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2章 親が生きているうちの行動に気をつける[POSTED]:2017-11-17

特別受益のケース2章 親が生きているうちの行動に気をつける

遺産相続でモメるポイントとして、「親が生きているうちの行動」が挙げられます。

43歳で長男、都内に家庭を持ち、母親は亡き父が残した都内の一軒家で一人暮らしをしていたAさんのケース

弟が一人いて、弟もまた首都圏に住み、実家からは離れて家庭をもっていました。
母親が71歳で他界。遺産として貯金と実家の土地建物だけが残されました。
Aさんは相続の際、母親が住んでいた実家に自分が住み、貯金を弟に渡そうとしました。母親は生前、稼ぎの少ない弟のためにと、少なくない金額を弟のマンション購入の際の頭金に出していました。実家の家は近くに住む自分が相続するものだと思い、「家は長男である自分が、貯金は弟が」と思っていたということでした。
ところが、です。弟は、
「マンションの頭金と貯金だけでは、不公平だ。土地建物の値段をきちんと計算して、2等分しよう。もし、実家の家を兄さんがほしいなら、差額を僕に現金で出すべきだ。でないと、兄さんばかりずるいよ。大学だって、兄さんだけ行かせてもらえたのだし」
と主張し始めました。
弟の頭金の金額は、Aさんの記憶では1000万円ほど。母が残した貯金9000万円を足せばかなりの金額になります。母親が住んでいた実家の家を売っても、1億円になるかどうか、あやしいところです。そのうえ、稼ぎが少ない弟のために、何かにつけて母が弟一家を支援していたのをAさんは知っていました。
たしかに、自分だけ大学に行かせてもらえたのはありがたいが、それは成績がよかったからで、親のすすめも多分にありました。今さら、そんなことを言いだされても……と思い、Aさんは、弟に怒りすら覚えたそうです。

このAさんの場合、モメたポイントはどこでしょうか。

「弟のマンションの頭金」の問題であることは明らかです。その金額を、相続に加味して考えたために生じた争いです。
そうこうしているうちに、兄の「大学進学のためのお金」まで弟は主張しだしました。
親が生前に子どもたちにいろいろとお金を渡しているケースは少なくありません。
マイホームの頭金、進学資金、事業を起こす際の資本金、あるいは女性ですと結婚資金など……。親が、子どものために何くれとなくお金をかけてくれることはよくあることです。
しかし、こういった「親が生きているうちにあげたお金」が親の死後に問題になってきます。
Aさんの場合、兄弟で生きているうちにもらったお金の額と種類が違うために、2人の諍いの元になってしまいました。

Aさん→大学の進学資金(約500万円)
Aさんの弟→マンションの頭金(約1000万円)

Aさん兄弟のケースのように、相続人が親の存命中にもらった財産について、ほかの相続人との公平を図るために「特別受益」の制度があります。

不平等を解消する役割の特別受益2章 親が生きているうちの行動に気をつける

「特別受益」とは、遺産相続の際に、よく使われる言葉です。

「親が生きているうちにお金や不動産などの財産の一部または全部を譲ること」を「生前贈与」といいます。生前贈与によってもらった財産も相続財産の一部とみなし、生前贈与された財産と親が亡くなった時にあった財産を調整して、財産を分割することがあります。これを「特別受益の持ち戻し」といいます。
生前贈与された財産が特別受益に該当するかどうかは、「親が生きているうちにもらったお金の金額や目的」によって決まります。
親(被相続人)から結婚の際の持参金をもらったり、あるいは子ども(被相続人にとっては孫)の進学資金やマイホーム購入のための資金を援助してもらったりなど、生計のための贈与を受けた者がある場合は、特別受益に含まれます。なぜなら、それらの贈与をまったく何らの考慮もせずに遺産を分けることは、相続人の間での公平を害することになるからです。
Aさんのケースですと、Aさんの弟のマンションの頭金はこれにあたります。
生きているうちに贈与されたマンションの頭金の価値も含めて、母親の相続財産とみなして、「家+貯金+マンションの頭金」をすべて足した金額をAさんと弟さんとで2等分することになります。

