第2章 海外資産のモノの相続国際相続の弁護士
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- 第1章 これからの相続
- 第2章 海外資産のモノの相続
- 第3章 海外在住・外国籍の被相続人・相続人がいる国際相続
- 第4章 日本の相続税はかかるのか
- 第5章 海外の相続税はかかるのか
- 第6章 国際相続に備える
第1節 遺産分割・相続手続きの問題(総論)第2章 海外資産のモノの相続
国際相続における遺産分割については、適用法の問題に加え、プロベートの問題、ノータリーの問題、財産種別の問題などがあります。
日本国籍で日本在住の方が海外に財産を持っているケースもあるでしょう。財産の所在地が海外であったとしても被相続人の財産であることに変わりはありませんので、誰かが受け継ぐことになります。
財産の所在地にかかわらず被相続人の相続財産をすべて洗い出し、相続人間で話し合いのうえ、遺産分割を行うのですが、海外にある財産について、日本の法律に従って遺産分割をしたからといって、必ずしも遺産分割の効力が海外でも認められるとは限りません。
特に厄介なのが不動産です。「相続統一主義と相続分割主義」の問題があるからです。
日本の通則法では「相続統一主義」を採用し、相続に関して不動産や動産といった相続財産の種類による区別をしていません。しかし、諸外国の中には、相続財産の種類によって準拠法を区別し、不動産の相続については不動産所在地の法律によって処理する「相続分割主義」を採る国もあります。
したがって、相続分割主義を採用している国との間で国際相続が発生した場合、日本の国際私法の解釈だけでは解決しない場合があるのです。
第2節 適用法の問題(反致)第2章 海外資産のモノの相続
国際私法が世界共通であればよいのですが、実際は、あくまでも各国の国内法にすぎません。具体的な内容は各国に委ねられていますので、各国間で内容の不一致が生じることがあります。場合によっては、どこの国の裁判所に訴えを提起するかによって、結論に違いが生じることもあるのです。
お互いの国際私法が抵触する場合には2つの種類があります。
①国際私法の積極的抵触
同一の法律関係について、複数の国際私法によって指定される準拠法が、外見上、複数生じる場合
②国際私法の消極的抵触
同一の法律関係について、複数の国際私法によって指定される準拠法が、外見上、まったく存在しない場合
国際私法の消極的抵触への対策が「反致」です。複数の国際私法が異なる準拠法を指定する結果、準拠法を一意的に決定できないような場合に、自国の国際私法だけではなく他国の国際私法をも考慮して調和を図ることを反致主義といいます。逆に、他国の国際私法は考慮しない立場を反致否認主義といいます。反致にはいくつか種類があります。それぞれ解説します。
1 狭義の反致
法廷地の国際私法によって指定された準拠法国の国際私法が法廷地法を指定している場合、法廷地法を準拠法とすることをいいます。 例えば、A国の国際私法によればB国法によるべき場合において、B国の国際私法がA国法を準拠法として指定している場合には、A国法を準拠法として問題を解決します。
2 転致
法廷地の国際私法によって指定された準拠法国の国際私法が第三国法を指定している場合、当該第三国法を準拠法とすることをいいます。
例えば、法廷地であるA国の国際私法によればB国法を準拠法とすべき場合で、B国の国際私法によればC国法を準拠法とすべきとされる場合には、A国においてC国法を準拠法として適用して問題を解決します。
なお今の例において、C国の国際私法によればD国法を適用すべきとされている場合に、A国においてD国法を準拠法とするような場合を再転致(再々致)といいます。
3 間接反致
法廷地の国際私法によって指定された準拠法国の国際私法が第三国法を指定し、その第三国の国際私法が法廷地法を指定している場合に、法廷地法を準拠法とすることをいいます。つまり、転致の場合に指定された第三国の国際私法で法廷地法が指定されている場合です。
例えば、法廷地であるA国の国際私法によればB国法を準拠法とすべき、B国の国際私法によればC国法を準拠法とすべき、C国の国際私法によればA国法を準拠法とすべきとされている場合には、A国法を準拠法としてA国において問題を解決することになります。
