相続における相続税対策として自分を養子にすべきであるとして嫁が義父に説得し、計画通りに養子になるケースもあります。
相続税の基礎控除額は、3000万円+(600万円×法定相続人の数)(平成27年1月1日以後の相続について)です。
基礎控除額を増やすためには、遺産相続における法定相続人の数を増やす必要があります。
ただし、遺産相続における法定相続人の数に含められる養子の数には制限があり、被相続人に実子がいる場合には1人まで、実子がいない場合には2人までとなっています。
また、孫を養子としている場合、相続税の2割加算の対象となってしまいますが、嫁を養子とする場合には相続税の2割加算の対象とはなりません。
以上の理由から、自分を養子にして相続税を節税すべきと働きかける嫁がいるのです。
遺産相続において、相続人の配偶者がでしゃばるのはよくあることです。横から遺産分割に口を挟むだけではなく、自ら相続人となって権利主張しようとする者もいるのです。すなわち兄弟の数×2が、遺産相続における実質的な利害関係者なのです。

(2)養子縁組の解消

「無断で養子縁組届を提出された」「面倒を見るからと言われて養子縁組をしたが、だまされた」このような場合には、遺産分割専門の遺産相続弁護士に相談して養子縁組を解消(離縁)する手続きを速やかにとるべきです。
離縁の方法としては、①協議離縁②調停離縁③裁判離縁があります。

遺産相続弁護士のコラム 会社の不正操作
(1)株主総会議事録の偽造

会社を家族経営されている方に多い遺産相続トラブルのパターンです。
株主総会議事録を偽造し、本来は株主総会が開催された事実はないにもかかわらず、株主総会決議事項として、勝手に取締役を解任したことにするのです。
やはり登記を日常的に確認するわけではないので、取締役を解任されたことなど全く知らなったケースもあります。
株主総会議事録は、出席取締役の署名または記名押印は必須ではなく、議事録作成者の氏名のみ記載すればよいので、簡単に偽造できます。
もっとも、取締役会を設置していない会社では、代表取締役を定める際の株主総会議事録には、議長や出席した取締役全員の記名押印が求められます(商業登記規則61条4項1号)。このときには印鑑証明書も必要となります。ところが、署名の偽造は実務上よくみられ、印鑑証明書を勝手に入手することが可能である以上、偽造は容易なのです。

(2)遺留分減殺請求で両すくみに

会社の支配権争いが起きると、特定の相続人に財産を全て相続させる旨の遺言が作成された後に遺産相続が発生することもあります。
しかし、ほかの相続人が遺留分減殺請求をすると、最終的に遺留分を侵害した分については会社の株式が分散して相続されてしまいます。遺留分減殺請求は形成権なので、減殺請求された段階で自動的に遺留分侵害の割合分は株式が請求者のものになってしまうのです。
これでは遺言者である被相続人の思惑に反する結果になってしまいます。

株式を遺留分減殺請求の対象から外す
株式を遺留分減殺請求の対象から外す

この問題に対する解決策として遺産分割専門の遺産相続弁護士が提案する方法は、事前に遺留分減殺請求されたとしても、株式については減殺請求されない旨を遺言に定めておくことで、株式を減殺請求の対象から外すというものです。
しかし、なかなかそこまで遺言に盛り込んである例は少ないのが現実です。弁護士が付いていても、遺産分割専門に取り扱う遺産相続弁護士が作成に関わった遺言でなければ、そこまで手当をしている事例はまずありません。
財産の不正操作が問題になり遺産相続トラブルに発展するケースの多くにおいては、会社の株式以外の財産以外も、同時に問題になります。遺留分減殺請求をしたとしても、相続財産全体のうち株式が占める割合は遺留分に達していないとして、会社株式を独り占めしたい相続人が主張することもあります。そうすると遺産全体についての範囲が確定するまでは、遺留分を問題にすることができませんし、会社支配権の問題も解決できません。遺産相続トラブルの長期化が予想される中での会社運営の混乱は避けられないのです。

(3)会社持分を取り戻すには

「最近、会社を一緒にやっている息子の態度がおかしい」
息子の変化に気づいた時には、もう遅い。今まで取締役の地位にあったのに、解任させられていたというケースもあります。不正操作をした者によって株主総会議事録を偽造され、取締役解任をでっち上げられてしまうのです。
こうした場合には、遺産分割専門の遺産相続弁護士に相談して株主総会決議の効力を争うことになります。
株主総会決議の効力を争う訴訟は以下の3つです。
①株主総会決議取消の訴え(会社法831条1項1号から3号)
②株主総会決議不存在確認の訴え(会社法830条1項)
③株主総会決議無効確認の訴え(会社法830条2項)
そもそも全く決議が行われた事実がないにもかかわらず、決議の登記がなされているようなケースでは、②株主総会決議不存在確認の訴えを提起することになります。この訴えには期間制限はなく、対世効(一般の判決と異なり、当事者以外も判決の結果に拘束されること)が認められています(会社法838条)。民事訴訟の判決は、当該訴訟の当事者に対してのみその効力を有するのが原則ですが、株主総会決議は、その決議の有効性を前提として多数の利害関係が形成され、その決議の効力は多数の利害関係者にとって画一的に定められる必要があるので、対世効が認められているのです。
また、誰でも会社に対して訴えることができます。株主総会決議不存在確認請求が認められた場合には、裁判所書記官から会社の本店の所在地を管轄する登記所に対し、その登記の嘱託がされることになります(会社法937条1項1号ト(1))。

財産の不正操作では、株主総会決議不存在確認の訴えを提起することがほとんどです。
招集通知漏れは通常、手続きの問題として①株主総会決議取消の訴えによります。しかし、一部の株主が勝手に会合して決議したり、決議がないにもかかわらず、決議があったかのように議事録が作成され登記されたりする財産の不正操作では、もはや単なる招集通知漏れとはいえないからです。
判例でも、発行済株式総数が5000株、株主が9名(代表取締役A並びにその実子であるBおよびCを含む)の会社において、Aは、BおよびC以外の6名の株主(その持株数2100株)には招集通知を出さず、A、BおよびCの3名の株主だけが集まって取締役などの選任の決議をしたことについて、この総会決議は、法律所定の手続きによらず、単に親子3名によってなされたことが明白であるから、総会の決議があったものとはいえないと判断されています(最判昭和33年10月3日民集12巻14号3053頁)。

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          2019-08-22 [ 遺産分割の弁護士 ]
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