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相続手続きについて[POSTED]:2017-10-24
財産の種類ごとにみる相続手続き相続手続きについて
以下に詳述しますが、最初に相続財産として財産目録に載せておきたいもの、相続財産の評価方法、必要書類について表でまとめました。
財産目録は毎年更新すると、最新の情報が把握できます。確定申告に合わせて年度末時点での財産を一覧にすると便利です。財産目録に載せるものは不動産、車、預金、保険や書画骨董および宝飾品などの動産などです。被相続人のものであると信じていたものが実は他人のものであったということを避けるためにも、この作業は重要です。保険については、被保険者と保険料の負担者、保険の受取人を確認します。借金や保証人になっている場合もリストアップします。
相続財産(遺産)になるもの (財産目録に載せておきたい)
相続財産の種類 | 財産目録に載せる内容など | 揃えておく書類等 |
---|---|---|
土地および建物 | ・所在、地積、建物面積、用途(居住用など)、現状(更地、駐車場など)の他、物権を特定できる資料 ― 賃貸物件は賃借人の住所、氏名や賃料など賃貸条件 ・未登記の物件は、取得の経緯や未登記の理由など ・借地、借家の場合は、地主や家主の氏名、賃料など | ・登記簿謄本(または登記事項証明書) ・公図 ・固定資産税評価証明書など物件価格がわかるもの ・賃貸借契約書 |
農地・産地など その他の土地 | ・所在、地積など ― 賃貸物件は賃借人の住所、氏名や賃料など賃貸条件 | ・登記簿謄本(または登記事項証明書) ・公図 ・賃貸借契約書 |
預貯金 債券 | ・金融機関ごとに、定期性預金と普通預金など流動性のものとに分け、それぞれの口座ごとに残高を記載する(定期預金は満期日や借入条件も書いておくといい) ・債券類は保護預りのものと無記名のもの(証券現物を所持)に分け、詳細を記載しておく | ・預貯金の通帳類 ・使用する銀行印 ・無記名債券の現物 |
株式 | ・銘柄、株数など ― 売却に制限のある株式については、その旨も記載しておく | ・株券または預り証 |
自動車 | ・車種、年式、ナンバーなどを記載 | ・車検証 ・自動車保険の証券 |
会員権 (ゴルフ・ジム・レジャー施設など) | ・相続が可能なもの(規約上相続が認められているもの)のリスト ― 施設名、連絡先の他、購入価格や年会費など、分かる範囲で記入する | ・会員権の証書 ・購入時の領収書など |
動産 (書画・骨董・宝石類など) | ・高額なものは1点ずつ記載しておく | ・保管証など |
生命保険 | ・保険会社ごと、保険ごとに、受取人、金額を記載 | ・保険証券など |
・特許権 ・実用新案権 ・意匠権 ・商標権 ・著作権 | ・できるだけ細かく記載すること(相続による移転登録をしないと相続人の権利が発生にしない権利もあるので必ず記載のこと) ― 権利ごとに存続期間があることに注意 | ・登録許可証など |
貸金債権 売掛債権 労働債権など | ・金額、利息、満期があるものは満期などを記載しておくこと ― できれば1件ごとに記載しておくとよい ※主な時効期間は次の通り ・個人貸金10年 ・自動車の修理代金3年 ・小売の売掛商品2年 ・飲食代・運送費 1年 ・給料 2年 | ・借用書 ・売掛帳 ・給与明細など |
裁判上の損害賠償請求権 | ・原告でも被告でも、民事裁判で係争中のものは記載のこと ― 債務不履行の請求権は10年、示談金や事故の後遺症、不法行為によるものは3年で時効になることに注意 | ・訴状の控など |
借入金などの債務 | ・金額や利息、支払日など個々の取引ごとに詳しく記載しておくこと(例えば住宅ローンのほか、消費者金融会社、カード会社からの借入金も) | ・金銭消費貸借契約書の控など |
主要な相続財産と評価
財産の種類 | 評価の方法 |
---|---|