間接反致は、再転致のうち最終的に準拠法国が第三国ではなく法廷地国である場合と考えることができますので、再転致の形式のひとつではありますが、結果として法廷地に返ってくることから、「間接反致」として特に区別されます。
4 二重反致
法廷地の国際私法によって指定された準拠法国の国際私法が法廷地法を指定しており、かつ、法廷地の国際私法が準拠法国の法律を指定している場合に、準拠地国において法廷地法からの反致を認めて法廷地において準拠地法を適用することをいいます。
例えば、A国の国際私法によればB国法を準拠法とすべきで、B国の国際私法によればA国法を準拠法とすべきという場合に、B国がA国法からの反致を認めることで、B国法を準拠地法としてA国において問題を解決することになります。
もっとも、すべての国において反致が認められるわけではありません。
他国の国際私法は考慮しないとする反致否認主義を採用している国においては、相手国からの反致を認めるということはあり得ません。これは、B国が反致主義を採用している場合に起こり得るケースです。
【コラム】適用法の限界
アメリカ法が関係する例について、日本で紛争が生じた場合を考えてみます。
①被相続人がアメリカ国籍&相続財産に日本の不動産がある
日本の通則法第36条では「相続は、被相続人の本国法による」とされています。これに則って考えると、被相続人がアメリカ国籍である今回のような場合は、アメリカの法律で処理することになりそうです。しかし、アメリカの法律では、不動産の相続について不動産の所在地の法律によるとされています。
日本の通則法では「当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による」(第41条本文)と定められています。したがって、今回のような場合には、日本の法律が準拠法となると考えられます。
日本の法律に従って相続手続きを進めていくことになりますから、もちろんプロベートを経る必要はありません。相続人全員で遺産分割協議を行い、具体的な分割方法を決めることになります。
②被相続人が日本国籍&相続財産にアメリカの不動産がある
①の場合と逆パターンなので、アメリカの法律が準拠法になると単純に考えられればよいのですが、そう簡単にはいきません。
被相続人が日本人なので、通則法第36条によると日本の法律で処理することになります。日本は相続統一主義を採用していますので、アメリカの不動産であっても日本の法律に則って手続きを進めればよいとも考えられそうです。
しかし、不動産の所在地であるアメリカでは相続分割主義を採用しているので、アメリカの不動産はアメリカの法律に則って手続きを進めなければなりません。アメリカの法律に基づいて相続手続きを進めていく以上、プロベートを経る必要があります。日本には存在しない制度ですから、戸惑う方も多いでしょう。
このように両者の国際私法がうまく対応しない場合について、特に決まった解決法があるわけではありません。結局のところ、不動産の名義変更手続きなどは、不動産所在地国が定める手続きに従うことが多いので、その関係上、不動産所在地国の法律を確認する必要があります。
第3節 プロベート第2章 海外資産のモノの相続
アメリカや香港、シンガポールに財産を所有する人も多くいますが、被相続人がこれらの国々に財産を持っている場合、相続人が財産を譲り受けるためには日本にはない手続きを経なければなりません。それが「プロベート」と呼ばれるものです。
1 プロベートとは
プロベートとは、裁判所の関与のもとで行う一連の相続手続きのことです。具体的には、遺言の有効性の確認や相続人の確定、債務整理、名義変更、相続に係る税金の支払い、残った財産の分配など、その内容は多岐にわたります。
プロベートにおいて、被相続人の遺産を管理・清算するのは独立した人格をもつ遺産財団(Estate)です。裁判所から任命された遺言執行者または遺産管理人が遺産を管理して手続きを進め、最終的に相続人などに財産を分配します。プロベートを採用している国においては、日本のように相続人による遺産分割は行われません。