特別受益になるもの、ならないもの2章 親が生きているうちの行動に気をつける

すべての生前贈与が特別受益にあたるかというとそうではありません。

Aさんのケースでは、「Aさんの大学進学費用」が問題となります。
学費に関しては、特に1人だけに高等教育を受けさせる場合は特別受益となるものの、大学進学率が高い現在の状況下では、特別高額の場合を除いて大学の学士程度であれば特別受益に当たらないと考えられています。
また、結納金や結婚式の費用については原則として特別受益にならないと考えられています。とはいえ、相続人中に既婚者と未婚者がいる場合には、特に多額ではない挙式費用も特別受益として考慮すべきであるとした裁判例もあります。
「マイホームの頭金を援助してもらった」「孫の進学資金を出してもらった」「事業を起こす際に、まとまった金額をもらった」「一方は海外の大学院まで行かせてもらったのに、一方は高卒になった」「リストラされている間、毎月生活資金をもらっていた」などのお金が「特別受益」にあたります。
生前贈与のなかで、持参金、新居、道具類、高額の結納、高額の新婚旅行費用などの婚姻のための贈与、高等教育の学費、家、事業を始める際の資金援助など、「生計の資本としての費用」をもらった場合に特別受益に該当することになります。
なお、生前贈与のほかに、遺贈を受けた場合も特別受益に該当します。
遺贈は、遺言によって、お金や不動産などの相続財産を無償で残してあげることです。相手(受遺者)は相続人でなくてもかまいませんし、金額も自由です。遺贈の場合は、その目的にかかわらず全て特別受益にあたります。

生前贈与の証明は難しい2章 親が生きているうちの行動に気をつける

相続人に対する生前贈与は、何年前のものであろうと特別受益の対象になりえます。

そもそも親からの生前贈与があったかどうかという点について争いが起これば、「もらっている、もらっていない」の水掛け論になりがちです。
結婚費用にしても、孫の学費援助にしても、家族間での金銭のやり取りなので、領収書も受取書もない。通帳のやり取りの痕跡もないことがありえます。
お金の貸し借りも同様です。
家を建てるときに頭金を出してもらった。事業を始めるときにお金を借りた。かといって借用書も書いていないし、書いていたとしても返済状況についてはあいまいなままというのが実情です。
このような場合、裁判沙汰になれば、実際には証明の問題になります。証明がなければ生前贈与を加味して分割をすることはできません。
なお、小遣いのように少額で日常の家族間でやり取りされるものは特別受益の対象にはなりません。親と同居していた長男だけが毎月1万円をもらっていたようなケースは、特別受益にあたらないのです。親子間での金銭のやり取りが、1円単位でしっかり精算されることはないということです。
また、特別受益とみなされるのは、あくまでも「生計の維持の基盤」となる財産をもらった場合のみです。生計の維持に無関係のものは除外されます。たとえば、観光のための外国旅行や特定の趣味のための支出は、特別受益に該当しないのです。

親の介護が遺産相続に影響を与えるか2章 親が生きているうちの行動に気をつける

特別受益と同様に、「親が生きているうちの行動」でモメる原因になりやすいものに「寄与分」があります。

特別受益が「親にしてもらったこと」だとしたら、寄与分は「親にしてあげたこと」といえます。寄与分は、親(被相続人)の事業を手伝ったり、財産の維持もしくは増加に特別の貢献をしたりした場合に、認められます。認められると、その分、他の相続人よりも多めに財産を相続できるのです。「親への貢献が多い子どもは、多くの財産を受け取れる」ということです。
しかしこの「親(被相続人)への貢献」ともいえる寄与分ですが、認められるにはかなりハードルが高いのです。