宅地 | 利用単位となっている一区画の宅地ごとに次の種類に応じて評価する。 ①市街地の宅地―路線価に面積をかけて評価(路線価方) ②路線価のない宅地―固定資産税評価額に倍率をかけて評価(倍率方式) ただし、農地や山林で、宅地に転用される可能性が高い場合は、宅地見込地として評価する。 |
農地・山林 | 耕作単位となっている一枚の農地ごとに次の種類に応じて評価する。 ①純農地(山林)・中間農地(山林)・・・倍率方式で評価 ②市街地農地(山林)・・・その農地(山林)が宅地であるとした場合の価格から造成費として定められた金額を控除した金額で評価 ③市街地周辺農地(山林)・・・市街地農地の8割に相当する金額で評価 ④生産農地・・・上記により評価した価額から、買い取り申し出ができる日までの残存期間により10%~35%控除 |
家屋 | 一棟の家屋ごとの固定資産税評価額 |
借地権 | 自用の土地の評価額に借地権割合をかけて評価(借地権割合は3割~9割の7段階で、税務署に備付けの路線価図でわかる。) |
借家権 | 自用の土地の評価額に借地権割合、借家権割合をかけて評価する(借家権割合は税務署の窓口でわかる。) |
上場株式 | 被相続人が死亡した日の終値か、相続開始の月、その前月、その前前月の3カ月の平均株価のうち1番安い値で評価。 |
非上場株式 | その株式の発行会社を大、中、小に区分して評価する ①大会社は、類似業種比準価額方式 ②中会社は、類似業種比準価額方式と純資産価額方式の併用 ③小会社は、純資産価額方式 |
公社債 | ①割引発行のもの・・・発行価額と相続開始日までの経過利子の合計額 ②利付きのもの・・・発行価額と、前回の利子支払日の翌日から相続開始日までの経過利子の合計額 |
預貯金 | 相続開始日現在の預貯金残高と、その日までの経過利子との合計額 |
貸付金 未収入金 | 原本と相続開始日までの経過利子との合計額(回収不能額があるときは、その金額は元金に含めない) |
受取手形 | ①支払期限が到来しているもの、および課税時期から6カ月以内に期日の到来するものは券面額による。 ②上記外のものは、課税時期に銀行などで割引した割合に回収できる額 |
その他 | ①家具・什器・・・原則として評価するものと同種、同規格、同程度に証も牛や物を買う場合の評価(調達価格) ②書画・骨董・・・売買実例価額、精通者意見価額を参考にして評価(販売業者が有する者は、棚卸し商品評価) ③自動車・・・中古価格 ④電話加入権・・・譲渡した場合の価額 ⑤退職金・・・支給額(非課税限度あり) ⑥生命保険・・・支払われた保険金額(非課税限度あり) |
1 不動産相続手続きについて
相続財産の中で不動産は大きな割合を占めることが多いようです。不動産は共同相続人間で分けることが難しく、分割で価値が下がることもあるので、相続争いの中心課題になることも多いようです。特に不動産しか相続財産がない場合に、数人の相続人のうちの1人が遺言で不動産を相続することになると、他の相続人の相続分がなくなります。他の相続人に相続放棄してもらうことにする場合、不動産を相続する相続人以外の相続人の相続放棄申述受理証明書が必要です。相続人全員で同意し特定の相続人1人に相続させる遺産分割協議を成立させる場合、印鑑証明を添付した相続分の存しない旨の証明書、もしくは遺産分割協議書が必要です。
この相続分の存しない旨の証明書は、不動産などを相続人の中の1人の単独名義にする便法として用いられ、「相続分皆無証明書」といわれます。生計の資本や学資金などの財産贈与を受けた原因を記載したうえで実印を押し、「被相続人から生前に特別受益を得ているので、相続分はありません。」という趣旨の内容を書く証明書で、民法903条に規定する特別受益者の相続分について作成される証明書です。相続放棄は家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出する手続きが必要で、遺産分割協議は相続人全員が署名押印し印鑑証明を添付する必要があります。この相続分皆無(不存在)証明書があればこれらの手続を省くことができます。これらの書類をもって管轄法務局で相続による所有権移転登記をすることになります。