プロベートを採用している国は、主に、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、香港、シンガポール、マレーシアなどです。
日本と海外における遺産分割手続きの相違点で最も特徴的なものがプロベートの有無といえます。
日本ではプロベートを採用していませんので、相続人間の争いがなければ裁判所を介することなく分割手続きを進めることができます。被相続人の相続財産も、プロベートが必要な国々とは異なり、相続開始と同時に相続人の共有となります。
プロベートは日本にはない手続きですので、日本の相続手続きに長けている専門家でも戸惑うことが多いのではないでしょうか。相続手続きにおいてプロベートが必要になりそうな場合は、現地の手続きに詳しい専門家に依頼して手続きを進めることをお勧めします。
なお、プロベートは日本語では「検認裁判」と訳されることが多いです。そのため、海外での相続におけるプロベート手続きを、日本の「検認手続き」と同じものと考えがちですが、実際はまったくの別物です。日本の検認手続きは、相続人に対して遺言の存在およびその内容を知らせるとともに、遺言の形式や状態を調査して遺言の偽造・変造を防ぎ、その保存を確実にするために行われるものです。日本の検認手続きでは、遺言の有効性判断、被相続人の債務整理、相続財産の分配といった手続きは行いません。あくまでも、被相続人の遺言を保全することが目的です。
日本において、被相続人が遺言を残していなければ、当然検認手続きも不要です。一方、プロベートを採用している国では、被相続人が遺言を残していなくてもプロベートが必要です。
2 プロベートの手続き
プロベートの手続きについて、事前に知っておくべきことをそれぞれ解説します。
①必要書類について
プロベートを行う場合、一般的には次のようなものが必要とされることが多いようです。
・死亡証明書
・遺言書(ある場合)
・遺産についての情報(名義証書、明細書など)
・過去の税金申告書
・署名証明(印鑑証明書)
プロベートと一口にいっても、その方法や運用は国や州によって異なりますので、実際に手続きを行うときには、何が必要なのかについて確認しなければなりません。国によっては、弁護士などの専門家による意見書が要求されるところもあります。必要書類を翻訳したり、アポスティーユが必要だったりするなど、用意すべき書類がひとつ増えるだけでその後の手続きが2つも3つも増えることがあります。実際に相続が発生してから調べ始めたのでは遅いですから、何を用意しなければならないのか、どこで手に入れることができるのかを事前に確認しておきましょう。
②遺言の有無について
被相続人が遺言を残しているか否かで、プロベート手続きの流れも変わってきます。そのためにも、遺言の有無をしっかり調べておくことが必要です。
アメリカでのプロベート手続きを例にとって、遺言がある場合とない場合、それぞれの手続きを紹介します。
◎遺言がある場合
ア 裁判所へ遺言書の提出
イ 相続人の特定
ウ 財産および債務の調査・確定
エ 財産の名義変更
オ 遺産税の申告、納税
カ 財産の分配
◎遺言がない場合
アメリカでは遺言がない場合に備えて、「遺言がない相続に係る法律」が定められています。遺言がない場合には、基本的にこの法律に従って相続手続きを進めます。
ア 遺産管理人の申請
イ 財産および債務の調査・確定
ウ 財産評価
エ 債務整理
オ 遺産税の申告、納税
カ 財産の分配
③費用について
プロベート手続きを進めていくうえで、裁判所に対して支払う手数料や遺言執行人への費用、財産評価の手数料など何かとお金がかかります。数ある出費の中で大部分を占めるのが弁護士費用でしょう。
アメリカの場合、州によって弁護士費用の計算方法が異なります。総資産を基準に費用を算出する場合や時間チャージで算出する場合など、さまざまです。ここでもやはり、手続きを行う州における弁護士費用の計算方法を事前に確認しておく必要があります。
④時間について
プロベートに要する時間は、事案によって変わってきますので一概には言えません。一般的な目安としては、短くて半年、長いと3年もの時間を要する場合もあります。
