亡き母の土地を無償で借りてきた妹が、土地の評価をめぐって図々しい主張をしている。

亡き母の土地を無償で借りてきた妹が、土地の評価をめぐって図々しい主張をしている。

[投稿日]: [投稿者]:
[サブカテゴリ]:
亡き母の土地を無償で借りてきた妹が、土地の評価をめぐって図々しい主張をしている。

亡き母の土地を無償で借りてきた妹が、土地の評価をめぐって図々しい主張をしている。

相談者からの相談内容

母の相続について相談したいです。 妹夫婦は母の土地に家を建て、30年間母とその家で同居してきました。 家は妹と義弟の共有名義になっていると聞いています。 妹夫婦は母に地代を支払っておらず、母も妹夫婦に家賃を支払っていなかったそうです。 昨年母が亡くなりました。 相続人は私と妹の2人なのですが、母の遺言に基づき、1億円相当の世田谷の土地と預金8000万円すべてを妹が相続しました。 私としては、母がそのような遺言を残していることも知らず、非常に驚きましたが、母の世話を妹に任せきりにしていたので仕方ないとも考えました。 しかし、せめて遺留分だけでももらいたいと考え、妹に対して4500万円の遺留分減殺請求を行いました。 数日後、妹の代理人であるという弁護士から通知書が届き、その中には「妹夫婦は母に対し家賃を、母は妹夫婦に対し土地を、それぞれ無償提供してきたが、家賃は地代を大幅に上回るものである。 つまり、妹夫婦は母に対し低額の賃料を支払ってきたことになり、母と妹夫婦の間で当該土地について賃貸借契約が結ばれていたといえる。 そのため、土地の評価額は時価よりも低くなり、遺留分侵害額も低額になる」と記載されていました。 私としては、母と妹夫婦との間には賃貸借も使用貸借も成立していないと考えていたので、納得がいきません。
弁護士からの
一言アドバイス
「学ぶ」コーナーでまずは勉強 頃合を見計らって弁護士に依頼 状況によって弁護士に依頼 至急弁護士に依頼することが望ましい 今すぐ弁護士に依頼することが望ましい
今すぐ弁護士度
簡単に解決できる見込み やや簡単に解決できる見込み 解決できる見込みあり 解決するのがやや難しい 解決するのが難しい
解決難易度

お母様と妹さん夫婦との間の土地に関する法律関係が問題となっています。

結論としては、使用貸借が成立していたと考えます。

まず、賃貸借契約が成立する要件についてですが、民法601条によれば、賃貸借契約が成立するためには、当事者の一方が相手方にある物の使用及び収益をさせることを約し、相手方がこれに対して賃料を支払うことを約することが必要です。

つまり、①使用・収益させることと、②賃料を支払うことについて、合意が必要です。賃料は、必ずしも金銭である必要はなく、現物供与や労務給付でも構いません。

本件では、特に、お母様と妹さん夫婦の間で②賃料支払いの合意があったかが問題となります。

妹さんの弁護士の主張は次のとおりと思われます。

お母様は妹さん夫婦に土地を無償で提供したので、お母様は妹さん夫婦に地代相当額を提供したとみることができる。

また、妹さん夫婦はお母様に家屋を無償で提供したので、妹さん夫婦はお母様に家賃相当額を提供したとみることができる。

地代相当額より家賃相当額の方が高額なので、実質的には、妹さん夫婦がお母様に家賃相当額と地代相当額の差額を提供したとみることができる。

そうすると、妹さん夫婦はお母様に土地の賃料を支払ってきたに等しい。

しかし、妹さん様の弁護士の主張は妥当とは思われません。 理由は以下の2点です。

まず、賃料は必ずしも金銭である必要はなく、現物供与や労務給付でも構いませんが、何らかの給付は必要と考えます。

本件では、妹さん夫婦はお母様に、金銭はもちろん、現物や労務の給付はしていません。

次に、妹さん様の弁護士は、地代相当額より家賃相当額の方が高額であることを前提にしていますが、他人間ならばともかく、親族間では必ずしも地代相当額より家賃相当額の方が高額であるとはいえません。

