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3章 「分割しずらい財産」は遺産相続でモメる危険アリ[POSTED]:2017-11-17
「分けられない」からモメる3章 「分割しずらい財産」は遺産相続でモメる危険アリ
遺産相続でモメるポイントとして、「分けられない財産」が挙げられます。
預貯金や現金は、遺留分や寄与分の問題があっても、最終的に「分けられる」財産です。一方、指輪や絵画などはどうでしょうか。二つに分けることなどできません。
10万円の札束は2人で分けることができますが、10万円の指輪を2人で分けることはできないのです。
分けられない以上、物そのものの分け方は「0」か「100」かになります。あるいは、「100」をもらった人が、「0」の人に、分け前にあたる金額を支払って、調整するしかありません。
この「分けられない財産」が、遺産相続におけるモメごとの原因になるのです。
不動産は相続財産の55%を占める3章 「分割しずらい財産」は遺産相続でモメる危険アリ
「分けられない財産」で最も大きなものが、「不動産」です。
不動産は価値が大きなものですから、相続財産に占める割合も大きくなります。
相続財産に占める不動産の割合は、なんと約55%を占めます。
国税庁のデータによれば、平成21年(2009年)分の相続財産の種類は次のような割合です。
すべての相続財産の合計11兆592億8500万円のうち、土地や家屋などの不動産は6兆997億2500万円であり、相続財産の全体の55%を占めていることがわかります。
ちなみに、有価証券は1兆3307億3400万円で全体の24%、現金・預貯金などは2兆4682億1200万円で全体の22%、事業(農業)用財産は476億8900万円で全体の0.4%、家庭用財産は154億4800万円で全体の0.1%と続きます。
つまり、現金・預貯金よりも、有価証券よりも、ずば抜けて数字が大きいのが不動産なのです。この数字からも、いかに相続に占める不動産の割合が高いかがわかるでしょう。
モメているほとんどの案件で不動産が相続財産に含まれています。もっといえば、「不動産が相続財産のほとんどを占めていて、ほかの財産はあまりない」という状況が多いのです。
つまり相続財産をどう分割するかはすなわち、不動産をどう分割するかの問題になってくるといえます。
不動産の分割のケース3章 「分割しずらい財産」は遺産相続でモメる危険アリ
息子を交通事故で亡くした母親Uさんのケース
息子夫婦に子どもがいなかったために、両親であるUさん夫妻が嫁と一緒に相続人になりました。
嫁と仲が悪い姑のUさんは、もともと息子夫婦の結婚には反対でした。接客業についていた嫁をちゃらちゃらしていると評し、派手好きと一刀両断。赤いマニキュアを塗った長い爪で研いだ米など食べられないと、顔をしかめて言っていました。
意地悪をするUさんから嫁を守っていたのは息子でした。いつも仲裁に入っていましたが、それもUさんの怨念をなおさら燃え上がらせました。小さいころから育ててきて自分のものであると思っていた息子を、ほかの若い女性にとられてしまう感覚かもしれません。
嫁も夫の手前、Uさんにできるだけ気を遣っていましたが、夫が亡くなってしまった今、もうUさんとは付き合う必要はありません。
そもそも嫁と姑はもともと他人。仲が悪い家族関係の代表格ともいえますが、間に入っている夫(息子)が亡くなってしまえば無理に付き合う必要もなくなります。
嫁を目の敵にしてきたUさんが、憎悪の念をいっそう燃え上がらせたのは、息子が亡くなってからの嫁の態度が、急に変わってしまったからでした。葬式の後、嫁はろくにあいさつもせず、一切、Uさんと関わり合わないようにしているとのことです。
こうなると、遺産相続問題はこじれ、モメること必至です。
残された息子の財産は、息子名義のマンションのみ。幸いマンションのローンは、保険金で払い終えましたが、それ以外に財産はありません。
息子名義のマンションは、どうやら嫁も購入にあたってお金を出しているようです。しかし名義は息子のものなので、100%息子の相続財産であるとUさんは主張しています。確かに嫁も一部はお金を出していたのですから、法的には嫁の持ち分が認められる可能性があるはずです。しかしその証拠はない。
嫁が資金を出しているということ自体を立証することは困難な状況でした。
この場合、息子さんの遺言はありませんので、法律上は、遺産の3分の2については嫁に、3分の1については両親であるUさん夫妻に権利があることになります。
そこでUさんは「私も相続人の一人なのだから、マンションを相続したい。私たち夫婦にも3分の1の権利があるはずだ」と主張しました。Uさんの主張に基づくと、息子名義のマンションを嫁とUさん夫妻の共有財産にすることになります。