通常のプロベートでも時間がかかりますから、プロベートを採用する国と採用しない国との間での手続きでは、さらに時間がかかることが予想されます。例えば、アメリカの金融機関で相続手続きを行う場合、銀行の担当者は日本にもプロベート手続きがあるものと考え、裁判所による人格代表者の任命書や人格代表者による署名などの提出を求めてくることがあります。日本にはプロベートがないことなど、最初から説明して理解してもらう必要があります。
手続きが長引くと金銭的にも精神的にも負担がかかります。できるだけ短い期間で手続きを終えることができるよう、相続開始前にできる限りの対策を講じておくことは、日本の相続の場合と同様、とても重要です。
⑤税金について
日本における相続税は、被相続人の死亡により財産を取得する相続人に対して課税されます(遺産取得課税方式)。
一方、プロベートを導入している国や地域においても、日本の相続税に相当する税金として「遺産税」があります。遺産税については、被相続人の遺産そのものを対象にして課税され(遺産税方式)、債務の清算後、財産を各相続人に分配する前に納付します。
課税される対象の違いから、相続税の申告・納付が財産の分割後であるのに対して、遺産税の申告・納付は財産の分割前に行うといった違いが出てくるのです。
⑥その他の問題点について
これまで述べてきたような費用の問題、時間の問題のほかにもさまざまな問題点があります。
◎プライバシーの確保が困難
プロベート手続きを行うときには、各種書類を裁判所に提出します。裁判所の記録に掲載されると原則としてその情報は公開され、遺言や遺産の内容、相続人の情報を誰でも閲覧できることになってしまいます。なお、遺産が少額の場合にはプロベート手続きを省略できることがあります。
◎ある複数の裁判所で手続きが必要な場合も
アメリカでは州ごとに法律が違います。不動産の相続手続きは原則として不動産所在地の州の法律に則って行われます。所有する不動産がすべてひとつの州にまとまっていればよいのですが、複数の州に不動産を所有している場合は、原則としてそれぞれの州でプロベートを行わなければなりません。
動産の場合は原則としてひとつの州でプロベートを開始し、遺産管理状(Letters of AdministrationまたはLetters Testamentary)という書類を取得することで名義変更を行うことができます。ただし、州によっては、動産についても所在地の州におけるプロベートを義務づけている場合があります。いずれにせよ事前の確認が必要です。
プロベートを行う際には弁護士に依頼することになると思いますが、アメリカでは州ごとに弁護士資格が必要です。
複数の州に不動産を持っている場合、ことによると複数の弁護士に依頼する必要が出てきますので、その分費用も余計にかかってしまいます。
◎相続財産の利用、処分制限
プロベートが済むまでの間、被相続人の相続財産は裁判所の監督の下にありますので、相続人であっても自由に利用・処分することはできません。
日本でもその後の争いを避けるために、遺産分割協議が成立するまでは相続財産を利用・処分すべきではありません。被相続人の死亡の事実を知った金融機関は、被相続人名義の口座を凍結しますので、事実上、相続人は引き出すことができません。しかし、日本においては、相続財産は裁判所の監督の下に置かれているわけではなく、あくまでも相続人の共有状態です。ですから、相続人全員の同意があれば相続財産を処分することができる場合もあります。その意味では、プロベートのほうが相続人による相続財産の利用・処分権限がより強力に制限されているといえます。
時間もお金もかかり、精神的にも金銭的にも負担の大きいプロベート。プロベートを導入している国や地域では、相続に際してプロベートを経ることが原則とされています。しかし、事前の対策によってはプロベートを回避または軽減することができるのです。
プロベートの必要な国や地域に資産を持っている場合には、将来のリスクを考えて、日本の通常の相続の場合よりも早めに対策を検討しておくことが重要です。
第4節 公証手続き第2章 海外資産のモノの相続
1 公証手続きとは
公証手続きとは、署名が真正であることを第三者である公証人に証明してもらう手続きをいいます。