不動産の相続で金銭により遺産分割をしたい場合は現物分割、換価分割、代償分割の3つの方法があります。現物分割は、個々の遺産を特定の相続人が直接取得するもので、通常行われている一般的な分割方法といえます。換価分割は遺産を直接分割の対象とするのではなく、未分割の状態(共有)で遺産を売却処分してその売却代金を共同相続人間で分割処分するというものです。代償分割はある相続人が特定の遺産を取得し、その代わりにその者がほかの相続人に対して金銭その他の財産(代償金)を支払う債務を負うという分割方法です。主たる遺産が不動産で、それを現物分割するのが困難である場合にとられる方法です。
代償分割で最も問題になるのが相続税の課税です。代償分割の相続税の課税価格の計算は、現物の相続税評価額から交付した代償金を控除した金額を基にして相続税を計算します。他方、代償金の支払いを受けた相続人は、代償金額そのものが課税価格になります。このことによって、相続税評価額と時価との間に差が生じている場合は相続税の計算が相続税評価額によっているために、共同相続人間で相続税額の不公平が生じることがあります。この不都合を回避するために、代償分割の対象となった財産が特定され、代償金がその財産の分割時の通常の取引価格(時価)をもとにして決定されている場合は、それを相続税評価額に引きなおして計算することが認められています。
権利証
不動産に関しては、遺産分割の後に他人に売却するにあたって、権利証が必要となります。ところが不動産の権利証が見つからない場合も多くトラブルになることもあるので、ここで権利証について説明します。
そもそも不動産の「権利証」とは、その不動産の所有者であることを証明するものです。しかし不動産を所有している人でさえ、権利証を目にする機会は少ないのではないでしょうか。不動産の登記をする際に登記申請書の写し(副本)を法務局に提出し、登記完了時に、登記所で「登記済」の判を押した「登記済証」ものが交付されます。この登記済証が権利証です。法律の規定では、登記原因証書(売買契約書、売渡証書等)または申請書副本を添付書類として提出して、そのどちらか提出したものが還付されて登記済証(権利証)となるのですが、首都圏の場合は、実際には申請書副本による場合が大半です。
権利証を紛失してしまった場合ですが、権利証をなくしてしまっても所有権がなくなるわけではありません。権利証は不動産の所有者であることを証明する手段の1つです。その土地の所有者であることは登記所の登記簿に記載されていますので、登記所で権利者であることを証明できます。ですから、権利証がなくなっても当然に所有権まで失うわけではありません。しかし相続や譲渡、売買で所有権移転などの登記をする際には、権利証(登記済証)が必要となります。権利証は紛失または焼失しても再発行はできません。以前は、権利証を紛失してしまった場合の救済手段として、「保証書」という制度がありました。現在は不動産登記制度が変わり、権利証の代わりとして保証書を作成することはできなくなり、次のうちどちらかの手順を踏むことで、権利証を添付したのと同じ効果を得ることがきるようになりました。
(1)事前通知制度
権利証を添付できない場合に登記を完了させる前に売主などの本人確認を行う制度です。登記申請の際に権利証を添付できない理由を登記申請書に記載すれば、法務局(登記所)から登記する前に売主に対して「本人限定受取郵便」により登記申請があった事実と申請内容が事実であれば、2週間以内にその旨を申し出るよう通知(「これを「事前通知書」といいます。)が送られてきます。通知を受けた売主は2週間以内に登記申請書の印(実印)と同じ印を通知書に押印し、必要事項を記載して法務局(登記所)に提出すれば、法務局は間違いなく不動産所有者に処分の意思があることを事前に確認できますので、権利証がなくとも登記は可能になります。
(2)資格者代理人による本人確認情報の提供制度
登記申請の代理人になれる資格者(弁護士、司法書士、土地家屋調査士など)によって登記の申請がなされ、その資格者代理人が売主を運転免許証などにより本人として確認した旨を明らかにした情報を法務局(登記所)に提供する制度です。本人確認情報が適正であれば、事前通知を省略して登記が実行されます。