共有財産にすると、原則として全員の合意がないとマンションを売却することができなくなります。
嫁が売りたいと思っても、Uさんが同意しなければマンションの売却ができないのです。もちろんUさんが売りたいと思っても、嫁の同意がないと売れない財産になってしまいます。自由に処分できない財産を持っていても仕方がないのです。
不動産に対する相続分を現金で調整するように話し合うことが、この場合は建設的なのですが、Uさんは、「今後の嫁に対するけん制を維持するためにも共有でいきたい。マンションを所有したい」「面倒なほうがいいんですよ。嫁はこのまま逃げられると思っているのだからそうはさせません」と譲りません。
もちろん、これは嫁に対する嫌がらせです。マンションを共有にすれば全員の合意がないと、事実上売れなくなってしまうからです。嫁にとっては大打撃になります。
これが、遺産相続において分けられない不動産の恐いところです。一つの不動産をめぐって、お互いの思惑が交錯し争いの原因となるのです。
現金は、「相続の調整役」と心得よう3章 「分割しずらい財産」は遺産相続でモメる危険アリ
Uさんのケースの場合、主な問題は次の2点です。
「①残された財産がマンション」「②マンション以外に財産がない」ということです。
まず、「①残された財産がマンション」についてですが、仮に残された財産が、貯金などの「分けられる財産」であれば、話は簡単です。たとえば1000万円の貯金があるなら、法定相続分どおり、750万円を嫁が、250万円を両親が相続すればよいだけです。
「分けられない財産」である不動産だから問題になるのです。
ただし、「分けられない財産」が残されたとしても、そのほかに現金が残されていれば、問題は別です。「②マンション以外に財産がない」からこそモメる要因になるのです。
現金があれば、モメるのを防げるケースはたくさんあります。
不動産などは、必ずしも相続人間で均等に分けられるとは限りませんので、不動産を相続する相続人がその変わりのお金を払う必要があります。このお金のことを「代償金」といいます。
このケースの場合、マンションの価格の3分の1にあたる金額を嫁がUさんに払えば、問題はなかったのです。
現金は遺産相続において「調整役」です。
調整役がいなければ交渉は当然にモメます。現金がないためにまとまらない遺産分割協議はたくさんあります。
不動産の価値をどう決めるか3章 「分割しずらい財産」は遺産相続でモメる危険アリ
代償金を支払う分割方法でも問題が残ります。
「どのように不動産の価値を決めるか」について新たに問題となるのです。
不動産価格の算定方法はいくつかあり、どの方法をとるかでモメる可能性があります。加えて相続財産や共同相続人の構成如何によっては、相続人間で均等に遺産を分けられるものではなく、相続人間で不平等が生じた場合にどのように調整するかという問題が生じます。
不動産の評価方法には次の4つがあります。
①実勢価額(取引価格)
②地価公示価格(標準価格)
③相続税評価額(路線価方式・倍率方式)
④固定資産税評価額
①の実勢価格とは、不動産が実際に買われるときの金額のことです。
②の地価公示価格とは、1年に1回3月中旬に、国土交通省が発表するその年の土地の価格です。よくテレビニュースで、「今年は、銀座4丁目のこの区画が一番でした」と報道されるのが、この地価公示価格です。
③の相続税評価額とは、その名のとおり相続税を納めるときの基準となる土地の価格のことで、だいたい公示価格の8掛けくらいで、国税庁が価格を決めます。
④の固定資産税評価額も、その名のとおり固定資産税評価額を納めるときの基準となる価格で、国が定めた「固定資産評価基準」に基づいて市町村が決定します。だいたい公示価格の7割程度です。
相続税評価額(路線価方式・倍率方式)が地価公示価格より低く設定されている理由は、相続税評価額(路線価方式・倍率方式)が高いと相続税を納めるために売却を急がせてしまい、結果として相続財産の土地が安く買いたたかれるおそれがあるためです。
一般に、遺産分割の際には、不動産評価の指標として使用される①実勢価額や②地価公示価格を参考にして相続財産の評価を行います。ただし、遺産分割はあくまで相続人の同意に基づいて行われますので、財産の評価についても相続人が納得すればよく、必ず、これらの方法で評価しなければいけないというものではありません。
田舎の家をもてあます3章 「分割しずらい財産」は遺産相続でモメる危険アリ
不動産の価格によっては、相続人が代償金を払い切れない場合もあります。
