預金の無断引き出しを問題にする方法

預金の無断引き出しを問題にする方法

[投稿日]: [投稿者]:
[サブカテゴリ]:
預金の無断引き出しを問題にする方法

預金の無断引き出しを問題にする方法

相談者からの相談内容

両親が残してくれた不動産について兄弟でもめています。 父は17年前に亡くなりました。 その際の相続では、父の遺産である鎌倉の実家家屋を母が相続し、実家土地を兄と私の2人で相続しました。 自宅土地は兄と私が2分の1ずつ共有ということになりました。 父の死後、母は一人暮らしを続けていたのですが、母も高齢となってきましたので、5年前から私たち夫婦が実家にて母と同居することになりました。 兄は都内の賃貸マンションで家族と一緒に住んでいます。 先日、母が亡くなりました。 49日の法要後、兄弟で相続について話し合うことになっていたのですが、兄は話し合いに応じませんでした。 数日後、兄から手紙が届きました。 その手紙には、「実家の土地の共有関係を解消したいので、自分の持ち分を買い取ってほしい。母の相続については、実家の家屋の価格の2分の1に相当する価額をお金で支払ってほしい」と書かれていました。 私としても、共有関係を解消したいと考えていましたので、兄の提案には賛成しましたが、いくら兄に支払うのかについて意見が食い違っています。 兄は時価1億5000万円を基準に考えて請求していますが、私は路線価を基準に考えたいと伝えました。 どうやら兄はこのお金で一軒家を購入しようと考えており、少しでも多くのお金を手にしたいようです。 兄は一歩も譲らないと言っており、このままではいつまで経っても問題は解決しません。 話し合いを進めようと電話をしましたが、兄は感情的になって「安い金額しかもらえないなら、共有のままで良い」と言って、一方的に電話を切ってしまいました。 土地の問題だけではなく、母の相続の話もしなければならないのに、兄は電話に一切出なくなってしまい、先が思いやられます。 今後どのようにすれば良いのでしょうか。
弁護士からの
一言アドバイス
「学ぶ」コーナーでまずは勉強 頃合を見計らって弁護士に依頼 状況によって弁護士に依頼 至急弁護士に依頼することが望ましい 今すぐ弁護士に依頼することが望ましい
今すぐ弁護士度
簡単に解決できる見込み やや簡単に解決できる見込み 解決できる見込みあり 解決するのがやや難しい 解決するのが難しい
解決難易度

まず、お父様が亡くなられる「前」に、お兄様がお父様の預金を無断で引き出した場合について考えますと、お父様はお兄様に対し、無断で引き出した金銭を返せと請求することができます(不法行為損害賠償請求権または不当利得返還請求権)。

そして、お父様が亡くなると相続が発生し、相続人はご相談者とお兄様の2人ですから、ご相談者は上記の不法行為損害賠償請求権または不当利得返還請求権の半分を相続することになります。

したがいまして、ご相談者はお兄様に対し、無断引出額の半分を請求することができます。

次に、お父様が亡くなった「後」に、お兄様がお父様の預金を無断で引き出した場合について考えますと、お父様の預金は、お父様の逝去と同時に、ご相談者とお兄様に半分ずつ帰属します。

そうすると、お兄様がお父様の預金を半分より多く引き出した場合には、ご相談者はお兄様に対し、半分より多く引き出した部分について、不当利得返還請求をすることができます。

つまり、ご相談者はお兄様に対し、お父様の預金額の半分より多い部分について、返せと請求することができます。

ご相談のケースでは、無断引き出しについては一切触れずに審判がなされ、その後確定したとのことですが、遺産分割審判が確定した場合、その「審判結果自体」を再び争うことができるかについては、議論の余地がある問題点であり、見解が分かれております。

しかし、お兄様がお父様の預金を無断引き出したという「前提となる権利関係」については、訴訟を提起して争うことができる場合もあります(最高裁昭和41年3月2日決定ご参照)。ただし、訴訟の相手方はお兄様となります。