権利証は平成16年6月の不動産登記法の改正によって廃止されています。オンライン指定庁に指定された登記所ではインターネットによる登記申請になり、書面(紙)の申請書を使用しないために、申請書の副本に登記済判をもらうことで成立していた権利証がなくなることになったのです。権利証の代わりに「登記識別情報」というものが交付されます。登記識別情報とは、登記所が無作為に選んだ「12桁の英数字」から構成され、今までは、権利証、印鑑証明書、実印の3点セットがそろうと所有権に関する登記申請ができましたが、今後はこの「登記識別情報」が3点セットの代わりとなります。この番号を知っていることが不動産の権利者としての判断材料の1つとなりますので、その情報をしっかりと管理しておかないと、悪用される可能性が高くなります。知らないうちに不動産の名義が変わっていたという事態になりかねませんのでご注意ください。
「登記識別情報」を紛失した場合は権利証と同様に再発行はできませんので、先に説明した(1)事前通知による申請手続、か(2)資格者代理人により本人確認情報の提供制度を利用することになります。
なおオンライン指定がされていない登記所では従来どおりの申請となりますし、現在お持ちの権利証は現在も有効で、今後の登記申請の際に必要となりますのでこれまでとおり大事に保管して下さい。
2 借地権・借家権相続手続きについて
借地権、借家権は財産上の権利として相続の対象になります。借地上の建物や借家に住んでいる相続人は借地権や借家権の名義人が亡くなった場合でも、借地契約・借家契約をそのまま相続します。被相続人と同居していなかった相続人も、借地権や借家権を相続できます。手続きは、地主や家主に契約書の名義変更を依頼することです。相続人の戸籍謄本や被相続人の除籍謄本を要求されることもあります。名義書換料は法律上、支払い義務がありません。
借地権や借家権に関しては、内縁の妻が問題になることがあります。特に高齢者の内縁の妻は、やはり高齢者である場合も多く、高齢者が新たにアパートを借りる難しさもあるので、内縁の妻が借地権や借家権を相続できるかは大きな問題のようです。内縁の妻は相続人にはならないのですが、居住用の借家権に関しては、相続人がいない場合に内縁の妻でも借地借家法の規定によって借家権を承継することはできます。相続人がいて借家権を主張してきた場合には、相続人がいない場合の借地借家法の規定は適用されませんので、話し合いになります。裁判になったケースでは、特に被相続人と同居していなかった相続人が居住を主張しているケースなどにおいて、内縁の妻の居住権を認める場合も少なくないようです。借地権に関しては借家権のように内縁の妻に居住権を認める特別の規定がないので、借地上の建物を生前贈与や遺贈によって内縁の妻名義にし、借地権を相続するのと同じ効果を期待することができます。地主に対しては、念のために名義変更料を払って名義変更を承諾してもらうと万全です。
居住していない相続人が居住している相続人に明け渡しを求めてきた場合に居住相続人を保護する法律構成としては、非居住相続人が賃借権を放棄しているとみなすもの、明け渡しを求める相続人に対し明け渡し理由の立証を必要とするもの、被相続人が同居の相続人に対して認めていた占有許諾の義務を非居住相続人が承継するとするものなどがあります。
3 農地相続手続きについて
財産の大半が農地の場合、農業を継ぐ相続人が単独で農地を相続することがあります。農地の相続は複雑です。民法上では相続人である子は平等の相続分がありますが、農地法では農地を所有するのは耕作者であるという大原則があります。仮に相続人が等分に相続したとしても、農業経営をしない相続人が農地を売却するには知事の許可が必要なのです。農地法は耕作者が自ら農地を所有する自作農主義を採用し、農地の権利を移転する場合は一般的に、農業委員会(または都道府県知事)の許可が必要です。もっとも遺産分割により農地を取得する場合はこの許可は必要ありません。農地法が遺産分割を例外として扱っている理由は第1に、1人の相続人による単独相続の場合は、被相続人との間に権利移転行為がなく被相続人から相続人に包括的に権利移転が生じるので、権利移転について農業委員会の許可をとる必要がないからです。第2に2人以上の相続人がいる場合は遺産分割協議前に相続分に応じた持分を共有し、遺産分割協議により権利移転が生じるので、この権利移転について農業委員会の許可が必要とも思えるのですが、遺産分割も相続による包括的承継の一環で、各相続人が承継する財産を具体的に確定する手続きにすぎず、遺産分割の効果も被相続人の死亡時にさかのぼって直接被相続人から権利を承継するとして扱われると考えられているからです。