日本で本人確認書類といえば、実印とそれが本物であることを証明する印鑑証明書ですが、海外では印鑑の代わりにサイン(署名)をすることが一般的です。日本における印鑑証明書のように、サインが本物であることを証明するために必要になるのが、公証(Notary)なのです。
日本で作成した遺産分割協議書をもとに現地で手続きを行うときに、公証を求められることもあります。
公証手続きは、日本ではなじみのない手続きですので、このような手続きがあることを忘れないようにすることが大切です。
2 手続きの流れ
公証手続きの流れは、一般的に以下のとおりです。
①公証人による本人確認
②公証人の面前で署名者が署名
③公証人による、署名者が自署したものである旨の確認印の押印および署名
3 手続き方法
①在日大使館・領事館で受ける場合
在日大使館や領事館で公証を行うことができます。事前予約の要否、必要書類、手数料は国によって違いがあります。まずは公証書類の提出国の在日大使館・領事館に手続き方法について確認しましょう。
提出先の国の大使館・領事館が作成した書類であれば、現地で問題なく受け入れてもらえるものと思います。
②日本の公証役場で受ける場合
日本の公証役場でも公証を行うことができます。ただし、国によっては日本の方式では認められないこともあります。日本の方式でも認められるか、提出国の法律や運用などを確認する必要があります。
PAGE TOP第5節 財産種別の問題第2章 海外資産のモノの相続
1 不動産・動産の遺産分割
国際相続案件において、相続財産の中に不動産がある場合は特に厄介です。なぜなら、相続統一主義を採用する国と相続分割主義を採用する国との間で国際相続が発生した場合にトラブルに発展しやすいからです。国際私法は国ごとに定められた国内法にすぎませんので、各国が独自にその内容を決めることができます。それぞれの国の法律に従うと他国の法律と矛盾する場合もあれば、堂々巡りとなりどの国の法律に従うべきか決まらない場合もあります。
例えば、アメリカに不動産を所有する日本人が亡くなった場合を考えてみましょう。
日本では相続統一主義を採用しています。そのため、不動産でも動産でも日本の法律に従って相続手続きを進めることになります。当然、アメリカにある不動産であっても日本の法律を適用すると考えます。
一方、不動産が所在するアメリカでは、相続分割主義を採用しています。相続分割主義の考え方では不動産は所在地法を適用して手続きを行うことになりますので、この不動産についての手続きは、アメリカの法律(所在地の州法)を適用すると考えます。
このように、どの国の法律を適用すべきかについて矛盾が生じてしまうことがあります。このような事態が生じた場合、実務上は財産の所在地法(今回の場合はアメリカの法律)を適用することが多いようです。
所在地法であるアメリカの法律を適用する場合、プロベートを行うことになります。このとき、複数の州に不動産を所有している場合には原則として、不動産の所在するそれぞれの州でプロベートを行うことになります。アメリカでは各州が独自の州法を持っているので、州によって手続きや決まりに違いが生じます。
例えば、A州とB州に不動産を所有していた場合、まずはA州でプロベートを行います。裁判所で遺産管理人または遺言執行者が任命され、遺産管理状(Letters of AdministrationまたはLetters Testamentary)が渡されます。この遺産管理状に基づいて、B州でも不動産の名義変更ができればよいのですが、そうはいきません。B州でも新たにプロベートを行わなければならないのです。何度もプロベートを行わなければならないこと自体大変ですが、プロベートの回数が増えるということはそれだけ、すべての手続きが完了するまでに時間を要することになります。
また、アメリカでは弁護士資格も州ごとですので、州をまたいでの手続きということになると、何人もの弁護士に依頼しなければならないという事態も想定されます。
このような事態を避けるためにも、複数の州に不動産を所有している場合には、不動産を他の人と共有名義化しておくなど、プロベートを回避できるよう事前に対策を講じておくのがよいでしょう。