48歳で子ども一人をもつパート勤めの主婦Kさんのケース

子どもはもう大学生ということもあり、パートに出ていました。Kさんには3歳違いの弟が一人います。弟の家庭は、まだ小学生と中学生の二人の子どもの4人家族。
Kさんのご両親は、母親が5年前に亡くなり、父親が一人暮らしをしていましたが3年前に脳こうそくで倒れ、要介護になりました。しばらくは、近くに住む弟の家で父親の介護をしていたのですが、弟の子どもたちはまだ小さく、また、弟の嫁が介護に携わっていたため、半年もたたずして介護をきっかけに弟夫婦の仲が悪くなり、「姉さんの息子はもう手がかからないし、父さんの面倒を見てくれないかな?嫁に出た姉さんに頼るのもどうかと思うけれど、このままだと、うち離婚してしまいそうで……」と相談されました。
弟がかわいそうになり、Kさんとしては「実の父親だし、しかたがない」ということで、介護をすることになりました。それから、3年あまり……。父親は亡くなりました。
ここからが大変でした。
弟は、父の不動産や預貯金も含め、すべて折半という分割案を提案してきたのです。
理由をきくと、「うちも介護をしたし、ここは、折半にしたほうが、きれいに収まるし……」など歯切れが悪く、結局は譲りません。
父親の介護のためにパートを辞め、介護費用も負担してきたKさんとしては、「介護の労働負担を考えてみてよ」と言いましたが、弟は「遺言もないことだし、ここは法律どおり半分ずつというのがいいと思う」というばかり。あげく「実の父親の介護を労働っていうのか?長女なんだから介護して当然だろう」とまで言ってきました。
堪忍袋の緒が切れたKさんとしては、「介護をしたという貢献は、遺産相続で考慮に入れてもらえないのですか?」と言いたいところです。

親にしてあげたことが寄与分と認められるためには2章 親が生きているうちの行動に気をつける

こういったケースの場合、問題になるのは、介護のために払った犠牲の多寡です。

結論から言うと、介護について寄与分が認められることはかなり稀です。介護などで寄与分が認められるためには、「介護に専念した」と言える状況でなければならないところ、実際のケースでは扶養義務の範囲内と認定されるからです。仕事のかたわら通って介護した程度や自宅で同居しながらの家事分担程度では、親族として当然の協力の範囲として考えられてしまうのです。Kさんのケースでも、寄与分が認められるかどうかはかなり難しいといえるでしょう。
また、身内の介護や看護について寄与分が認められるには、介護や看護と被相続人の財産の維持または増加との間に相当因果関係がなければいけません。介護をしたことで、被相続人の財産が減少しなかったと言えなければならないのです。さらに、被相続人である親が自分自身の収入や資産で生活していた場合には、寄与分が認められにくい傾向にあります。寄与分を請求する相続人が、被相続人の生活を金銭的に支えていたという事実が必要となります。

寄与分は、「被相続人に対する貢献度合い」で決まるものと考えてください。その行動が、「寄与分」として認められれば、その分だけ多めに財産を相続できます。
どのようなケースで寄与分が認められるのでしょうか。たとえば、次の3つのケースが挙げられます。

①事業に関する労務の提供や事業に関する財産上の給付をした場合
②病気の被相続人の療養看護をした場合
③その他これらに匹敵するレベルの特別の寄与貢献があった場合

労務の提供として正当な給料をもらわずに仕事を手伝った場合や、看病をした場合など、その他それに匹敵するくらいの特別の寄与貢献があった場合にのみ、寄与分が認められるのです。妻の通常の家事労働や、妻としての夫に対する看病、実の親の介護は、特別の寄与貢献とはいえず寄与分は認められません。
さらにいうと、寄与分が認められるのは相続人だけです。「長男の嫁」など、相続人ではない人には認められません。寄与分は、遺産分割の前提になる事項ですので、原則として遺産分割協議の際に合わせて決定されます。相続人以外の者も含めると、相続人以外の者が遺産分割の話し合いに加わることになり、話し合いが複雑になるため、寄与分は相続人のみに認められています。
もし、長男の嫁に財産を残したい場合、例えば、お姑さんが遺言を残すことで、お世話になったお嫁さんにも財産を残すことができます。相続人ではなくても遺贈という形で財産を受け取ることはできます。

