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遺言無効確認訴訟遺言の弁護士

弁護士が教える不当な遺言が作成される実態遺言無効確認訴訟

「モメないための遺言を作成しましょう。」
よく言われますが、遺言がモメないための道具として悪用する不逞の輩がいます。
家族間で財産を不正な方法で自分のものにする財産の不正操作。
彼らは自らの窃盗を完全犯罪とするために、遺言を利用するのです。
遺言が、しかも公正証書遺言が存在すれば、「遺言があるから仕方ない」「もう争いようがない」と諦めてしまう方も多いでしょう。
こうした効果を期待して、遺言を悪用する場合もあります。
財産の不正操作を行ったうえで、用意周到な人間は万全を期すために、遺言者に遺言を作成させるのです。

詳しくはこちら(遺産分割サイト)

1 隠蔽のために遺言を書かせる

財産の不正操作をした人間が親を唆して遺言を書かせて犯行を隠蔽するケース

父親の預金を勝手に引き下したり、贈与契約書を偽造して不動産の登記を移転したりするという典型的な財産の不正操作を行った場合に、財産の不正操作行為を隠蔽するために、遺言を作成させ、付言事項に預金や不動産を贈与した旨を書かせて辻褄を合わせるのです。
遺言に付言事項にわざわざ記載されている以上、他の相続人も問題にしにくいという状況を作り出します。

2 懐柔して自分に有利な遺言を書かせる

同居の子が主導して自分に有利な内容の遺言を書かせるケース

たいていは被相続人と最後まで同居していた相続人が、財産の不正操作行為を行った後に、最後の仕上げとして遺言を半ば強制的に作成させるのです。被相続人を懐柔し、断れない状況にさせて書かせることがほとんどです。
遺言者が他の兄弟の影響を受けないよう、他の兄弟を実家に寄せ付けないようにしたり、遺言者に会わせなかったりするというケースもよくあります。
遺言者が遺言の内容を理解しているのかというと、まったく理解していないと思われるケースもあります。
酷い話になると、騙して遺言を書かせることもあります。下書き練習であるとして何パターンか作成させる。自分に有利になる内容が書かれている部分で頁が差替えできるようにした上で、何通りかある案の1つであると説明しておきます。署名をさせた後で、自分に有利なページのみを残して残りは捨ててしまうのです。
このようにして、遺言の内容を自分に都合の良いものにし、財産の不正操作行為を隠蔽することも行われています。

3 「公正証書遺言だから無効なはずがない」という言い分

公正証書遺言であれば問題ないのかというと、そんなことはありません。
公正証書であっても遺言能力の有無は問題になりますし、公正証書の有効性が争われる事件は少なくありません。
しかし実際には、公正証書遺言を突き付けられて、泣き寝入りしている方も多いはず。
「公正証書遺言が見つかったので、もう争えないのでしょうか」と当弁護士事務所にご相談にいらっしゃる方もいます。

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不当な遺言を無効にする遺言無効確認訴訟

1 遺言無効確認訴訟

遺言が無効になる場合としては、
①法定の要式を欠く場合
②遺言無能力者が作成した場合
③要素の錯誤に基づく場合
④公序良俗・強行法規に反する場合

等があります。
このうち、特に②遺言無能力者が作成した場合について問題となるケースが多く見られます。

遺言が無効であることを主張するには、遺言無効確認訴訟を提起することになります。

遺言無効確認の訴えは、遺言が無効であると考える相続人が単独で訴えを提起することができます。

遺言無効確認について裁判所の判断を求めたい場合、原則としていきなり裁判を提起するのではなくまず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければいけません(家事事件手続法257条1項)。

遺言無効確認訴訟は、遺言の無効を確認してもらうことによって、遺言の内容通りの財産分配を阻止することが目的です。

訴訟において原告の請求を認容する判決が確定すると、既判力により遺言が無効であることが確定します。したがって、遺言から生じる法律関係を問題とする後訴において、後訴裁判所は遺言無効判決を前提として判断しなければなりません。
これに対し、原告の請求を棄却する判決が確定すると、既判力により遺言の有効性が確定します。否定の否定は肯定ということです。
遺言が無効であることが確認されたうえで、実際にどのように財産を分けるかということは、改めて裁判の後に話し合うことになります。

2 実際の遺言無効確認訴訟の進行

(1)訴え提起

訴える相続人は、訴状に以下の請求原因を掲げて訴訟を起こします。
①遺言が存在すると被告が主張していること
②遺言者が死亡したこと
③遺言者が、死亡時に①の遺言の目的である財産を所有していたこと
④原告が遺言者の相続人又はその承継人であることを基礎付ける遺言者との身分関係

①から④は、いずれも確認の利益を基礎付ける事実で、これがなければ訴えが不適法になります。

(2)訴えられた側の反論

遺言が無効であることの主張立証責任は原告にはなく、遺言が有効であると主張する者(被告)が、遺言が有効であることの主張立証責任を負うことになります(最一小判昭和62年10月8日民集41巻7号1471頁)。したがって、遺言の成立要件を満たしているということを主張することが抗弁(被告の反論)となります。

自筆証書遺言の場合

①遺言者が、遺言の全文、日付及び氏名を自書し、押印したこと
②(加除訂正箇所がある場合は)加除訂正部分につき、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記してこれに署名し、変更場所に押印したこと

を主張します。
よく問題となるのは自書性についてです。
遺言者の筆跡については、日記やメモ等が提出され、筆跡の同一性を判断します。
もっとも、筆跡は本人の体調・感情によって異なることも多く、また時の経過によって筆跡が変わってくることもあります。
筆跡の同一性を証明しようとするのであれば、成立に争いのない照合文書の原本をできるだけ多数提出するべきでしょう。