お兄様に対する刑事責任追及ですが、一般に、権限がないのに預金を引き出した場合、窓口で引き出したのであれば金融機関に対する詐欺罪、CD(キャッシュ・ディスペンサー)機を使って引き出した場合には金融機関に対する窃盗罪が成立する可能性はあります。

ただ、犯罪が成立するためには法律で定められた様々な要件を満たしていなければなりませんし、起訴するかは検察官の裁量にかかっています。

また、家族内における犯罪については、警察が消極的であるという傾向もあります。

したがいまして、お兄様のケースで刑事責任を追及することは難しいと考えます。

お兄様や金融機関に対する民事責任追及について考えますと、上記とおり、お兄様に対しては、引出額がお父様の預金額の半分より多い場合、そのことを訴訟で争うことは可能と考えます。

しかし、請求の理由は不法行為または不当利得となりますので、コンプライアンス違反ということにはならないと考えます。

また、審判の確定後であっても、引出額がお父様の預金額の半分より多い場合、そのことを訴訟で争うことができる可能性はあると考えます。

一方、金融機関は定められた事務手続きに則って預金の払い戻しを行っていると考えられますので、当該金融機関に対してコンプライアンス違反を理由に損害賠償請求をすることは難しいと考えます。

以上のとおり、預金の無断引き出しについては調停や審判以外の民事訴訟手続きで争う必要がありますから、証拠収集等の準備は早期に始める必要があります。

ここがポイント!

預金の無断引き出しについては調停や審判以外の民事訴訟手続きで争う必要がありますから、証拠収集等の準備は早期に始める必要があります。

[投稿日]: [投稿者]:永田町法律税務事務所

この記事が参考になった方はクリック!

同じカテゴリーの相続相談事例 [カテゴリー:不動産相続編]

2019-08-20[カテゴリー]:
病気の次女のために財産を多めに相続させたい。
私は東北地方で印刷会社を経営しています。 夫に先立たれてからは私が経営者として会社を存続させてきました。 夫婦で築き上げた会社ですが、業績は順調で、複数の不動産を所有しています。 娘が二人いて、長女は会計士をしています。 次女はサラリーマンをやっていました…[サブカテゴリー]:
A家の事例:家系図参考になった!4
2019-08-20[カテゴリー]:
亡夫のお金で購入した息子名義の財産について、相続財産に含まれることを認めさせたい…
夫が亡くなって相続が発生したのですが、息子と対立しています。 相続人は妻の私と息子、娘なのですが、息子と私たち母娘は仲が悪く、対立しています。 息子名義の不動産などの財産があるのですが、実際はお金を私たち両親がねん出していました。 最初は息子も不動産は自分のもの…[サブカテゴリー]:
T家の事例:家系図参考になった!6
2019-08-20[カテゴリー]:
共同相続人は連絡先も知らない甥たち。相続財産は自宅のみ。
父の相続について相談があります。 母は既に他界していますので、相続人は私と、亡き兄の子ども3人で、合計4人です。 相続財産は、横浜の実家不動産と預貯金6000万円です。 私は実家で父と同居していたのですが、父は晩年、腰を痛めて日常生活を送るのも不自由するようにな…[サブカテゴリー]:
O家の事例:家系図参考になった!2
2019-08-20[カテゴリー]:
【お寺の相続は自由度が低い】寺を継ぐ長男が実家の家の所有権も主張
父の相続が発生して長男が母と私に対して、相続による持ち分を主張しています。 兄は父の寺の後を継ぐのですが、父に自宅取得資金を出してもらっています。 それを考慮すると、父の財産についてはこれ以上もらうことはできないはずです。 ところが、さらに残っている預金について、法定相続分に応じ…[サブカテゴリー]:
2019-08-20[カテゴリー]:
【私道部分が相続できない!】遺産分割協議書の相続財産目録から漏れた不動産
遺産分割で長い間もめていたにもかかわらず、先日やっと遺産分割協議がまとまりました。 安心していたのですが、不動産の登記をしようとしたときに大きな問題が見つかりました。 なんと遺産分割協議書で記載していた財産目録のうち、不動産について私道部分の漏れていたのです。 このまま相続登記を…[サブカテゴリー]:

参考にしたい相続関連記事

2019-09-30
Q22.自分と家族の意見が異なる
決断が下せず何もせずに終わるパターン。家族の人間関係が一気に変わる出来事がないと進展しない。ルールを決めたら迷わないこと。 相続について自分と家族との意見が異なる どうしたら…
2018-08-10
【戦国時代でも問題となった遺産分割問題】相続において「嫡流」がモノを言った戦国時…
三谷幸喜監督の6作目の映画「清須会議」を先日、DVDで観ました。映画が描いた清須会議は、当時の相続に関する考え方を象徴的に表しています。年齢よりも、「嫡流」つまり正統であるかどうかがモノを言…
2019-08-19
遺産分割の際に意思表示に瑕疵があった場合 -遺産分割の問題
遺産分割の際に意思表示に瑕疵があった場合遺産分割の問題 遺産分割協議は、共同相続人全員の意思の合致により成立しますが、意思表示が詐欺・脅迫による場合や錯誤による場合には、無効…
2018-07-07
【SNSを活用して連絡先を割り出す必要があることも】少子高齢化が遺産相続に与える…
高齢化社会が、相続を複雑にしています。日本は女性に関して世界1位の長寿大国(WHO世界保健統計2016年版)。100歳を超えて亡くなることも珍しくなく、特に女性は男性より長生きし、息子や孫息…
2019-08-19
第三者事業承継(M&A)
経営者の方にとって事業承継は、何度も経験するものではありませんので、悩みや不安があって当たり前です。ましてや、事業承継は、税務と法務に跨り複雑であるため、何が最適な事業承継プランな…
2019-08-04
親子げんかの第二ラウンドはあるのか【大塚家具】
勝久氏の復帰を防ぎたい久美子氏 久美子氏の立場からすれば、今後の懸案は、勝久氏が過半数の株式を握って経営を乗っ取るか、再度の委任状争奪戦を挑まれることだ。これに対抗するには、 久美子氏が株…
ページトップへ

カテゴリ別 相続相談一覧これまで弁護士に寄せられたカテゴリ別相続問題

遺 言
遺言無効を争う
遺留分を争う
  • 遺言無効
    確認訴訟
  • 遺留分
    減殺請求
  • 遺言執行者
    解任
だましうちで遺言を書かせる。財産の不正操作の常とう手段です。遺言無効確認の訴えや、遺留分減殺請求などにより、財産の不正操作と戦います。
遺産分割
財産の不正操作に
要注意!
  • 預金の
    無断引出
  • 名義の
    無断書換
預金を勝手に引き出したり、不動産の名義を勝手に書き換える。財産の不正操作と徹底的に戦う覚悟がある方のお力になります。
不動産相続
評価や分け方で
モメる不動産相続
  • 評 価
    トラブル
  • 分 割
    トラブル
  • 不動産の
    不正操作
分けられない財産の典型である不動産。不動産の評価について相続人間でモメます。そもそも不動産が相続財産かどうかも問題になります。不動産を独り占めする財産の不正操作と最後まで戦います。
事業承継
同族会社の
内部紛争に勝つ!
  • 取締役の
    不正追及
  • 株主総会
    の形骸化
同族会社の内部紛争や支配権争いでお悩みの方のお手伝いをします。事業を営む方の相続問題は通常の相続以上に複雑です。会社の支配権を勝ちとり、事業を守り抜きます。
国際相続
国外財産があると
どうなるの?
  • 海外財産
  • 海外在住
  • 国際結婚
相続財産が海外にある場合、手続きが複雑になります。国内財産の分け方も絡む紛争を総合的に解決します。
相続税
節税対策の
ポイントを知りたい
  • 税務調査
  • 税務訴訟
  • 相続税の
    還付
生前にどれだけ詳細にシミュレーションすることができたかで、相続税対策は決まります。遺言内容にも影響しますので、多方面からの検討をする意味でも弁護士兼税理士にお任せ下さい。