親の事業を手伝っていた場合の寄与分2章 親が生きているうちの行動に気をつける

寄与分が認められるケースについて見てみましょう。

たとえば、①事業に関する労務の提供や事業に関する財産上の給付をした場合で、親の事業を手伝ったケースなどが例として挙げられます。

相続人である長男Sさんは、40年以上も、高校を中退して家業である農業に従事していました。被相続人である父親は、地方公務員として働いていたため、農業にはほとんど関与していませんでした。Sさんには、兄弟姉妹が3人いましたが、1人も農業を手伝っていません。
よって、まったく農業経営に従事していないほかの相続人との間に、被相続人の財産形成に対する寄与の点で大きな差があるとして、Sさんは寄与分を主張しました。
この裁判の判決では、寄与に相当する評価はされるべきと判断されましたが、Sさんは、農業収入から生活費を賄っていた事実があるため、Sさんの主張の4割に当たる寄与分のみが認められました。
寄与は、Sさんのように事業を手伝った結果、被相続人の財産の維持・増加されたと言えることが重要です。週に1、2回手伝った程度では認められません。また、寄与分を主張する相続人が、被相続人の財産で生活していた場合には、たとえ無給で働いていたとしても、寄与分が認められないことがあります。
寄与分については、客観的、画一的な判断は難しく、裁判では、個別の事案の特殊性を考慮した判断がなされます。事業に従事した期間のみならず、報酬の有無や額、生活費の負担者、ほかの相続人とのバランスを考慮して総合的に判断されるのです。

相続は情報戦2章 親が生きているうちの行動に気をつける

特別受益も寄与分も、「親が生きているうちの行動」がキーとなってきます。

つまり、「親が生きているうちにしてもらったこと」や「親が生きているうちにしてあげたこと」が問題のポイントとなります。
ですから、遺産相続は同居人がどうしても有利になります。親が生きているうちに、最も多くの時間を共有してきたことになるからです。
ある意味、「相続は情報戦」です。
相続財産の範囲を確定させなくてはなりませんので、情報をたくさん持っているほうが有利なのです。当然、同居していた相続人が、一番情報を持っている被相続人に近かったわけですから、一番有利になるのです。
同居していなかった子どもが、亡くなる直前に父親と同居を始めて、亡くなるまでの数年間にすべて財産を使い切ってしまったというケースもあります。
同居している相続人が結局得をするのです。
田舎から出てきて東京でひとり暮らしをしているみなさん、親の資産状況についてどこまで把握していますか。
親はどこの金融機関に口座を持っていますか。
生命保険を契約しているかどうかわかりますか。
貸金庫を持っていますか。
まとまった現金はどこかに保管していますか。

同居している相続人はすべて知っています。同居しているのですから、こうした情報を最もよく知ることができる立場にいるからです。
相続が始まって、生前に被相続人と同居していた相続人から財産目録を示されました。
「そもそもこれだけしか遺産がなかったのか」「ほかにも財産はあるのではないか」という疑問がわきます。同居していた相続人が、被相続人の財産を生前に自分のポケットの中に入れてしまっているケースもあります。
事実上の不正をやられてしまった場合、その不正を証明できなければ、法律によって救済することは不可能です。