とある地方都市の大きな土地をもっている父が亡くなり、三人の兄弟が相続人となったケース
その不動産は、田舎のなかなか売りにくい場所にありました。さらに、不動産がたくさんあっても現金は少ない。こうなると、遺産分割は非常にやりにくくなります。
本来であれば、不動産を相続した相続人が他の相続人に対し代償金を支払うことになります。しかし、代償金の原資となる現金がない。
そうであるならば、不動産を売ればよいということになりますが、たとえ売却してもたいした値段はつかず、買いたたかれることになりかねません。
こういう場合は、「値段は下がっても、売って換金して分ける」のか、「誰か一人が相続して、ほかの相続人に代償金を払う」のか、あるいは「共有財産にする」のかなど、意見が分かれて、モメることが多いです。そして、話し合いがまとまらず、結局そのまま放置するということもあります。
最近、地方にこうしたケースが増えて、遺産相続が膠着状態に陥ることもあります。
遺産分割中に遺産の価格が変動3章 「分割しずらい財産」は遺産相続でモメる危険アリ
何かとモメる不動産の遺産分割協議ですが、長引くと協議中に不動産の価格が大きく変動することがあります。
当初想定していなかった程度にまで価格に変動が生じた場合に、相続において影響する場面が2つあります。
一つは相続税の納付の場面
相続税の納付額は、相続開始時の価格で算定されます。
従って、相続開始後の分割協議中に不動産価格が変動しても、相続税の納付額その影響を受けません。たとえ土地の価格が大幅に下がったとしても、相続発生時の価格で計算されます。
もう1つは遺産分割の場面
相続税は相続開始時、つまり被相続人が死亡したときの金額で計算して課税されますが、遺産分割においては、不動産の価格は遺産分割が成立したときの評価額で計算することになります。
誰も住まない不動産。どのみち売却することになっていても、協議が長引いてその間に価格が大暴落すれば、協議で争っていた以上の価格のロスになってしまいます。
ある事件では、遺産分割調停を巡って3年間も調停が長引いた結果、投資信託は約5000万円、不動産は約2000万円も値下がりをしてしまいました。
特に、毎年、路線価が下がり続けている現在のような状況では、分割で不動産をもらわない相続人にとっては一刻も早く分割を終わらせることが必要になってきます。
不動産の評価額についてモメているときに、東日本大震災が発生し、地震の影響で液状化現象が起き、大幅に価格が下落してしまったケースもありました。
逆に不動産市況が好況で不動産価格が上がっていった場合、当初は不動産の分割を要求していなかった相続人が、不動産の分割を要求し始めて協議が紛糾することもあります。
遺産相続においては、損得勘定を考えて分割をすることが大切です。
共有すると、相続人がネズミ算式に増えてしまう3章 「分割しずらい財産」は遺産相続でモメる危険アリ
不動産をどのように分割するかは遺産相続において重要なポイントです。
できるならば共有を避けて、一人の相続人が相続するのが望ましいといえます。
しかしそれでも、時々「話し合うのが面倒だから」という理由で、相続時の遺産共有のまま放置したり、共有にして分割をしたりしてしまうケースがあります。この場合、どうなるでしょうか。
今この時点ですら協議が整わないのです。もしも共有相続人がさらに亡くなって相続人の数が増えたらどうなるでしょうか。ますます調整がとれないこと必至です。たとえば現時点では兄弟2人だけで共有財産として相続したとします。その後、兄弟がそれぞれ亡くなって相続が発生したらどうなるでしょうか。兄 弟にそれぞれ配偶者と、子どもが2人ずついたとします。すると、今度は、その6人が相続人となって、話し合わなければいけないのです。そして、その6人で折り合いがつかなかった場合、またその子どもたちが亡くなったとすると、さらにまた相続人が増えることになります。
こういった具合に相続が繰り返されるごとに共有者が増えていくのです。
不動産の利用も、最初は2人で意思統一すれば済んだ話が、徐々に話し合いの参加人数が増えて、合意がとりにくくなってしまうのです。
結局、固定資産税が課税されるだけの、絶対に処分できない不動産になってしまいます。
それでも共有にする場合は……3章 「分割しずらい財産」は遺産相続でモメる危険アリ
たしかに、不動産の共有は望ましくありませんが、それでも兄弟で共有割合を等しくして1つの土地を共有する場合、どのように利用できるのでしょうか。
そもそも「民法における共有」とは、2人で一つの土地を共有財産にする場合、土地が2つに区切ってあって、それを各々が別々に使うということではありません。一つの土地全体を2人で仲良く使う、というのが「土地の共有」です。