もっとも、遺産分割により取得した後の農地については農地法が適用されます。従ってこの農地を第三者に売却する場合や宅地に変更する場合には、農地法の権利の処分に関する許可や農地転用の許可が必要です。
農地のほかに遺産がない場合は、農業を継ぐ相続人がほかの相続人から相続分を買い取らなければなりません。遺産分割協議で農業を継ぐ相続人に農地をすべて相続させる話し合いがまとまれば一番いいのですが、共同相続人中の1人が農業従事者でその他の相続人が被従事者である場合は上記の農地法の規制により、農業経営の零細化を防止するために、農地は農業従事者に承継させるべきです。農業従事者に農地を単独相続させる方法としては、農地を農業従事者に単独取得させ、農地以外を被従事者に相続させることとして、多くの遺産を相続した農業従事者にほかの相続人に対して代償金を支払う債務を負担させて公平を図ることが考えられます。しかし必ずしも遺産分割協議で相続人間の話し合いがまとまるとは限りません。
被相続人の生前の対策としては、農地はすべて農業を継ぐ相続人に相続させるという遺言書を作成するか、または、農業を継ぐ相続人に農地をすべて生前贈与する方法が考えられます。相続開始後に遺留分減殺請求を受ける可能性もあるので、家庭裁判所の許可を得て遺留分の放棄をさせることも検討できます。生前贈与は相続税よりも高率の贈与税がかかってしまいますが、農地の相続の場合は一定の条件で贈与税の猶予を認める特例措置を受けられる可能性があります。
4 各種事業相続手続きについて
株式会社や有限会社の場合は、株式会社の場合は株式の相続、有限会社の場合は出資の持分の相続になります。会社の相続の場合は株式の名義を書き換えるだけで、会社所有の不動産などの名義をいちいち個別に書き替える必要はないので、会社組織であれば相続を簡便に行うことができ、事業の断絶が起こりにくくなります。個人企業の相続は一般の相続と同じで、特許権や実用新案権、意匠権、商標権、電話加入権、不動産、借地権・借家権、自動車、機械設備、動産、債権、債務など相続財産ごとに個別の手続きが必要です。商売上ののれんが相続財産になることがあります。
家業を営んでいる場合、事業用資産は細分化することで経営が難しくなるので、不動産などを相続人の中の1人の単独名義にする便法として「相続分皆無証明書」があります。そこで相続放棄と遺産分割協議書を利用し、家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出したり、相続人全員が署名押印した印鑑証明を添付して遺産分割協議書を作成したりします。ところがこれらの手続が煩雑であるということであれば、相続分皆無(不存在)証明書を利用する方法があります。生計の資本や学資金などの財産贈与を受けた原因を記載したうえで実印を押して「被相続人から生前に特別受益を得ているので、相続分はありません。」という趣旨の内容を書く証明書で、民法903条に規定する特別受益者の相続分について作成されます。
5 預貯金
相続人は預貯金の名義変更の手続をして承継できます。相続による預貯金の名義変更や払い戻しの請求をすると、遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明と住民票、戸籍謄本、除籍謄本などの必要書類を要求されることがあります。遺産分割協議未了の間に銀行預金の払い戻しを受ける場合、遺言書によらずに単独で自分の持分について払い戻しを受けようとすると、銀行実務の取り扱いでは通常、払い戻しに応じずに相続人全員の依頼書などを要求されます。債権の分割帰属を主張しても、分割協議を経て他の相続人の実印つきの同意書の添付を求められます。実際の払い戻し手続きは、被相続人が死亡して相続が開始した事実と請求者が相続人であること、被相続人の身分関係を証明する戸籍謄本、請求者本人であることを証明する住民票や実印、印鑑証明書などが必要です。これは銀行が後日の相続人間の争いに巻き込まれないようにするのが目的のようです。