死亡後も、銀行のお金は動かせる2章 親が生きているうちの行動に気をつける

金融機関の口座は名義人の死亡と同時に自動的に凍結されるというイメージがありますが、事実ではありません。

名義人が亡くなったことを金融機関が把握していなければ、凍結されずに口座の中のお金を動かせます。その結果、名義人死亡後に勝手に口座の中のお金が引き下ろされるというトラブルがよくあります。
親と同居していた長男が、同居していなかった次男に対して、相続財産はとにかくこれだけしかなかったと主張して一方的に財産目録を突きつけたというトラブルがありました。次男としては、口座残高の数字が腑に落ちません。親の生前に確認した際には、もう少し多かったと記憶しているため、次男は長男に対して不信感を抱き始めました。金融機関に取引履歴を照会し口座の動きを調べてみると、財産目録に記載のある金額と実際の口座残高が違っていたり、相続開始後に引き下ろされていたりするケースもあります。
相続開始後に相手方が相続財産を開示しないために、相続財産がいくらなのかわからず、全く遺産分割が進まないというケースもあります。被相続人名義の口座の残高及び相続開始前数年間の取引履歴を調査したところ、この照会で初めて金融機関が相続の開始を知ったというケースも珍しくはありません。
つまり、相続開始後数カ月も経っているにも拘らず、被相続人の口座は凍結されていない状態で、キャッシュカードと暗証番号を把握していさえすれば、自由に預金を引き下ろすことができる状態なのです。相続開始後から数十万円単位で何度も引き出しが行われ、最終的に残額が数百円、もしくはまったくの0円となっている口座もよくあります。
口座の内容を調べなければ、相続開始後に預金が引き下ろされていたことも分からないままなのです。

生命保険、ネット証券、現金2章 親が生きているうちの行動に気をつける

生命保険はどうでしょう。

契約者から契約状況について聞いていなければ、生命保険に加入していた事実は受取人にしかわかりません。生命保険は特殊な扱いをされていて、相続財産ではなく、受取人の固有の財産とされます。そのため、多額の保険金を受け取ったところで、遺産分割協議には直接は影響しません。
しかし、遺産相続に関する話し合いを有利に進めていくためには、「親が生きているうちの行動」である生命保険契約についても把握しておくことが重要です。

生命保険金を特定の相続人が受け取ったことを知らないと、生命保険金の分だけ余計にもらっているのだから譲歩してくれと交渉する余地があるかどうかさえ分からないままということになります。また、生命保険金をてにしつつ不動産を相続した相続人が、現金がないので代償金が払えないと言ってきた場合に、手にした生命保険金から代償金を支払うよう有効な交渉ができません。
一緒に暮らしている子どもであれば、生命保険に加入しているという事実を知っているかもしれませんし、そもそも受取人になっている場合が多いです。
貸金庫に至っては、その存在や中身の出し入れ自体が、同居していなければわからないでしょう。
貸金庫を契約していた場合、例えば、利用手数料が通帳から引き落とされていることがありますので、通帳をチェックすることで貸金庫の存否が判明することもあります。しかし貸金庫の中身の出し入れについては、情報を持っていない相続人は裏を取ることができません。

株式も、ネット証券隆盛の時代。

亡くなったことを金融機関が把握できなければ、相続開始後も証券口座を操作することができます。亡くなった後に売買をし、それを登録金融機関の口座に移行し、換金する。十分に実現可能な方法です。

現金はどうでしょう。

現金を金融機関に預けずにタンス預金として保管している家庭もあります。被相続人が亡くなったあとに家の中から現金が見つかったら場合、共同相続人である兄弟に報告して分け合う正直な方はどれほどいるのでしょうか。

同居人に有利な遺言書がみつかった!2章 親が生きているうちの行動に気をつける

「親が生きているうちの行動」のなかで、気をつけたいことは他にもあります。

同居していた相続人に有利な内容の遺言が見つかることがよくあります。
なぜこうしたケースが多いのか、いろいろと考えられる理由はありますが、1つには、そもそも同居をしているということは相続人との仲が円満であるからということが考えられます。当然、兄弟のうち、最後まで面倒を見てくれた長男に多くの財産を残してやろうと思うのは人情です。
遺言を作成するときには、長男に多くの財産が渡るように調整をすることもあります。
また、土地のように分けにくい財産の場合は、財産が分割されないように、1人の相続人に集中して相続させるということも行われます。
遺留分を侵害しない範囲で、ときには遺留分を侵害してでも、特定の財産を特定の相続人に集中させて相続させる結果、兄弟間に不公平が生じるパターンです。
これらの遺言が、遺言者の自由意思による真意に基づくものであれば問題はありません。問題なのは、無理やり、あるいは無理やりに近い形で、遺言者の真意を無視して作成される遺言です。