アメリカの複数の州で動産を所有していた場合の手続きも見てみましょう。A州とB州に動産を所有していた場合、まずはA州でプロベートを行います。すると、遺産管理人または遺言執行者に任命された者は、A州の裁判所から遺産管理状をもらうことになります。この遺産管理状があれば、B州において改めてプロベートを行わずとも名義変更を行うことができるのが一般的です(州によっては動産についても所在地の州におけるプロベートを義務付けている場合もあります)。
2 預貯金の遺産分割
預貯金の遺言分割について解説します。
①日本の預貯金に関する手続き
法律上は相続開始と同時に法定相続分に従って当然に分割されたことになるのですが、実務上は遺産分割協議が成立するまでは、たとえ相続人に対する払い戻しであっても金融機関は応じません。相続財産の分割方法が決まり、誰がどれだけ預貯金を相続するかが明確になれば、払い戻してもらうことができます。
払い戻しのときに一般的に必要となる書類は、以下のとおりです。
【遺言での手続き】
・遺言書
・検認調書または検認済証明書(公正証書遺言以外の場合)
・被相続人の除籍謄本(出生から死亡まで一連)
・相続人の印鑑証明書
【遺産分割協議書での手続き】
・遺産分割協議書
・被相続人の除籍謄本(出生から死亡まで一連)
・相続人全員の戸籍謄本
・相続人全員の印鑑証明書
②海外の預貯金に関する手続き
海外の銀行に口座を持っている方も多いと思いますが、海外の口座の払い戻し手続きはなかなか大変です。基本的には現地でのやり方で手続きを進めるよう求められますので、遺産分割協議書や遺言書を提出したところで受け付けてもらえないことが多いでしょう。特にアメリカなどプロベートが必要な国や地域に口座を持っていた場合、現地における手続きと同じくプロベート手続きを経るよう求められます。時間も費用も相当かかることを覚悟しなければなりません。
なお、口座を相続人との共有名義にしておくとプロベートを回避できるので、スムーズに手続きを進めることができます。
3 株式の遺産分割
アメリカでは株式の所有形態に次の3つの種類があります。
①株券そのものを本人が保管
②証券会社の名義になっている株式を、当該証券会社に有する本人の口座に保有株数のみ登録して管理
③証券会社もしくは名義書換代理人の口座にて管理されるが、本人の名義で登録
このうち①と③の形態で保有している場合には、注意が必要です。
①と③の場合、名義変更手続きにおいてメダリオンが必要になります。メダリオンとは、アメリカ国内の加盟金融機関が、署名が真正であること、署名者がそこにある指示を下す権限及び精神的能力を持っていることを保証し、もし間違いがあればその責任を負うことを保証する、アメリカ独自の署名保証制度です。
名義変更手続きを行う場合には、名義書換代理人に依頼することになると思いますが、その際に署名の偽造などを防ぐべく、メダリオンが求められるのです。
このメダリオンは、銀行や証券会社など、アメリカ国内の加盟金融機関によるものに限られます。署名保証というと、大使館や公証人による「署名証明」が頭に浮かびますが、大使館や公証人による公証では受け付けてもらえません。
メダリオンに間違いがあった場合、金融機関がその責任を負うことになりますので、ほとんどの金融機関では、これまで取引がない顧客の署名は保証してくれません。そのため、アメリカ国内の金融機関と取引がない人がメダリオンを取得するためには、まず始めにアメリカ国内の金融機関に口座を開設し、署名登録する必要があります。
被相続人がたまたま所有していた株式を相続しただけであって、相続人自身はアメリカに縁もゆかりもないというケースもあるでしょう。面倒ではありますが、そのような人であっても、基本的にはアメリカの金融機関に口座を開設する必要があるのです。
口座開設がどうしても難しい場合には、弁護士に委任状を渡して対応を依頼することができる場合もあります。また相続に際して名義変更を行う場合には、プロベートを経ればメダリオンは必要ありません。プロベートでは遺産管理人などの人格代表者が署名することになるからです。口座開設、弁護士への依頼、そしてプロベート。手続きの手間や時間、費用を考慮すると、どれも一長一短といえるでしょう。
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