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Q52.筆跡鑑定は遺言無効確認訴訟において重要なポイントとなるか[POSTED]:2020-01-25
筆跡鑑定は意外に軽視傾向。変化するものという認識。
筆跡鑑定が遺言無効確認訴訟においてどの程度役に立つのかということについて質問を受けることがある。
その前に筆跡鑑定についての一般的な説明をしたい。
ドラマでは筆跡鑑定をかなり重要視するという話を散見する。
刑事事件でも民事事件でも。
封筒の臨戦に書かれた筆跡と、脅迫文に書かれた筆跡が一致するかどうか。
遺言に書かれた筆跡と、年賀状の筆跡が一致するかどうか。
そして筆跡について鑑定人が鑑定結果を出し、その鑑定結果が裁判の行方に決定的な影響を与える。
裁判の鍵は筆跡鑑定にあるかのような印象を与えかねない話もある。
ところが、少なくても日本の裁判において筆跡鑑定をそこまで重視されていない。
筆跡については、 一般に考えられているほどには証拠の重要性が低いのだ。
そもそも筆跡は、年齢やその時の体調によって同じ人が書いたとしてもかなり変化をする。
急いで殴り書きをした場合と、丁寧に書いた場合でもかなり違う。
そもそも筆跡は変化するものなのであるという認識が、専門家の間では一般的である。
確固たるものとして特定の人の筆跡が特定の形をしているというものではないのだ。
加えて筆跡についての専門家の鑑定も、全く違うものになることも珍しくはない。
筆跡鑑定の専門家が複数いたとして、それぞれ全く違う結論になることもある。
さらに専門家の鑑定結果については、最終的な採用を裁判官が決める。
たとえ専門家が、この筆跡は故人のものであると鑑定結果を出したとしても、その鑑定結果にとらわれずに、筆跡が個人のものではないという判断を裁判官が下すことができる。
なぜ筆跡については、裁判でもさほど重視されず、鑑定人による鑑定結果が裁判官をそこまで拘束しないのか。
筆跡は普通の日常生活で文章を書くという、極めて日常的な行為に対する評価であって、自然科学の力を借りなくても個々人が自分の評価を下すことができるものである。
形を見ても一見して違う、一見して同じである、など直感的に判断が下せる分野の問題である。
例えば DNA 鑑定のように、自然科学の特性理論の力を借りなければ、全くもって皆目検討もつかないというものではないのだ。
もちろん筆跡鑑定も、専門知識に基づく判断であることには間違いないが、日常的な所作に対する素人的判断という要素もある。
結論として、遺言無効確認訴訟において筆跡鑑定はそこまで重視をされない可能性がある、と思っておいた方が良い。
筆跡の違いだけが唯一の拠り所であるとすると、他の観点からの遺言無効が言えないかどうかということを検討するべきである。
例えば遺言能力の有無。
遺言内容による矛盾。
遺言の形式面での瑕疵。
相談者による筆跡面での指摘が遺言についての相談は極めて多いので、実務での運用について十分に理解してもらう。
遺言無効確認に止まらず、民事裁判全体において、筆跡鑑定があまり裁判官に重視されていない傾向をも理解してもらう必要がある。
ちなみに刑事裁判でも、筆跡鑑定そのものが中心的なテーマになる事件というのはあまりないと言ってよいだろう。
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