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【国宝が競売にかけられるケースも】多額の相続税が原因で手放すことになった国宝[POSTED]:2018-08-08
出張で兵庫県の姫路に行った時のことです。
せっかくなので、日本に4つしかない国宝城郭の1つである姫路城を観てきました。
当時放映されていたNHK大河ドラマの主人公・黒田官兵衛ゆかりの城ということもあってか、大勢の観光客でにぎわっていました。
天守閣が白鷺の姿のように美しい姫路城は、「白鷺城」の異名を持ちます。
残念ながら訪問した時は修繕工事のため、天守閣は工事用の仮建造物に覆われて、外からは見えませんでした。
しかし、粋な計らいがされていました。
工事用の仮建造物を活用して、観光客に天守閣を間近に観てもらおうと、天守閣を覆う仮建造物自体に、エレベーターが設けられていたのです。
エレベーターの両側がガラス張りになっているために、天守閣を目前で観られるだけでなく、町の眺望まで見渡せます。
遠くから天守閣を望むことはできませんでしたが、かえって得した気分になりました。
国宝の城は姫路城以外にも、愛知県の犬山城、滋賀県の彦根城、長野県の松本城があります。
このうち、最後まで城主の子孫の個人所有になっていたのが犬山城です。
個人所有を諦めざるを得なかったのは、相続が原因でした。
犬山城は戦国時代、小牧・長久手の戦いで徳川家康と対峙した豊臣秀吉が拠点とした城として知られています。
木曽川の清流沿いに建てられ、今も4層階の天守閣から濃尾平野を一望できる魅力的な観光スポットです。
しかしながら、歴史的に価値ある建造物であったとしても、相続の際には高額な相続税がかかってしまいます。
このため、先代の「城主」が平成16年に財団法人を設立し、その財団法人に寄付するという形で手放さざるを得なくなったわけです。
法人理事長には先代の親族が就任し、従来通りのきめの細かい管理をしています。
彦根城を巡っても、相続にまつわるエピソードがあります。
徳川家康の四天王の1人とされた井伊直政を初代とする名門・井伊家の城です。
桜田門外の変で暗殺された大老の井伊直弼も、彦根城の城主でした。
井伊家では、通称「彦根屏風」と呼ばれる全面金地で六曲一双の見事な国宝の屏風を所有していました。
三味線や双六で遊ぶ15人の男女を描いた江戸時代の傑作として、日本美術史でもよく取り上げられる作品です。
それほど価値のある美術品ということで、地元の税務署の評価額は約15億円に上りました。
このため相続税も極めて高額になると見込まれ、井伊家では平成6年に屏風を売りに出すことを検討し始めたのです。
これに対し、自治体の彦根市が買い取りを表明したのですが、所有者の井伊家が元市長だったこともあり、市による買い取りが不正な公金支出に当たるのではないかが問題となりました。
結局、この屏風は公金ではなく、地元に本部を置くスーパーマーケットチェーンの会長が購入費として12億円を市に寄付し、無事、市の所有物になりました。
そもそも国宝とは何でしょうか。
国は、歴史的、芸術的に価値のある建造物や絵画、彫刻、工芸品などのうち、重要なものを「重要文化財」とし、さらに特に価値の高いものを「国宝」に指定しています。
従って、国宝は、まず重要文化財であることが前提になります。
こうした国宝や重要文化財の所有者は、文化財保護法で売買や相続、所在の変更をする際、国への届け出が義務付けられています。
しかし、それが徹底されていないことが今、問題となっています。
文化財を取り扱う国の行政機関である文化庁は平成28年5月、国の重要文化財に指定されている刀や仏像などの美術工芸品の少なくとも172点の所在が分からず、30点について盗難届が出されていると発表しました。
中には、相続などで所有者が変わるなどしても国への届け出がされなかった結果、所在が分からなくなっているものも含まれているとみられています。
事態を改善するため、文化庁は国指定重要文化財の美術工芸品約1万500点の管理状況を全数調査するとともに、所有者に対し国への届け出の徹底を求める措置を取りました。
また、インターネットを通じ、国指定文化財の売買の状況や海外流出の状況を把握する措置も取られました。
所有者が国の重要文化財を競売にかけてしまうケースも、しばらく前に問題になりました。
重要文化財の所有・譲渡・相続・贈与については、一定程度の固定資産税、所得税、相続税、贈与税の減免などの優遇措置が講じられていますが、競売による所有権移転については、想定されていないため、特に禁止されていません。
このため平成20年に、多額の負債を抱えた滋賀県大津市の寺の債権者が地元の裁判所に対し、重要文化財の指定を受けている建物や庭園などの競売を申し立てたのです。
結局、入札者が他にいなかったため、債権者自身がこれらを約11億円で競落しました。
裁判所は法律上、重要文化財の競売が禁止されていないため、競落を許可するしかありませんでした。
「重要文化財の所有権が競売で移るのは前代未聞」と文化庁がコメントする珍事でしたが、法の不備をかいくぐられてしまったわけですね。
現在も、競売を回避する法整備はなされていません。
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