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【実質的な依頼者の意向は無視できない】相続税理士の依頼者は誰か[POSTED]:2019-01-26
相続業務に関する実質的な依頼者
税理士に対する相続税申告の依頼者は誰かという問題があります。
形式的な依頼者は委任状を書いた相続人なのでしょうが、実質的な依頼者は誰かということを考えると、奥が深い問題が存在することに気づきます。
税理士事務所への依頼は分析的に考える必要があります。
税理士との申告業務に関する委任契約への署名と、税理士への委任状への署名。この2つは別のものである可能性があります。
委任契約は極端な話、全く無関係な第三者からの依頼でも問題はありません。
税理士報酬を負担するのは誰なのかということにすぎないからです。
税理士事務所との全くの私的な契約において、税理士への依頼主は誰なのかという問題です。
形式的に特定の相続人だけが署名し、報酬の負担は実際に折半ということもありますし、報酬も契約書に署名した特定の相続人だけが負担するということもあります。
これに対して委任状は、税理士が申告業務について、その相続人の依頼を受けていて、申告代理をする権限があることを公に称する書面です。
特定の相続人がリードして税理士を決めることが多い
相続人全員がまとまって、1つの税理士事務所に依頼する通常のケースを考えます。
相続人全員が相談をして、協議のうえで税理士事務所に依頼をすることにした、ということももちろんあるかもしれません。
事実上の連絡窓口が特定の相続人になっていたとしても、本当に相続人全員で税理士を決めたパターンです。
モメる要素もない場合の実質的な依頼者は、相続人全員ということになるでしょう。
しかし実は、特定の相続人がリードして税理士を決めたというパターンが多いように思えます。
この場合、実質的な依頼者は、税理士事務所を決めて連絡を取っている相続人ということになります。
委任状に署名をした形式的な依頼者と実質的な依頼者がズレてきます。
形式的な依頼者に対しても、もちろん申告業務を進めるうえで必要な説明をします。
しかし、誰の意向が反映されやすいかというと、やはり実質的な依頼者の意向が反映されやすいのです。
相続業務の実質的な依頼者が遺産分割をリード
このズレが生じるケースでなぜ問題が生じるかというと、遺産分割をリードできる立場に、実質的な依頼者である相続人と税理士が就くことになるからです。
遺産分割における財産額の評価と、相続税申告の財産額の評価にズレがあることを十分に説明していれば別なのですが、おそらくはモメる原因にもなりかねないので、求められないにもかかわらず強調して説明することはないでしょう。
特例などを利用して相続税が一番安くなる分け方を導くのが税理士の役割なのでしょうが、特例を享受する遺産分割の分け方自体が、実は他の相続人にとって納得できないものであることもあるのです。
もちろん、税理士としても建前としては、相続税が一番安くなる分け方のみならず、相続人間の公平を重視した分け方や二次相続に配慮した分け方、不動産の評価額を考慮した分け方などに基づいて相続税を試算し、依頼者の意向に沿う分け方を導きます。
しかし、税負担の軽減という依頼者からの要求のみに専念するあまり、他の考慮要素への検討があまりなされないということも起きます。
相続税の申告書に遺産分割協議書を添付する以上、遺産分割協議が先にありきなのですが、税理士が関与した相続税申告に伴う遺産分割協議は、相続税を軽減させるという至上命題があるだけに相続税節税が前提となっており、相続人が理解できぬまま、納得できぬままに合意していることもあります。
これがモメ案件に発展しなければ問題はありませんが、相続税申告の途中で紛争が顕在化することもあります。
モメ案件に発展すると、問題になるのです。
途中で別々の税理士への依頼に切り替わることにもなります。
税理士報酬を負担する実質的な依頼者の意向は無視できない
共同相続人であるAとBがいて、Aが税理士との委任契約書を単独で署名し、報酬も全額Aが支払いました。
委任状はもちろん、ABともに署名していなければ申告ができないので、両名とも署名しています。
ちなみにAは被相続人と同居していて、税理士もAが見つけてきました。
この状況で勘の良い方なら、Aの挙動に怪しさを感じるかもしれません。
なぜAはBに税理士報酬の折半を求めないのか…。
おそらくは折半を求めると、他の税理士に相見積もりを取ることをBが提案し、自分の息がかかった税理士への依頼がひっくり返されることになりかねないからでしょう。
1年後、税務調査が入り、Aが多額の財産を自己の財産として、相続財産から除外し、隠していることが判明しました。
この後、AB間で遺産分割についてやり直しになって、再度の遺産分割協議になるのですが、事実上、A単独からの委任で動いていた税理士に対して、Bの弁護士から怒涛の問合せや確認の連絡が繰り返されました。
AB両名から委任状をもらっている税理士としては、Bからの問合せに対して、無視をするわけにはいかず、Bへの回答義務を負っています。
しかし、実際にお金を払ったのはAなのです。
Aの意向を無視するわけにはいきません。
税理士としては難しい立場に立たされることになります。
依頼者は実質的にはAのみですし、当初の遺産分割協議および相続税申告はAの意向に沿って進められたというのが、実態なのです。
遺産分割の方法により相続税の税額が変わる
お金を払う人間に対して不利な行動をとることがなかなかできないというのは、当然のことです。
そして顧問税理士に相続税申告を依頼する場合、顧問税理士と日頃からコミュニケーションをとっている相続人がリードするはずです。
相続税の申告のためだけに税理士を探す場合は、税理士にファーストコンタクトをとり、委任後も継続的にコミュニケーションをとる相続人がリードすることになります。
相続税は遺産分割の方法によって、税額が変わってきます。
実質的な依頼者が存在し、他の依頼者との関係で利益相反的な可能性を秘めている以上、税理士として中立的なアドバイスをすることは、非常に難しいのではないでしょうか。
依頼者もこの事情を理解して相続税申告を依頼するべきと考えます。
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