共有物に関する民法の規定は、共有者たちに対して、ある程度密な人間関係を想定しているのです。
つまり、2人で同等の権利で土地を共有するということは、もう一人の共有者の許可なく、半分の面積を勝手に売る権利はないのです。土地の全部はもちろんのこと、一部であっても、2人ともが合意に達しなければ、売ることはできないのです。
しかし、土地は売れませんが、共有者としての権利は売ることができます。
また、共有割合は共有する人たちの間で異なってもかまいません。3人で共有する場合、1人が50%で、残りの2人が25%ずつの割合という共有も可能です。
土地の利用のしかたについては、共有権利の過半数で決まります。
過半数というのは半数を超えるという意味ですから、持分の等しい共有者が3人いれば2人の同意でできます。しかし、等しい持分を持つ共有者が2人いた場合、片方だけでは過半数になりません。
3人の共有者の持分がそれぞれ5分の3、5分の1、5分の1だった場合は、5分の3の持分を持つ人間の意思だけで過半数になります。
このような場合、持分の過半数の5分の3を持つ者は土地全体の使い方を決めることができる権利があるのですから、過半数に満たない共有者の利用権は侵害されることもあります。
利用権を侵害された共有者がいる場合には、金銭補償の問題が出てきます。
名義と実態とのズレ3章 「分割しずらい財産」は遺産相続でモメる危険アリ
相続財産を整理していると、そもそもこの財産は相続財産かどうかという問題に直面することがあります。
ものに名前が付いていない場合、自分のものだと言って取り合いになることがあります。幼稚園児が必ず持ち物に名前を書くのはそのためです。物に名前が書いてあれば争いは起こりにくくなります。
しかし、名義人(ものに書いてある名前)とお金を出した人が一致していない場合はどうなるのでしょうか。
マンションを買ったときに、父の名義にしてあるが、実際にお金を出したのは息子であったというケース
お金を出してマンションを買い、父に住まわせていたところ、父が亡くなった後に、そのマンションは父親のものであるとしてほかの兄弟が法定相続分を主張してきたらどうでしょうか。
逆のパターンで、息子名義で家を建てたとしても、実際にお金を出しているのは父親であるということもあります。父が亡くなった場合に、ほかの兄弟は、たまたま不動産登記の名義が長男になっているからといって、相続分を主張しないのでしょうか。
この場合、父親が購入資金の全額を出していたということになれば、不動産は父のもので相続財産になります。あるいは、父が頭金を出していたということになれば、特別受益の問題になります。
「不動産は誰のものか」をめぐってモメるのです。
このような争いが生じると、遺産分割の前に、まず遺産の範囲を確定しなくてはいけません。
お金を出した人のもの3章 「分割しずらい財産」は遺産相続でモメる危険アリ
法律では、「形式的な名義」よりも、「お金を実際に出した人」が所有者であるという考え方をします。
「お金を実際に出した人」が名義人以外の者であるという証拠が十分でないと、形式的な名義人の所有となってしまいます。
家族の間でお金のやり取りをした場合にわざわざ証文をとるケースは珍しいでしょう。預金口座に出し入れの履歴が残っている場合であればともかく、残っていない場合は「お金を実際に出した」という証拠がないことになります。そうなると、名義人が所有者となるのです。
サラリーマンであれば毎月の収入が一定のはずなので、高額の財産の形成がされることに対して説明ができなくなりますが、自営業であれば毎月の収入が一定ではないケースもあります。証拠がない場合には実質的所有者の証明が難しくなります。
結果、名義人の財産という認定がされやすくなるのです。
不動産の名義書換え3章 「分割しずらい財産」は遺産相続でモメる危険アリ
名義書換えがなされていない不動産は多くあります。
これも大きな問題になるケースが多いです。
「名義=実態」ではないので、不動産は名義人の所有とは限りません。
中には先代からの相続の結果が登記に反映されていないものもあります。曾祖父の名義のままの不動産が残っている場合もあるのです。
このような状態で不動産登記を残存させておくことと、いろいろな問題を生じます。
登記の来歴は実際の来歴を忠実に反映している必要があります。たとえば曾祖父から祖父、父、そして自分と、登記が巡ってきた場合には、全員の登記が形に表れている必要があります。
もしも遺産分割協議が整っていたにもかかわらず、遺産分割協議書が存在しない場合は、歴代の相続人をたどって改めて遺産分割協議書を作成する必要があります。
形式的に不備のない遺産分割協議書がそろっている場合は、中間省略登記という手法で登記を新しく単独所有することになる所有者に移すことになります。