賃料支払いの合意を基礎づける事実・証拠がない以上、お母様と妹さん夫婦の間で②賃料支払いの合意はなかったと考えられます。

したがいまして、賃貸借契約の成立は認められません。

次に、使用貸借契約が成立する要件についてですが、民法593条によれば、使用貸借契約が成立するためには、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還することを約して相手方からある物を受け取ることが必要です。

つまり、①目的物を無償で使用・収益させることの合意、②契約終了時の目的物の返還についての合意、③目的物の交付が必要です。

本件では、特に、①目的物を無償で使用・収益させることの合意があったかが問題となります。

お母様は妹さん夫婦に対し、お母様の土地に妹さん夫婦の家屋を立てることを承諾していたわけですし、地代を取る約束もしていないのですから、お母様は妹さん夫婦との間で、土地を無償で使用・収益をさせることにつき黙示に合意していたと合理的に推認することができます。

東京高等裁判所平成12年7月19日判決も、親の所有する土地に子が建物を建築した場合、親と子及びその妻の間に使用貸借契約が成立したと認定しています。

②契約終了時の目的物の返還についての合意については、契約終了時に目的物を返還するのは当然ですし、③目的物の交付についても、土地を引き渡しているわけですから、ともに認めることができます。

したがいまして、本件では、使用貸借契約が成立していたと考えます。

もし仮に、お母様と妹さん夫婦との間で、賃貸借も使用貸借も成立していないとすると、妹さん夫婦はお母様の土地を、法律的には不法占拠していたことになります。

そうすると、お母様が請求すれば、妹さん夫婦は家屋を収去して土地を明渡し、お母様に損害賠償を支払わなければならないことになります。

しかし、お母様はそのような事態を望んではいらっしゃらなかったと思われます。

したがいまして、賃貸借も使用貸借も成立していなかったとはいえないと考えます。

土地に関する法律関係や土地の評価に関する争いは、複雑な主張を行うことになりますので、専門家に任せることをお勧めします。

ここがポイント!

土地に関する法律関係や土地の評価に関する争いは、複雑な主張を繰り広げる必要がありますので、早期に弁護士に相談してみましょう。

[投稿日]: [投稿者]:永田町法律税務事務所

この記事が参考になった方はクリック!

同じカテゴリーの相続相談事例 [カテゴリー:遺産分割編]

2019-08-20[カテゴリー]:
【いったん口にした遺産分割の合意は有効か?】遺産分割協議の合意内容を撤回
父が亡くなり、姉と遺産分割協議を続けていました。 母はすでに亡くなっています。 亡父が姉弟仲良くと言っていたので、その意向に従い相続分に差が生じないように遺産分割をする意向で話し合ってきました。 特に母の相続の時に、私が姉に譲歩したので、その代わりに父の相続の時には私が実家不動産…[サブカテゴリー]:
2019-08-20[カテゴリー]:
【非協力的な共同相続人】遺産分割協議後に遺産分割協議の実現に協力してもらえない
長くかかった遺産分割協議が終わりました。 ここまで来るのにやっとだったのですが、兄が遺産分割協議を実現するのに必要な手続きに協力してもらえません。 相続税もこれから協力して修正申告をしなければならないのに、コミュニケーションができない状態です。 金融機関での手続きに必要な書類を用…[サブカテゴリー]:
2019-08-20[カテゴリー]:
亡母と同居していた弟が受けていた生活援助と預金の使い込みについて追及したい。
94歳の母が亡くなりました。父はすでに亡くなっており、相続人は私と弟の2人です。 独身の弟はずっと実家暮らしで、公務員をしています。 千代田区にある母名義の土地に、弟名義で家を建てて母と弟が同居していました。 弟曰く、家は自分一人の力で建てたもので、母には一切援…[サブカテゴリー]:
O家の事例:家系図参考になった!9
2019-08-20[カテゴリー]:
実家不動産をもらったことにしている兄から相続分をもらいたい。
持病が悪化して母が闘病生活の後に亡くなってから2年後に、父も亡くなりました。 母が亡くなった時にすでに、父も体調を壊していたこともあり、母の遺産は全く手付かずの状態です。 父が亡くなったことから、両親の遺産について分割をする必要が生じました。 相続人は私と兄の2…[サブカテゴリー]:
M家の事例:家系図参考になった!2
2019-08-20[カテゴリー]:
遺言執行者に指名されている義兄主導で遺言執行が進む。財産はもらえるのか。
父の相続について、姉一家ともめています。 母は父よりも先に亡くなりましたので、相続人は姉と私の2人なのですが、義兄である姉の夫が、何かにつけ口を挟んできます。 というのも、父が亡くなって遺産分割の話を始めた際には見つかっていなかった遺言が、父の死後3カ月経って発見され…[サブカテゴリー]:
W家の事例:家系図参考になった!4