もっとも法的には、預金債権は一般の金銭債権と同様に過分債権であり、遺産分割協議が成立していなくても相続の開始により各相続人の相続分に応じて当然に分割承継されるので、相続人個々の法定相続分だけの払戻請求には、銀行が応じる義務があります。これに関しては訴訟を提起することで解決する方法もあります。被相続人の死亡は金融機関が必ずしも覚知しているわけではなく、死亡と同時に金融機関が自動的に口座を凍結するわけではないので、通帳と印鑑またはカードを持ってきた人に対して支払うリスクはあります。これを予防するためには金融機関に対し、遺産分割協議が未了である旨を通知して支払いの差し止めをお願いする方法があります。裁判所に相続財産の保全処分を申し立てることもできます。
6 借金
被相続人が銀行の債務を負っていたり、連帯保証人になっていたりして、債務が過大であるときは相続人として相続放棄ができます。相続人の1人が相続放棄すると、残りの相続人がその分を負担します。相続放棄をしない場合には、法定相続分に沿った債務を負います。相続人間で法定相続分と異なった負担割合を決めることはできますが、債権者が承諾しない限り債権者には対抗できません。
保証人が死亡した場合、その相続人は保証債務を相続するかどうかについては、まず通常の保証債務は相続されます。身元保証や責任限度額や保証期間を定めずに連帯保証人になっていた場合などの包括的信用保証債務を負っていた場合などは、被相続人の一身専属的なもので相続されません。継続的取引などによる債務の連帯保証の場合は、被相続人の死亡後に生じた債務について相続人は保証債務を相続しませんが、被相続人の生前に生じた債務についてはすでに確定している債務として相続人は弁済する義務を負います。
7 生命保険金
保険金請求権は相続財産ではなく、受取人として指定された者の固有の権利です。保険金受取人として請求権発生当時の相続人を指定した場合には、保健金請求権は保険契約の効力発生と同時に指定された相続人の固有財産となり、被保険者の遺産より離脱しているからです。生命保険金の受取人が「法定相続人」などと指定されている場合には、保険金請求権発生当時の相続人たる個人が、法定相続分に従って保険金請求権を原始的に取得することになります。
保険金請求権は相続財産ではないので、相続放棄をしていても受け取ることができますし、保険金を受け取ったとしても相続放棄ができます。
生命保険金が特別受益として持ち戻しの対象になりうるかは問題になります。実質的に考えれば、被相続人がその財産の中から保険料を給付している対価であるから、持ち戻しの対象になると考えることもできそうです。しかし最高裁判例は、原則として持ち戻しの対象にはならないとしています。例外的に、共同相続人間に生じる不公平が到底容認することができないほどに著しいものであるときは、特別受益の規定の類推適用によって持ち戻しの対象になるとしています。この判断に当たっては、保険金の額、遺産総額に占める割合、同居の有無、被相続人の介護などに対する貢献の度合などの保険金受取人である相続人及びほかの共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態などの諸般の事情が総合考慮されます。
8 死亡退職金
死亡退職金は支給規定があり、たとえば国家公務員の場合は国家公務員等退職手当法によって、地方公務員は条例によって、会社員の場合は就業規則などによって定められています。
