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遺言の増加に伴う争族。認知症の疑いによる無効を防ぐためには[POSTED]:2021-10-14

遺言の増加に伴う争族。認知症の疑いによる無効を防ぐためには

普及が加速する遺言

遺言を作成することの重要性は、ここ数年でかなり浸透しています。
実際に事務所に来られる相続発生後の相談者の中で、遺言を持参される方はこの10年間でかなり増えました。10年前は遺言を持参されるケースは極めて少数でしたが、今は逆に法律事務所に相談する相談者の半分以上は、遺言を持参されている印象です。
日本公証人連合会公表による全国で作成された遺言公正証書の件数も、年々増加傾向にあります。

 

 

遺言作成件数の増加によって相続紛争は減少?増加?

前段のグラフを見ると10年前に比べ、遺言公正書作成件数は約34,000件も増加しています。遺言作成の必要性が認識されているのでしょうか。
遺言作成と聞くと「もめ事を起こさないための事前準備」というイメージを持っている方は多いでしょう。しかし、遺言作成者が増えているにもかかわらず、遺言無効確認訴訟の件数も同時に増えていて、実際には、遺言を作成することによってもめ事が減っているとは必ずしもいえない状況にあります。
揉め事を起こさないために作成されているはずの遺言が増えた分、相続紛争が減ったのかというと、そうではないのです。
特に相続紛争の中でも、遺言の有効性をめぐる紛争は少なくとも増えています。

 

認知症の人が書いた遺言の有効性と

遺言の有効性を争うケースの中でも多いのが、遺言能力がなかったという申立てです。
要するに、遺言を作成したときに認知症であったがゆえに、遺言は無効であるという申立てです。
認知症だからといって遺言能力がないということには必ずしもなりません。遺言能力というのは認知症かどうかによって自動的に有無を決められるものではなく、あくまでも具体的な遺言の内容を理解し、その結果を弁識する能力があったかどうかという相対判断なのです。この遺言を作成する能力はなかったが、別の内容の遺言であれば作成する能力はあった。遺言能力の有無はこのように、具体的な遺言との関係で決まるものなのです。

 

 

遺言の無効を防ぐためには

認知症による遺言能力の有無の解説は長くなるのでここでは深入りしませんが、せっかく書いた遺言が無効とされないために、ぜひやってもらいたいことがあります。
それは遺言を書くタイミングでの診断です。
認知症の診断方法の1つに、認知症の疑いがあることを判断するための「認知症テスト」というものがあります。これは認知症の可能性がある場合に受けることが多いものであり、認知症ではないことを診断してもらうために受けることは、一般的ではありません。また、特に認知症の傾向もないにもかかわらず、認知症テストを受けることを遺言者にすすめることは、プライドを傷つけてしまうのではないかと、なかなか言い出せないご家族もいらっしゃるようです。認知症の診断を受けることは、年寄り扱いをしていると思われないように気遣うご家族にとってはハードルが高いようです。

 

 

診断を受けるには、他の問題もあります。
それは、認知症の疑いがないこと自体を診断する医師が、あまりいないことです。
1次相続でもめており、おそらくは2次相続ももめる。このような状況を説明したうえで診断をお願いすると、医師は裁判沙汰に巻き込まれたくないとして、診断を断ってくる方がほとんどです。
後々に裁判沙汰に巻き込まれたとしても、職業倫理に基づき診断時に合理的に下した診断として、堂々とご自身のお考えを表明してもらうべきかと思いますが、なかなかそうもいきません。
実際のケースでも、裁判で係争中であることをお知らせした瞬間、それまで協力的だった医師の方が、急に躊躇をし始めて協力を断ってきたこともあります。

 

 

遺言を書くタイミングでの認知症の診断は、遺言者に対する配慮や、協力してくれる医師を見つけづらい事情もあり、簡単なことではありません。
しかし、それでも診断はしてもらいたいものです。
自治体の介護認定票や過去の診療記録で何らかのネガティブ情報があると、認知症かどうかを減点方式でみる裁判官もいます。認知症であることを細かな材料を拾って強引に認定されてしまうケースはありますが、認知症ではないという認定を積極的にしてくれることは実際の裁判ではあまりないという印象です。認知症の判断は、減点方式でなされることが多いのかもしれません(認知症ではないというのが通常の状態であるという前提であれば、もっともなのですが。)。
認知症テストは通常、認知症ではないことを立証するために受けるケースが少ないのですが、それでも受けておくことで、遺言能力があったと主張できる1つの証拠となります。医師による認知症ではないという確定診断が難しいとしても、遺言作成のときに遺言能力があったとする証拠づくりはしておくべきです。
たとえば1次相続の際に裁判で争っているのであれば、あえて裁判の最中に遺言を作成しておきましょう。遺言作成時に遺言能力がないとすると、裁判においても訴訟能力が問題になります。訴訟が問題なく終了していれば、遺言も有効であるという証拠になります。対立している相続人も、訴訟能力はあるのに遺言能力はないとは言いにくいのです。
廃除の申立などの裁判を提起して、その裁判中に遺言を作成することにより、裁判が継続していること自体を遺言能力があることの証拠とすることも考えられます。
もちろん以上のことは、本当に遺言能力があることが前提です。
遺言能力があったにもかかわらず、後に遺言能力がなかったという言いがかりを申し立てさせないための訴訟提起です。

 

まとめ

遺言を作成しただけでは争族を防げるかというと、そうではありません。
それどころか、作成した遺言が無効となる可能性もあります。
のこしたい人にのこすためには、起こり得るさまざまなリスクを想定した対策が必要です。
その1つとして、遺言能力があることを証拠として残しておくことは重要となります。
万が一、認知症の予兆があったり、すでに症状があった場合でも、症状の軽重は幅広く、作成しようとしている遺言との関係で遺言能力がないと、一概に判断できるものではありません。
少しでも遺言能力に不安がある場合は医師の診断を受けるか、弁護士に相談することをおすすめします。

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