不動産を未登記のままにしておくと、将来、相続人関係者全員から書面を取り直すことになりかねません。
相続人関係者全員というのは何人になるでしょうか。
たとえば一世代で3人子どもがいたとして、それぞれの子どもに3人子どもがいます。3世代さかのぼると27人も関係者が登場することになってしまいます。
不動産を相続したら、登記の名義替えを必ずするようにしましょう。手続きを怠ると、子どもたちの世代に、大変な労苦を背負わせることになります。
後継者に事業を承継させる3章 「分割しずらい財産」は遺産相続でモメる危険アリ
「分けられない財産」は、不動産のほかにもいろいろあります。
絵画や骨とう品なども「分けられない財産」にあたります。しかし、よほど高額でないかぎりは、あまりモメごとの対象になるのは少ないようです。
「不動産」同様、取り扱いが難しく「分けられない財産」として問題となるのは、「事業」です。
一生懸命築き上げてきた事業を、なんとかして子どもに継がせたいと考える人は多いでしょう。
事業が会社組織として存在するのであれば、問題になるケースは少ないものです。一方、会社ではなく個人事業主の遺産相続の場合は、問題となることが多いといえます。
法定相続分通りに相続財産を分けてしまうと、事業が継続できないことがあるからです。
たとえば農業を営む場合、小規模で細々と作物を作るよりも、ある程度の規模の農地でスケールメリットを出して経営した方が、効率が良いということもあるでしょう。作付面積が半分になると、収穫量は半分以下になってしまうというイメージです。
このような事業の効率化という観点以外にも、特定の相続人に事業用資産を集中させた方が良い理由があります。
それは権利関係の煩雑さを避けるということです。例えば農地とトラクターを別々の相続人が相続してしまったら、農業を継ぐ相続人がトラクターを相続した相続人にわざわざ賃料を払って借りてくるのでしょうか。トラクターなど持つ必要もない相続人が、所有だけして賃料を取っている構図にもなりかねません。
このように事業用資産は、相続人間で財産が分散すると家業の継続ができなくなるため、その事業を引き継ぐ後継者に一切を相続させる必要があります。事業にはある程度の規模のまとまった財産があって初めて、安定した経営が可能になるという側面があります。
事業用財産しかない3章 「分割しずらい財産」は遺産相続でモメる危険アリ
事業用資産は、その事業の後継者に一切を相続させる必要があります。
ところが問題があります。
個人事業主は、仕事人生で生きてきたために、事業用財産以外はあまり持っていないことが多いのです。仕事一筋数十年。寝る間も惜しんで働いて、すべて仕事に心血を注いできた経営者であれば、お金が入れば事業用財産の更新に使い、ろくに財産を持っていないことが多いものです。
そうした状況で事業用財産を特定の相続人に相続させてしまうと、ほかの相続人に相続させる財産がなくなってしまいます。
現金を用意する必要3章 「分割しずらい財産」は遺産相続でモメる危険アリ
事業を相続させる場合、遺言を残すことによって、事業用資産を中心に他の相続人より多く後継者に相続させることができます。
その代わり事業に付きものである事業負債は後継者に負担させることもできますし、また事業に貢献した後継者には、寄与分を考慮した相続分を指定することもできます。
事業を承継させる者に対しては、事業用資産だけでなく、ほかの相続人に支払う代償金や高額になる相続税に備えて、現金を残す必要があります。ここでも現金は強い味方になるのです。
税金が支払えない場合は、結局事業用資産を処分することになり、事業を継続できないこともありえます。預貯金などで一定の財産を残したり、財産を承継する者を受取人に指定した生命保険を契約したりするなど事前の準備が必要です。なお、生命保険金の請求権は受取人の固有の権利のため、遺産相続に関係なく受取人が受領できます。
相続時精算課税制度で早めに贈与3章 「分割しずらい財産」は遺産相続でモメる危険アリ
相続時精算課税制度を利用するという手法もあります。
贈与税の課税方法の1つで、一定の要件に該当する場合には、相続時精算課税を選択することができます。
この制度は、贈与時に贈与財産に対する贈与税を納め、その贈与者が亡くなった時にその贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めたその贈与税相当額を控除することにより贈与税・相続税を通じた納税を行うものです。つまり、相続の時にまとめて生前の贈与に係る贈与税と相続税とを精算するということです。