特定の相続人に有利な遺言が残されていて、自分の取り分に不満がある場合、泣き寝入りするしかないのでしょうか。
答えは、「ノー」です。たとえ遺言に「○○には、財産をひとつも残さない」と記載されていたとしても、「遺留分」については取得することができます。
「遺留分」とは、被相続人が遺言によっても自由に処分できない財産の割合をいい、被相続人が相続人に対して最低限残さなくてはいけない遺産の部分です。
被相続人が遺言により全財産をまったく自由に処分できるとすると、相続人の間に著しい不公平が生じたり、一部の相続人が経済的な基盤を失ったりします。この弊害を防ぐために「遺留分」の制度があるのです。
遺留分の割合は法定相続分に一定割合をかけたものです。

遺留分の割合
相続人の範囲遺留分の割合
配偶者と子供の場合1/2(配偶者1/4、子供1/4)
配偶者と直系尊属の場合1/2(配偶者1/3、直系尊属1/6)
配偶者と兄弟姉妹の場合1/2(配偶者1/2、兄弟姉妹 なし)
配偶者のみの場合1/2
子供のみの場合1/2
直系尊属(父母、祖父母)のみの場合1/3
兄弟姉妹のみの場合遺留分なし

生命保険は「特別受益」になる?2章 親が生きているうちの行動に気をつける

生命保険金は、遺産相続の対象ではありません。

生命保険を受け取る権利のある人、すなわち受取人に権利があります。ですから、受取人として長男が指定されていた場合は、長男一人に権利があるのです。
生命保険は、保険会社と契約をする契約者がいて、被保険者の死亡を条件として生命保険金を受け取ることになる受取人がいます。被保険者が死亡した場合、保険金請求権は相続財産にはならず、受取人として指定された者の固有の権利とされます。そうすると、生命保険金については、相続財産に特有の問題点である特別受益について検討する必要がないことになります。
にもかかわらず、生命保険金が特別受益に当たるかどうかが問題となるケースもあります。
最高裁の判例によると、原則として生命保険金は、特別受益の持ち戻しの対象にはなりません。例外的に、共同相続人間に生じる不公平が到底容認することができないほどに著しいものであるときは、特別受益の持ち戻しの対象になるとしています。
この判断に当たっては、保険金の額、遺産総額に占める割合や同居を.しているかどうか、被相続人の介護をしていたかどうかなど、さまざまな事情が総合的に考慮されます。
ただし、生命保険金を受領した事実は、基本的には保険会社から受取人以外には通知されません。あくまでも保険金の受取人が、保険会社に対して被保険者の死亡の事実を知らせて保険金を請求することになっています。
したがって受取人が、特別受益の持ち戻しになることを恐れて、秘密にしておくこともできるわけです。もちろん、生命保険金は相続財産ではない以上、遺留分減殺の対象にもなりません。
なお相続財産としてみなされない生命保険金ですが、一定の金額までは非課税となるものの、相続税の課税の対象にはなります。被相続人の死亡によって得られる財産という点を評価して、税法上は相続財産とみなされるからです。

死亡退職金について2章 親が生きているうちの行動に気をつける

死亡退職金についても、「特別受益」の問題になるケースがあります。

死亡退職金も相続財産と同じく、相続をきっかけに移動する財産でありながら、相続財産ではありません。
死亡退職金には支給規定があり、たとえば国家公務員の場合は国家公務員等退職手当法によって、地方公務員は条例によって、会社員の場合は就業規則などによって、それぞれ支給方法が定められています。
これらの規定では死亡退職金は通常、遺族の生活保障の観点から民法の相続の規定とは異なり、受給権者の順序が配偶者(内縁も含む)、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹となっていることが多いようです。法令などの支給規定により受給権者が明確に定められている場合は、遺族は相続人としてではなく、受給権者固有の権利として死亡退職金を取得するとされています。死亡退職金支給規程などにおける支給対象の「遺族」については、内縁の妻など婚姻の届け出をしていないものの事実上、婚姻関係がある場合と同様の事情にある者も含まれるとされた事例があります。