これらの規定では通常、遺族の生活保障の観点から民法の相続の規定とは異なり、受給権者の順序が配偶者(内縁も含む)、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹となっていることが多いようです。法令などの支給規定により受給権者が明確に定められている場合は、遺族は相続人としてではなく、受給権者固有の権利として死亡退職金を取得するとされています。つまり、このような支給規定がある場合の死亡退職金は相続財産ではないとされています。このように死亡退職金は特定の者に帰属させる性質のものであるので、相続の対象にはなりません。実質的な理由としては、遺族の生活保障を目的として受給権者の定め方をしていることがあるようです。死亡退職金支給規程等における支給対象の「遺族」について、内縁の妻などの届け出をしていないものの事実上個人関係と同様の事情にある者も含まれるとされた事例があります。死亡退職金が特別受益に当たるかは事例により判断が分かれています。
9 ゴルフ会員権
ゴルフ会員権の相続の可否は種類によって異なります。
会則の中に「会員が死亡したときはその資格を失う」旨の規定があるゴルフクラブの会員権は、相続の対象にはなりません。ゴルフクラブの会員権がもともと、会員相互の人的信頼を基礎とする親睦団体であることが理由です。
他方で、相続に関する規定は存在しないものの会員の地位の譲渡に関する規定が定められている会員権に関しては、相続が地位の譲渡に準ずる手続きを踏むことで相続することができます。この場合、理事会の承認などの名義書換手続きや名義変更ができない期間など、注意すべき点があります。
10 財産分与請求権
離婚の最中に配偶者が亡くなった場合には、財産分与請求権の相続の問題が起こります。離婚した母が死亡した場合、相続人は財産分与請求ができるかどうかですが、財産分与は、離婚が成立した後に相続権を失う反面として夫婦が共同で形成した財産の清算を目的として、離婚後2年間について請求することが認められる権利です。離婚後に請求をしないまま死亡した場合や、財産分与請求を請求している間に離婚に至る前に死亡した場合は、相続の対象にはなりません。
離婚後に財産分与をめぐって交渉中の元夫婦の一方が死亡し、財産分与請求権が具体的な権利として確定していない場合は、相続人が財産分与請求権を相続すると考えられています。財産分与請求権は清算のほかに扶養や慰謝料としての意味合いがあるのですが、この点は特に区別されていない以上、全体として相続されます。もっとも財産分与請求権は離婚後2年以内に行使する必要があるので、注意が必要です。
11 公営住宅の使用権
公営住宅の使用権は通常の賃借権と異なります。公営住宅は入居者の入居資格を審査したうえで、その者の生活のために入居を認めるもので、当然に承継するものではありません。相続人が再度、入居資格を審査されて、条件を満たせば引き続き居住することができます。
12 墓地などの祭祀承継
系譜、祭具、墳墓などの祭祀は祭祀財産といい、相続財産には含まれません。
被相続人の生前の指定か遺言で指定された者か、指定がない場合は慣習に従い、どちらもない場合は家庭裁判所に調停または審判を申し立てて決めます。祭祀財産を継承しても法律上は、相続財産の増減にはつながりません。
被相続人が祭祀継承者の指定と合わせて祭祀費用相当額の遺贈をすることはできます。
13 遺産分割後の手続き
下表は相続財産を遺産分割した後にするべき手続きです。
遺産分割後にしなければならない手続
遺産の種類 | 手続き | 手続き先 | 必要な書類 | 費用 |
---|---|---|---|---|
預貯金 | 名義変更 | 預貯金先 | 依頼書(銀行・証券会社等に備付のもの) 預金通帳 戸籍全部事項証明書(相続人) 除籍全部事項証明書(被相続人) 相続人全員の印鑑証明書 | なし |
株式 | 名義変更 | 斡旋証券会社 | ||
不動産 (土地および建物) | 相続による 所有権移転登記 | 法務局 | 土地(建物)所有権移転登記申請書 戸籍全部事項証明書(相続人) 除籍全部事項証明書(被相続人) 住民票(相続人) 固定資産税評価証明書 印鑑証明書 遺産分割協議書 | [登録免許税] 不動産評価額の 1000分の4 |