筆跡の同一性が問題となる場合において、筆跡鑑定が行われることもあります。

公正証書遺言の場合

①証人2人以上の立会いがあったこと
②遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授したこと
③公証人が、遺言者の口授を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ又は閲覧させたこと
④遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名押印したこと
⑤公証人が、①から④の方式に従ったことを付記して、これに署名押印したこと

を主張します。

(3)訴えた側の再反論

訴えた側の再反論(再抗弁)としては次のものが考えられます。

①遺言時に遺言能力がなかったこと(民法963条)

遺言能力とは、単独で有効に遺言を行うことができる資格のことです。
遺言は財産関係や身分関係に重大な影響を及ぼす法律行為ですから、遺言を作成するには合理的な判断能力が必要とされます。
未成年は15歳以上であれば遺言を作成することが可能です(民法961条)。また、成年被後見人であっても、事理弁識能力があり、医師2人以上の立会いがあれば、遺言を作成することできます(民法973条1項)。
従来は、意思能力があればストレートに遺言能力も問題ないと考えられていましたが、最近では、当該遺言を理解する能力として一般の意思能力以上の能力を要求する傾向にあります。判例においては、遺言内容が重大ないし高額であることの理解の有無、遺言作成依頼の経緯、遺言作成時の状況、他人による不当な干渉の有無等が考慮されています。
遺言能力の立証は、主治医や担当医の診断書やこれらを資料とする鑑定が重視されます。

②民法総則の規定による無効・取消し

民法90条(公序良俗)や同法96条(詐欺強迫取消し)は民法にも適用されますが、民法5条、9条、13条及び17条(行為能力の制限)、民法94条(虚偽表示)、代理(民法99条等)は遺言には適用されません。

③遺言の証人又は立会人の欠格事由(民法974条)

証人又は立会人になることができないのはA.未成年 B.推定相続人及びその配偶者、直系血族 C.受遺者及びその配偶者、直系血族 D.公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び使用人です(民法974条)。
上記の者が証人又は立会人となっていた場合、遺言は無効となります。

3 遺言能力を争う

(1)認知症とは似て非なるもの

遺言を作成するには遺言能力があることが必要です。
重度の認知症で訳が分からないままに作成した遺言は、遺言能力がないということで遺言が無効になります。
もっとも、認知症の進行度合いによっては、日常会話に支障はないが金銭感覚には問題がある場合もありますし、その日その日によって調子の良し悪しが異なる場合もあります。高齢者だから、認知症だからといって、一概に遺言能力を否定してしまうことはできません。

そもそも痴呆や認知症の判断は、精神医学的観点からなされます。
これに対して遺言能力の判断は、精神医学的観点に加え、行動観察的観点からも検討されます。
認知症であっても遺言能力があるということはありますし、認知症ではなくても遺言能力がないということもあります。
そして遺言能力は法律上の概念なので、あくまでも法律家が判断をすることで、医師が判断することではありません。

認知症遺言能力
概念医学上の概念法律上の概念
判断精神医学的観点精神医学的観点+行動観察的観点
判断権者医師法律家
欠けた場合の遺言有効or無効無効
(2)遺言能力の判断基準

遺言能力の存否については、
①遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度
②遺言内容の複雑性
③遺言作成の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言作成に至る経緯等

を総合的に考慮して判断されます。

①遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度

遺言能力を判断するうえで最も重要な事情です。
精神医学的観点からは、精神医学的疾患の存否、内容及び程度を検討します。
検討の際に必要となる証拠は、遺言時又はその前後の診断書及び長谷川式簡易知能評価スケール等の精神心理学的検査の結果、担当医師の供述、医療鑑定の結果などです。
行動観察的観点からは、遺言時又はその前後の症状、言動を検討します。
入院診察録(看護記録等)、遺言作成時の状況に関する公証人や立会人の供述、遺言作成御当時の状況に関する家族や担当医師等の供述に基づいて判断することになります。

②遺言内容の複雑性

遺言者に求められる遺言能力の程度を考えるうえで前提となる事情です。
遺言者の精神能力がそれほど高くないにもかかわらず、複雑な内容の遺言を作成している場合、偽造の可能性が高いといえます。

③遺言作成の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言作成に至る経緯

直接的ではありませんが、遺言能力の存否の判断材料の1つとなります。
遺言者の日記や、生前の遺言者の生活状況・人間関係に関する関係者の供述を基に判断することになります。

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4 証拠収集が勝敗を決するポイント

いざ遺言無効確認訴訟を起こすとなった時に必要となってくる書類等は、遺言時又はその前後の診断書及び長谷川式簡易知能評価スケール等の精神心理学的検査の結果、担当医師の供述、医療鑑定の結果、遺言者の日記や、生前の遺言者の生活状況・人間関係に関する関係者の供述ですが、この中で医療記録が特に重要となります。医療記録を入手したうえで証拠化し、検討して主張整理するには相当の時間がかかりますので、早期の段階で入手しておくことが、スムーズな審理のために必要です。

遺言無効確認請求訴訟において特に重要な証人は、公証人と担当医師。
公証人には証言拒絶権が認められていますが(民事訴訟法197条1項2号)、遺言無効確認請求訴訟においてはある程度制限されます(東京高決平成4年6月19日判タ856号257頁)。
担当医師に裁判の協力を求める場合、一般に多忙である医師を出廷させるのは困難であることが多いため、実務上当該医師を対象として書面尋問(民事訴訟法205条)をしたり、当該医師が所属する医療機関を対象として調査の嘱託(同法186条)を実施したりすることがあります。

医療鑑定の利用が検討されることもありますが、医療記録や他の証拠によって判断ができる場合には必要性が乏しいとして行われません。

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