このように、死亡退職金は生命保険金と同様、特定の者に帰属させる性質のものですので、相続の対象にはなりません。
死亡退職金が特別受益に当たるかは、事例により判断が分かれています。
また、生命保険金と同様、被相続人の死亡によって、遺族が死亡退職金をもらうことになると考えれば、相続財産と何ら変わりませんので、税法上は、死亡退職金にも相続税がかかります。

「親が生きているうちの行動」のなかで、「親にもらったもの」である「特別受益」、「親にしてあげたこと」である「寄与分」、そして、親が生きているうちに書く「遺言」については、注意が必要であるといえるでしょう。
ただし、「親が生きているうちの行動」については、証拠がない場合が多いものです。また、感情が絡む場面も多く、「親の思い」が「親から子への財産の移動」に大きく影響を与えます。
モメないためには、親が自らの意思に基づいて遺言を書くことが一番ですが、それが難しい場合は、「証拠をとっておくこと」、また「親を思う気持ちを行動にしておくこと」などが望ましいといえるでしょう。

弁護士の珍プレー2章 親が生きているうちの行動に気をつける

落としどころが通じない弁護士も中にはいます。弁護士が杓子定規に考えすぎるためにモメる原因をつくってしまうことがあるのです。
兄弟2人が親の遺産相続をめぐって調停になっていたケースです。葬儀費用を立て替えていた兄が清算を求めようとしました。しかしながら、弟側の弁護士は、「遺産分割調停で話すことではないので別途訴訟を起こしてくれ」との書面を書いてきました。
葬儀費用は、通常、遺産相続の問題には関わりがないとされています。香典や弔慰金などを受け取った場合、葬儀費用は、一般的に葬儀を行う喪主が負担するものです。ですから、葬儀費用は法律上、民事訴訟で解決するということになります。
したがって、この弟側の弁護士が言っていることは法律上間違ってはいません。
しかし、本当に兄の側が別訴を提起した場合、ますます調停がまとまりにくくなってしまいます。遺産分割調停のほかに、民事訴訟を抱えることになるのですから。
この場合、弟側の弁護士としては、法律とおりに話を進めようとするのではなく、まずは依頼者である弟に兄の言い分を伝えてみるという対応をしてもよかったのではないかと考えます。一方兄側の弁護士としては、依頼者である兄に対して、合理的な説得をすることも必要です。「葬儀費用は、香典で相殺できるので、細かく請求しないほうがよいでしょう」と、兄にアドバイスすることも一策です。
結局、弁護士側が、杓子定規に考えすぎるため、「モメる相続」となることもあるようです。
遺産分割調停では、ある程度、常識的な範囲内での妥協も必要といえるでしょう。

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    ※来所困難な方に限り、1時間30,000円(税別)にて電話相談に応じます。
    電話:初回15分
    メール:初回1往復
    土日夜間:初回15分
    無 料
    対立当事者に弁護士が就いた事件
    調停・裁判中、調停・裁判目前の事件
    弁護士を替えることを検討中の事件
    その他、紛争性がある事件
    (潜在的なものも含めて)
    非対応
    税務に関する法律相談1時間:
    50,000円~(税別)
    国際法務・国際税務に関する法律相談1時間:
    100,000円~(税別)
    来所予約・お問い合わせ
    03-5532-1112 9:00~18:00 土日祝日除く※お電話又は予約フォームにて法律相談のご予約をお取り下さい。
    ※小さなお子様の同伴はご遠慮ください。
    商標登録を行いました「磯野家の相続」