借地・借家 | 名義変更 | 地主・家主 | 戸籍全部事項証明書(相続人)除籍全部事項証明書(被相続人)印鑑証明書などを要求される場合がある | なし |
退職金 | 死亡退職金支払い請求 | 会社 | 戸籍全部事項証明書(相続人) 除籍全部事項証明書(被相続人) | なし |
動産(家具・什器・書画骨董・宝石類など) | 占有の確保 | なし | なし | なし |
自動車 | 移転登録 | 陸運事務所 | 移転登録申請書 自動車検査証 自動車税申告書 戸籍全部事項証明書(相続人) 除籍全部事項証明書(被相続人) 遺産分割協議書 自動車損害賠償責任保険証(呈示のみ) | 1両につき500円 |
貸金債権 | 相続通知など | 債務者 | 金銭消費貸借の債権者名の変更または債務 確認証をとる | なし |
売掛債権 | 相続通知など | 債務者 | 債務(残高)確認証をとる | なし |
裁判上の損害賠償請求権 | 訴訟受継の申立 | 裁判所 | 訴訟受継の申立書 戸籍全部事項証明書(相続人) | なし |
特許権・実用新案権・意匠権・商標権・著作権 | 相続移転による 移転登録申請 | 特許庁登録課 | 移転登録申請書 戸籍全部事項証明書(相続人) 除籍全部事項証明書(被相続人) | 1件につき3,000円 |
※必要な書類に変更もありえますので、手続き先に事前にご確認ください。
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- 相続税相続税について 相続税の課税財産 相続税の課税財産本来の相続財産→被相続人から相続または遺贈で取得した財産で遺産分割の対象となる。相続により取得財産 遺贈による取得財産 死因贈与による取得財産 みなし相続財産→被相続人の財産ではないが、相続税の計算上は相続財産とみなして相続税の対象となる財産。生命保険金、損害保険金(自動車事故死など)、死亡退職金のほか、著しく低い対価で財産を譲り受けたり、債務免除を受けたりし…
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「内容証明が届いた」「対立当事者に弁護士が就いた」「調停・裁判中」「調停・裁判目前」「弁護士を替えることを検討中」など、紛争性が顕在化している方は電話相談(初回15分)・メール相談(1往復のみ)・土日夜間の電話相談(初回15分)で対応します。
相続税を納める必要があり、
かつ遺産分割でもめている方は相談無料
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相続税の納税義務があり、 かつ遺産分割でもめている事件 | 無 料 | 1時間:62,000円税別 | 電話:初回15分 メール:初回1往復 土日夜間:初回15分 無 料 |
内容証明が届いた事件 | 1時間:12,000円税別 ※来所困難な方に限り、 1時間30,000円税別にて 電話相談に応じます。 | ||
対立当事者に弁護士が就いた事件 | |||
調停・裁判中、調停・裁判目前の事件 | |||
弁護士を替えることを検討中の事件 | |||
その他、紛争性がある事件 (潜在的なものも含めて) | 非対応 | ||
税務に関する法律相談 | 1時間:50,000円~税別 | 1時間:100,000円~税別 | |
国際法務・国際税務に関する法律相談 | 1時間:100,000円~税別 | 1時間:150,000円~税別 |
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内容証明が届いた事件 | 1時間: 12,000円(税別) ※来所困難な方に限り、1時間30,000円(税別)にて電話相談に応じます。 | 電話:初回15分 メール:初回1往復 土日夜間:初回15分 無 料 |
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対立当事者に弁護士が就いた事件 | |||
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