贈与者は60歳以上の父母や祖父母、受贈者は贈与者の推定相続人である20歳以上の子や孫です。
2500万円までは贈与税がかからず、贈与財産の種類、金額、贈与回数に制限はありません。
父と母と別々に、この制度を選択するかどうかは任意です。
また、適用を受けるほうの子どもも、子どもごとに自由に適用を選択できます。
父親が元気なうちに次男に財産を贈与する代わりに、遺留分の放棄を依頼し、長男に残りの財産を遺言で相続させることもできます。贈与を受ける子にとっても、歳をとって相続が発生した時に財産をもらうよりも、金銭的な余裕がない若いうちに贈与を受けられるというメリットがあります。
個人事業主に使われる理由3章 「分割しずらい財産」は遺産相続でモメる危険アリ
相続税の精算のときには、贈与を受けた時の価額を基準に計算されます。
その結果、贈与を受けた財産が相続開始までに価額上昇した場合には、その差額相当分に対応する節税効果があります。近いうちに開発が見込まれる土地は、土地価額が上昇する可能性があるため、相続時精算課税制度の適用を受けたうえで贈与をすることが合理的です。
また後継者が自社株式の贈与を受けて、その後自社株式の評価が上昇した場合も、相続時精算課税制度の適用を受けたうえで贈与をすることが合理的な場合です。これは後継者にとって事業に専念する動機づけにもなります。
収益を生む財産の贈与を受ければ、財産から得た収益に関しては、親の所得が減少して相続財産が減ることにより相続税の節税になります。
事実上の効果としては、生前に相続の在り方を決められます。個別に引き継いでほしい財産を生前に渡せるので、自分の死後にトラブルが発生するのではないかと心配する必要がなくなります。
遺言で財産を残しても、子どもの感謝の気持ちはわかりませんが、相続時精算課税制度を利用して贈与すれば、生前に子どもの感謝の気持ちを実感できます。
ただしデメリットもあります。
一度相続時精算課税制度を選択すると、暦年課税制度に戻ることができません。まとまった財産を贈与する際に利用されることが多いため、遺留分の侵害の問題が起きやすくなるという問題点もあります。
「分けられない財産」でモメないためのアドバイスとしては、
何より「現金を用意すること」です。
現金があれば、代償金を支払うなどして、土地を相続することもできます。また相続税の納税資金に困らずにすみます。現金という形ではなく、生命保険を利用して用意することでも問題ありません。
また、親が退職金をはたいてマンションを買う場合もあるでしょう。こうしたときは、売って処分しやすいマンションを買うことをおすすめします。
最近、郊外のマンションが売れないという例をよく耳にします。マンションを購入する際には、売却しやすいかどうかという観点からの立地選びも重要になっています。売却することができるのであれば、相続の際に売却することで現金化し、相続人間でその現金を分けられます。
弁護士の珍プレー3章 「分割しずらい財産」は遺産相続でモメる危険アリ
弁護士のなかには、相続税のことをまったく考慮に入れない人もいます。
税理士が相続税の申告用に作成した財産目録を、遺産分割用の財産目録としてそのまま使おうとする弁護士がいました。
相続税を申告する際の不動産の基準額と、遺産分割で評価される不動産の価格とに差があるということを、実は知らない弁護士もいます。
一般的に、相続税の申告が必要なほど相続財産が大きい事件では、税理士が相続税の申告用に財産目録を作成しています。この相続税用の財産目録では、税理士が作成しているため「相続税評価額」が載っています。相続税の申告に使われる「相続税評価額」と、遺産分割での評価に使われる価格とは異なります。「相続税評価額」のほうが、2割ほど低く設定されているのです。
なぜなら、相続税を納付するために不動産を売り払わなければならないようなことがないように配慮がなされているからです。
遺産分割において、不動産の評価額に関して相続税評価額と同じ数字を使ってしまえば、遺産分割の土地の評価は時価よりも低くなり、従って代償金の金額も低くなってしまいます。
ところが、この事実を了解していない弁護士もいるのです。ですから、冒頭のように相続税の申告用に作成した財産目録を、遺産分割用の財産目録として、そのまま使ってしまうのです。
弁護士は法律の専門家なので相続税を規定する税法にも詳しいのではないかと考える方もいます。しかし、日本では弁護士資格と税理士資格が分かれていますので、弁護士の多くは税法を知りません。遺産分割調停を担当する弁護士のなかにも、相続税について詳しい人は多くはないのが実情です。
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