参考にしたい相続関連記事

2019-11-05
Q29.後継者には51%の株式を保有させれば足りるか
100%が基本だが、最低限67。65と64の差は意味がない。 自社株式は相続において厄介な存在になる できれば生前に贈与を済ませた方がよいとして、自社株式の生前贈与について、…
2018-12-21
【会社経営者の相続では注意が必要】相続でどの財産を相続したら有利なのか(株式の相…
相続における非上場株式の評価方法 財産評価は各相続人の取得額に直結する重要な問題です。財産評価の視点から、どの財産を相続すれば有利なのかについて、株式の相続を例に詳しく見てみましょう。上場…
2019-08-19
預貯金等の相続 -遺産分割後の手続き
預貯金等の相続遺産分割後の手続き 相続の開始を金融機関が知ると、被相続人名義の預貯金はいったん凍結されますので、その引出しを行う場合は、払戻しまたは名義変更の手続きが必要と…
2019-01-06
【どうしても特定の相続人に財産を渡したくない場合に】遺産分割の遺留分封じとして生…
相続税の節税のみならず遺留分封じとして活用 生命保険の受取金は、特殊な地位を示す財産です。相続財産ではないものの、相続税の対象にはなる。遺産分割においては、例外的な場合を除いて、対象にはな…
2019-08-19
知識の解説
遺産分割トラブルのポイントや遺産分割に関する法律用語の解説を紹介しています。 相続人・相続分の確定 遺産分割に…
2021-08-31
相続税の申告期限を過ぎるとどれくらい損する?
相続税には納付期限があります。相続開始から10カ月以内、つまり被相続人が亡くなってから10カ月以内、もしくは、被相続人の死亡を知ったときから10カ月とされています。 10カ月と聞くと一見長…
ページトップへ

カテゴリ別 相続相談一覧これまで弁護士に寄せられたカテゴリ別相続問題

遺 言
遺言無効を争う
遺留分を争う
  • 遺言無効
    確認訴訟
  • 遺留分
    減殺請求
  • 遺言執行者
    解任
だましうちで遺言を書かせる。財産の不正操作の常とう手段です。遺言無効確認の訴えや、遺留分減殺請求などにより、財産の不正操作と戦います。
遺産分割
財産の不正操作に
要注意!
  • 預金の
    無断引出
  • 名義の
    無断書換
預金を勝手に引き出したり、不動産の名義を勝手に書き換える。財産の不正操作と徹底的に戦う覚悟がある方のお力になります。
不動産相続
評価や分け方で
モメる不動産相続
  • 評 価
    トラブル
  • 分 割
    トラブル
  • 不動産の
    不正操作
分けられない財産の典型である不動産。不動産の評価について相続人間でモメます。そもそも不動産が相続財産かどうかも問題になります。不動産を独り占めする財産の不正操作と最後まで戦います。
事業承継
同族会社の
内部紛争に勝つ!
  • 取締役の
    不正追及
  • 株主総会
    の形骸化
同族会社の内部紛争や支配権争いでお悩みの方のお手伝いをします。事業を営む方の相続問題は通常の相続以上に複雑です。会社の支配権を勝ちとり、事業を守り抜きます。
国際相続
国外財産があると
どうなるの?
  • 海外財産
  • 海外在住
  • 国際結婚
相続財産が海外にある場合、手続きが複雑になります。国内財産の分け方も絡む紛争を総合的に解決します。
相続税
節税対策の
ポイントを知りたい
  • 税務調査
  • 税務訴訟
  • 相続税の
    還付
生前にどれだけ詳細にシミュレーションすることができたかで、相続税対策は決まります。遺言内容にも影響しますので、多方面からの検討をする意味でも弁護士兼税理士にお任せ下さい。